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レンジ「orcd」がサブスク未配信である理由と分析

皆さんは、邦楽ポップスバンドORANGE RANGE(以下レンジ)のアルバムをいくつ持っていますか。レンジは、2003年のデビューから、現時点で12枚のオリジナルアルバムを発表しました。
レンジの歴代シングル、アルバム作品は、SpotifyやLINEミュージックなどの音楽サブスクリプションサービス(以下音楽サブスク)で配信されています。しかし、唯一配信されていないアルバムがあります。

2010年10月20日に発売された、『orcd』(オーアールシーディー)なるアルバムです。この作品だけ、いまだに音楽サブスクで配信されていません。一方で、Apple Music、Amazon Musicでは配信されています。しかし、Spotify、AWA、YouTube Music、LINEミュージックなど、シェアの高い音楽サブスクでは気軽に聞けない作品となっています。現時点でこのアルバムは、新品CDか、中古市場でCDを買うか、ダウンロード配信で入手する方法しかありません。一部の音楽配信サイトから楽曲ダウンロードはできます。ただし、音楽サブスクでは聞けません。

『orcd』(2010年)
レンジが一時的にインディーズ復帰した時のアルバム。
写真はDVD付き初回盤のジャケット。

このアルバムは、レンジのアルバムのなかで、特別な背景があって、発売されました。以前のミリオンセラーを記録したアルバムと違って、収録曲は、本当にレンジが表現したいことが爆発したような内容でした。以前のレンジのアルバムとは一線を画すアルバムです。でも、ファンの間では以下の反応から、「原点回帰」と「挑戦的名盤」だと評価されています。

「昔のレンジに戻ったような自然体の作品」
「ミリオンセラーの作品と比べて、ハチャメチャな歌詞だけど、本当にレンジがしたいことが爆発したと気づくアルバム」
「自然体になって、大衆向けの制約から抜けて、今までにないジャンルに取り組んだ挑戦的名盤」

アルバムに対するレンジファンの反応

これだけ素晴らしいアルバムなのに、音楽サブスクでは聞けず、CDかダウンロードで購入すれば、聞ける状況になっています。この記事では、レンジの『orcd』がサブスクで配信しない理由を3つにまとめて、分析しました。あくまでもブリの独自研究なので、レンジ本人たちの見解とは一切関係ありません。このサブスク時代でアーティストが音楽を配信しない姿勢について、独自研究で分析しました。



◎メジャー所属しなかった状況下の作品

膨大な音楽が聞けるようになった、今日の音楽サブスク時代ですが、実はいまだに聞けない楽曲が多くあります。インディーズのアーティストは、音楽サブスク配信をしていない傾向があります。なぜなら、大手のレコード会社に所属していないので、配信を出せないのです。配信で出せない代わりに、アーティスト自身の公式サイトで限定的に販売するか、ライブコンサート会場でCDを配布しています。

『orcd』は、レンジのアルバムのなかで、特別な状況で発売されました。レンジは2003年から2010年まで所属していたソニーミュージックから離れて、2010年に自主レーベルを設立し、レコード会社に所属していない状況で、インディーズとして一時的に活動しました。2012年から、自主レーベルはビクターエンタテインメントと提携して、レコード会社を通して、アルバム作品を発売するようになりました。
(彼らがメジャーシーンからインディーズへ戻った経緯は別記事でどうぞ。)
2010年に、活動運営を整える途中で、一時的なインディーズ活動のなかで発売されたのが、『orcd』でした。このアルバムの著作権は、レンジ自身ですが、自主レーベルから発売したものです。どのレコード会社にも属していない、「自主制作盤」なのです。この特別な状況から発売したので、音楽サブスクで配信しないことになったと思われます。

音楽サブスク配信は、個人でできそうなことですが、いまだに大手のレコード会社に限定された配信環境です。
一方で、レコード会社に所属しているアーティストのなかには、インディーズ時代に発表した楽曲を配信しているところがあります。レンジの作品には、メジャーデビュー前に発売されたミニアルバム『オレンジボール』、シングル『ミチシルベ』が、ダウンロード配信されています。これらは、発売当時は沖縄限定で流通して、メジャーデビュー後に全国流通で再発売されました。しかし、これらもいまだに音楽サブスクでは聞けません。これらは、後の代表曲『キリキリマイ』と『ミチシルベ~a road home~』の元になったデモです。若き彼らの荒い勢いをこめた作品なので、興味ある方は聞いてください。

オレンジボール、デビュー前のレンジのミニアルバム
ORANGE RANGE『オレンジボール』(2002年)
全国流通盤のジャケット。
ORANGE RANGE『ミチシルベ/ミッドナイトゲージ』(2002年)
インディーズ時代の両A面シングル。
メジャーデビュー後にシングル曲
『ミチシルベ~a road home~』として再録された。


◎聞きたい人だけに購入をうながす姿勢

レンジはソニーミュージックに所属していた間、6枚のオリジナルアルバムを発表しました。ギターロックの枠にとらわれずに、幅広いジャンルを展開して、邦楽ファンに広く支持されました。ミリオンセラーとなったアルバムから、次第に自身の成長とともに、かつてのギターロックから離れていき、現代的なエレクトロニカ作風が強まっていきました。進歩は良いですが、次第に進歩は停滞していくことがあります。レンジは人気バンドとなった自身の存在に対して、不安を抱えて、自身をプロデュースしたいと思うようになりました。停滞前に初心に戻ることは大事です。レンジブームが落ちつき、レンジ自身は本当にしたいこと、今後の活動方針について、新たな体制作りを行うことに決意しました。それで、メジャーシーンでの活動に区切りをつけました。

『orcd』のCD発売前に、一部の楽曲を音楽配信として発売したミニアルバム『ordl』(オーアールディーエル)が出ました。CD発売前への宣伝として、レンジにとって、当時は新たな試みでした。当時の邦楽界ではまだ、音楽ダウンロード配信が進出したばかりだったからです。
レコード会社を通さずに発売されたこのアルバムは、レコード会社のもとで制作された以前のアルバムと比べて、表現の制約にとらわれない世界観となりました。制約がなくなったゆえに、メジャーシーンでは禁忌として扱われる、日本の社会問題について描いた楽曲があります。こういうものを不特定多数に聞かせたくないゆえに、音楽サブスクに出さないのではないかと考えました。「聞きたい人だけ買って聞いてください」という意図ではないかと思われます。
でも、そこまで真剣な作風ではありません。以前のレンジと同様に、ギャグあふれる独特なジャンル展開した曲があります。強烈な思想を含んだ作品ではありませんのでご安心ください。


◎CDとして作品を表現したい意図

音楽サブスクで、インディーズ所属のアーティストが積極的に配信しない理由があります。それは、「CDとして作品を表現したい意図」があるからです。確かにデジタル媒体は、物理的空間を使わずに、手軽に扱えるものです。しかし、デジタル媒体へ変わった代償で、アーティストが表現したいものが失われました。それは歌詞カード、ジャケットの仕掛け、ディスクのデザインといった、形として表現したいものがなくなりました。

『orcd』のDVD付きの初回盤は、殺風景なピンク色の不透明のCDケースになっています。どうしてアルバムの顔であるジャケットが一切ないのか、ケースを開けてから、気づきました。「ORANGE RANGE」と書かれた色鮮やかな文字とロゴマーク、スピーカー、蝶々のシールが付属していました。これは、リスナーに「自由にジャケットを作ってください」というものだと考えました。ピンク一色のケースに、シールや落書きを自由に描くことをうながすアーティストの想いを感じました。「ジャケットデザインが面倒だから、あなたがアルバムを聞いて感じたイメージをジャケットにしてください」という意図にも解釈しました。もしそうでも、非常におもしろいと感じます。アーティストとデザイナーだけでジャケットを作り出し、リスナーが一切、創作に介入しない状況だったメジャーシーンと違って、リスナーが自由に創作する余地を作った姿勢に感心しました。

『orcd』付属シール。リスナーが自由にジャケットを作る遊び心を感じる。

今日の邦楽界で、楽曲が音楽サブスク配信となって、物理媒体を所持する習慣が減りつつあります。デジタル媒体になったことで、物理媒体の質感も、紙の光沢も、形にした作者の意図も、失われました。音楽は、統一された電子データになりました。SNSでアーティストとリスナーが直接、コミュニケーションを取る手段が広まりました。しかし、物理媒体を通して、リスナーに音楽に伝えたい手段をとることが減りました。アルバムが発売された2010年当時、SNSが発展途上だった状況で、レンジはこういう形でリスナーが作品の一部に参加をうながす意図を感じました。今思うと、今日の邦楽界で広まる、リスナー参加型企画を先取りした手段です。


◎アルバムとして聞いてほしい姿勢

アルバム作品の定義は、5曲以上の複数の楽曲として成り立っています。『orcd』は、ボーナストラックのリミックス楽曲を除いて、12曲収録されています。アルバムを音楽サブスクで配信しない理由は、アルバムとしての楽曲構成が崩れてしまうのを避けていると思われます。音楽サブスクの聞き方は、アルバムのコンセプトの意味を変えました。楽曲を個別で聞く習慣が増えたため、アルバム1枚分をじっくり聞く習慣が減りました。アルバムとして数曲も発表するのではなく、配信シングル1曲だけで発表するアーティストがいます。
歴代レンジのアルバムでは、最高19曲、最長1枚に70分の時間で、収録されていたことがありました。彼らは当時の勢いで、大量に楽曲を作り、厳選して、できるだけ多く収録しました。彼らの多彩な音楽をこめた、濃厚なアルバムになりました。次第に活動を重ねていくと、長すぎず、まとまって、聞きやすい収録楽曲数にしていきました。邦楽界で音楽CDの売上が低下してきてから、どのアーティストでも、アルバムの収録数、収録時間が次第に減りました。リスナーの聞き方が変わって、簡潔に手軽な時間と数で、アルバムを構成するようになりました。


◎まとめると未配信の表現かもしれない

以上、レンジのアルバム『orcd』が音楽サブスクで配信されない理由を、ブリなりにまとめました。
「未配信」である状況は、アーティスト自身の表現の一つだと思われます。作品として表現したい意図は、音楽サブスクに合っていないと感じて、アーティストは配信しなかったと考えました。
一方で、大手レコード会社が独占している音楽サブスク環境で、いまだにインディーズの作品が不便な入手状況にあるのは、もったいない気がします。
このレンジのアルバムを手軽に聞ける手段が少ない状況ですが、もしどこかでCDを見かけたら、ぜひ手にしてください。現時点でプレミア化していませんので、手軽な値段で入手できます。欲しい場合は、合法の音楽配信サイトで購入してください。

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