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継ぎ接ぎだらけのペルソナ

いつぞや突然一か月の休職をした青年が、一生懸命働いている。非常に良い笑顔。良かった、良かった。

そして、この企業内で年に1~2回Web上で行われるストレスチェックも問題なかったそうだ。

どうしてそれを知ることになったのか?と言うと、彼がわざわざ帰り際に、その結果をコピーして私に見せに来たから。

”ああ、それはプライバシーに関わることだから、コピーしなくて良いし、私に見せなくても良いんだよ。”と伝えたのだけど、どうしても大丈夫だと言うことを知って欲しい!とのこと。

結果を見て、”良かったね。でも、無理しないでね。”と言いつつ、でも、これからも人命に関わることで君が間違っていることを改めなかったら、やっぱり私は叱るからね。”と言い添えた。弱っているからとか具合が悪かったからで許されないことがあるから。

それをパワハラだと言いたくなったら、いつでも訴えてね。

すると彼は「僕はOhzaさんのせいで休職したわけではないです。実は・・・」と、過渡期には話さなかったことを話し出したので、すぐに椅子を用意して、じっくり聴くことにした。普段がバタバタと忙しいもので、ナース間では、こうして突然面談になるケースが多い。

何でも、彼の国の文化では、ネガティブなことや人の悪口は言ってはならない!と教えられているそうで、そのせいで、これまで硬く口を閉ざしていたのだと言う。

彼は、とある日本人ナースにいじめを受けていた。その30歳くらいの女性ナースの言動には、私も時折、「え?」というシーンを見かけることがあったが、仕事熱心なせいで言い方がきつくなっているだけかな?と思っていた。ましてや、私や施設長など、彼女にとっての上司を見かけると突然声音が変わり良い子ちゃんぶるので、非常にわかりにくかった。

施設長も副施設長も「〇〇さん、可愛いよね。〇〇さん、優しいよね。」と絶賛している子だった。

しかし、目の前に座っている彼が涙を浮かべながら語る真相は、女性とも人間とも思えない彼女の姿だった。そんな酷いことを言ったりやったりしていたのか?と。

そして、ごくごく少数の人たちが、彼と同じようなことを言って来たこともあったが、まさか、そこまでとは。

仕事上の付き合いなので、人柄が良いとか悪いとかは詮索しないし、人が人を裁くものではないと思う。なので、気にしないことにしていたが、この時になって思い出した。

初めて出会った頃、彼女が私に非常に攻撃的な言動をとっていたことを。ずいぶんな言いぐさと態度だった。

しかし、その内容がとんでもない間違いだったので逆に叱ったのだが、それ以来、非常に下手に出て”素直な女の子風”の言動しか取らなくなっていた。少なくとも私の前では。

つまりは、自分が弱いと思う人をとことん叩き、自分より強いと思い込んでいる相手には媚びるという、浅い芝居をする人だったのだ。薄々気付いていたのだけど、関係ないことだと思っていた。

でも、それを放置したせいで、彼のように叩きのめされている人が幾人も居たとは。

『これを話そうと思ったのは、Ohzaさんがして来てくれたことを思い出したからです。知って貰いたいと思ったからです。』

一度いじけ始めた心では、例え、仕事上で良くないことをして怒られた時であっても、”あいつがOhzaさんに僕の悪口を吹き込んで、それでOhzaさんが僕に厳しくなったんだ!”という妄想がドンドン膨らんで行ったのだと、具体的なことまで話してくれた。

『でも、僕は大丈夫だということも知って貰いたかったので、ストレスチェックをコピーして来ました!ありがとうございます!』

話してくれて、ありがとう。何とか良い職場にしていく方法を考えなくちゃね。というところで、この日の面談は終わった。


翌朝、いつものように、とある女性が、私に『おはようございまーすう~。』と語尾を長くして話しかけて来た。

仕事上の報告とプライベートを混ぜた話を、首を傾げたポーズで可愛らしく話している。

今日もいつものように、うんうんと普通に話を聴いて、普通に指示を出していたが、心の中では、”上手に人間の言葉を喋るなあ。でも、何か別の動物だな。”と思いつつ聴いていた。

人間は、時に馬鹿なこともするし、一生懸命であったり、失敗したりと、色んなことがある。でも、そこに真実の喜びと涙、喜怒哀楽がある。そこに本当(まこと)がある。

嘘の連続。影では酷いことをして、いつしか、嘘だか演技だか分からなくなった状態のまま人に好かれようとする猿芝居の目的は、いずこ?それで褒められて何が残る?

『こういうふうにすれば褒められる。こういうふうに見せれば好かれる。』と、ただ、それだけ。ちぐはぐなツギハギだらけの人物像。

少し長く接した人なら、誰もが『なんだか、気持ち悪いな、この人。』と気づく。物真似と狂気で出来ているから、時々弱い立場の人にヒステリックになってバランスを取っている。

私は、多少無様でも良いから、人間でありたいなあと思った出来事だった。

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