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ソマリアで、FGM(女性性器切除)当事者から話を聞いたときの話

2023年6月、ソマリアの北西部に位置する「ソマリランド」と呼ばれる地域に出張しました。

私が担当している「干ばつ危機下の子どもの教育」プロジェクトは、干ばつの影響を受けた子どもたちが就学を継続することができるよう支援する活動です。「干ばつで学校に通えない」といっても、家から遠く離れた井戸に行くため水汲みに時間がかかる、空腹で学校に行く気になれない、まだ子どもとはいえ働く必要があるから学校に通えない、早すぎる結婚(児童婚)などなど、子どもたちが、学校に行けない理由は一人一人異なります。そこで、プロジェクトでは、ケースワーカーを配置して一人一人に寄り添った支援も行いました。

とある村でのモニタリング時に、プロジェクトでお世話になったケースワーカーさん(女性)から「自分が担当している女の子の一人が、自身のFGM(女性性器切除)の経験を話してもいいと言ってくれている。ぜひ彼女の話をきいてあげてほしい。」と伝えられ、FGMを経験した女の子を訪ねることに。

学校に向かう道

FGMは、アフリカ・中東・アジアの一部の国々で行われており、世界30カ国で少なくとも2億人の女の子と女性が経験しているといわれます。FGMを受ける女の子は、2030年までに約7000万人増えるとの試算もあります。
UNICEF (2016). FGM: A Global Concern.

ケースワーカーさんに連れられ、彼女の家に到着したとき、その女の子は、ずっと下を向いていて、その指はただただ床のゴザをいじり続け、すこし不安そうな様子。

まずは自己紹介をして、「答えたくない質問には答えなくていいからね」と伝えます。そして、「どんな質問をしたらいいのかしら…」と悩んだあげく、『ケースワーカーさんからどんな支援を受けたのか聞かせてもらってもいいですか?』と私から質問する形でインタビューが始まりました。

彼女のお話はこうです。

「11歳で初潮を迎えてから学校に行っていません。なぜなら生理痛がひどすぎて、学校に思うように通えなくなったからです。でも、今年になり、ケースワーカーさんが家に来て『なぜ学校に行かないの』と聞いてくれました。生理痛について話をしたら、『それはFGM合併症によるものかもしれない』とFGM合併症を専門に診てくれる医師を紹介してくれました。そこでは無料で治療してもらうことできました。」

この地域におけるFGMは、クリトリスを切除し、経血用に小さな穴を残して膣を縫うことが多いとのこと。ただ、うまく経血が排出されず炎症を引き起こすケースも多いことが課題となっていると説明をうけました。ケースワーカーさんは、家から一歩も出ることができないほど酷すぎる生理痛の話を聞いた時すぐに「FGM合併症」が頭に浮かんだそうです。この女の子は専門医によって縫われた膣を開く手術を受けたとのこと。

ケースワーカー(奥の女性)と話をしてくれをしてくれた女の子(後ろ姿)


少しずつですが、女の子がいろいろと話をしてくれます。

「私がFGMを受けたのは9歳の時でした。事前に周りの人たちからFGMはどんなことをするのか聞いていたけど、あんなに痛いなんて聞いていなかった。」

「ケースワーカーの紹介をうけて専門医に診てもらう前にも医師の診察を受けたことがあります。けれども、その時はただ生理痛に対する痛み止めの薬をもらっただけでした。それ以降、誰にも相談していないし、相談できる人もいなかった。」

実際には、こんなスラスラとお話できず、時間をかけて、いくつかの質問にゆっくりと回答してくれる形でインタビューはすすみました。
 
最後に「将来は何になりたい?」と質問。彼女の答えは、

「今は生理が来ても、ひどい生理痛にはならない。次の学期から学校に復学します。2年ぶりに学校に行きます。それがすごく楽しみです。そして、学校を卒業したい。将来はFGMを診れるような医師になりたい。」

照れながらも、この「将来の夢」はスラスラと話をしてくれた女の子。

この話をしてくれたところで、涙なのでしょうか、彼女は目をぬぐいました。つられて私も目が潤みました。


インタビューする前は、私が話を聞くことで彼女につらい体験を追体験させるのではないか…、そもそも私自身はFGMの当事者から経験談を聞くだけの準備ができているのだろうか…、とその場で悩みこんでしまい、ケースワーカーさんさんの打診にすぐに返事をすることができずにいたら、「ぜひ彼女の話を聞いてあげてほしい」ケースワーカーさんが背中を押してきたのも、ここで合点が行きました。


「この仕事が大好き」というケースワーカー

FGMは身体的侵襲、精神的負担が大きい行為であり、その影響は長く残ることもあります。また、非常にプライベートな話であるため、積極的に誰かと共有したいトピックではないと思います。にもかかわらず、外国人の私に話をしてくれた彼女の勇気を無駄にしないために、また、ケースワーカーさんの活躍を記録するためにも、インタビューで聞いた話をここにまとめてみました。

話をしてくれた女の子とケースワーカーさんに感謝するとともに、
この女の子が学校を卒業をするときには、またインタビューさせてもらえるよう、私たちもより適切で意味のある支援を続けられるよう努力していきたいと思った6月のある日でした。

国際NGOプラン・インターナショナル、プログラム部 道山


事業についてはこちらのウェブページもご覧ください。
ソマリアの子どもたちの教育継続を支援
~干ばつ危機下の子どもの教育プロジェクト~