見出し画像

コロナ禍における看護職のメンタルヘルスの今〜ひっ迫する医療現場で見過ごされる「看護職のメンタルヘルスの危機」とは〜

株式会社Plusbaseは、世界メンタルヘルスデー(World Mental Health Day)である2022年10月10日に合わせて、「コロナ禍の看護職のメンタルヘルスの今〜ひっ迫する医療現場で見過ごされる看護職のメンタルヘルスの危機〜」をテーマに、産業医の室井慧氏と株式会社Plusbase Co-CEOのWim.サクラ氏をお招きし、看護師のメンタルヘルスの現状について勉強会を開催しました。

室井氏は精神科医および複数の事業所で産業医としてしながら、筑波大学大学院博士課程に在籍し、労働者の睡眠と看護師のメンタルヘルスについて研究を行われています。また、日本産業衛生学会若手優秀演題賞、日本産業衛生学会新型コロナウイルス関連セッション優秀演題賞など数多の賞を受賞され、優秀な成績を残しておられます。

Wim氏は、過去の挫折から心理学を学び、看護師・認定心理士として働く人のこころの支援を行い、株式会社Plusbase Co-CEOであり、看護職向けメンタルサポートサービス「ナースビー」を開発されています。また、社会課題の発信など数々の活動が評価され、「女性リーダー支援基金〜一粒の麦〜」の対象としても選定されています。

そこで今回は、室井氏とWim氏の視点から、コロナ禍における看護職のメンタルヘルスの実態、それに対して実践できるケアなどについてお伺いしました。

▶︎医療従事者のメンタルヘルスの実態とは?

メンタルヘルス不調は、医療従事者の人材不足の原因となる大きな社会問題となっています。ここ数年、精神障害による労災の申請件数が日本で圧倒的に多いのが、「医療・福祉業界」です。医療従事者はメンタルヘルス不調から現場を離れる数がどの業界でも多く、社会問題でもある人材不足につながっています。
さらに、名古屋大学の急性期病棟看護師54%が抑うつ傾向症状を抱えているといった研究結果もあるように、看護師は労働負荷の変動も大きく、メンタルヘルスの領域ではハイリスクグループに分類されています。

名古屋大学の研究
平成22年度厚生労働省報告書

そんな中、新型コロナウイルス感染症の入院患者や医療崩壊などで看護師の過重労働が浮き彫りとなり、社会的にも看護職のメンタルヘルスについて関心が高まるようになりました。この2年間、休むことなく、新型コロナウイルスに対応してきた医療従事者の負荷は高まる一方です。
流行初期から、新型コロナウイルスの診療にあたっている聖路加国際病院の医療従事者のバーンアウトについての調査によると、第1波のときに、バーンアウトした看護師は46%で、「看護師」が1番多かったという結果が出ています。
さらに、日本だけではなく、世界中でも医療者の精神的負荷についてのデータが出ています。イギリスの最新の調査によると、ICU(集中治療室)で働く医療従事者は新型コロナウイルスの影響によってPTSD(心的外傷後ストレス障害)と思われる症状を経験しており、そのストレスレベルはアフガニスタンで戦った兵士たちと同程度とものと発表しています。

聖路加国際病院の医療従事者のバーンアウトについての調査
イエール大学公衆衛生大学院の研究者らによる2021年の調査

次に、看護職特有のメンタルヘルスの不調要因についてです。もちろん、新型コロナウイルスの感染リスクへの恐怖なども挙げられますが、それ以外にもたくさんあります。例えば、夜勤などの交代制勤務は看護師の23人に1人が過労死の危険レベルに相当するといわれていたり、人間関係ではセクハラが11.6%、パワハラが29.0%受けたことがあるといったことも明らかにされています。
さらに夜勤や人間関係だけでなく、命に関わる仕事内容が、命を背負った業務を支えるための業界独自のルールや閉鎖的な空間を生み出し、看護職のメンタルヘルスに影響を及ぼしています。

次に医療現場のメンタルヘルスの取り組みの状況についてお話しします。医療機関の9割以上が、産業医の設置、ストレスチェックの実施、高ストレス者への面談を実施していると回答しています。医療従事者自身の健康管理やメンタルヘルス対策を最優先に取り組みたいと考えている医療機関は8割を超えているが、弊社が実施したアンケートによると、現場の医療従事者は「効果を感じていない」「制度を知らない」「使いづらい」といった声があげられていました。その結果、産業医の設置やストレスチェックの実施などは形だけの政策になりやすく、現場の方々に届きづらいといった現状もあります。要因としては、産業医は院内の医師であるため、身内であり、相談しづらいといった医療機関ならではの課題も挙げられています。

さらに、日本では予算など行政の取り組みに看護職のメンタルヘルスの支援が具体的に取り上げられていません。諸外国の事例をみてみると、2021年にスコットランドの政府が医療従事者向けにメンタルヘルス支援金として、日本円で約15億円の予算を投下するなど実例があります。日本のメンタルヘルスにおける認識の低さは以前から指摘されていたのですが、コロナ禍において、看護職のメンタルヘルスケアが十分に提供されていないことによって、働くことが困難となり、現場の人手不足に繋がっています。
このように、看護職のメンタルヘルスの問題は医療現場だけでなく、全国民にとっても問題になってきます。

▶労働者のメンタルヘルスの4つのケアとは?

職場のメンタルヘルスケアに関しては、厚生労働省が作成する「職場におけるこころの健康づくり」という指針に示されているメンタルヘルスケアです。これらは、次の4つのケアで成り立っています。これらが継続的かつ計画的に行われることが重要です。

1つ目は「セルフケア」です。労働者自身がストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解があり、ストレスチャックなどを活用したストレスに気づくことができ、対処することができることを意味しています。

2つ目は「ラインによるケア」です。ラインとは上司や管理者をさします。つまり、上司や管理者が部下に対して、ケアをするという考え方です。管理者が職場環境の把握や改善、労働者からの相談対応、職場復帰における支援などあります。

3つ目は「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」とは、職場の産業保健のプロとして、具体的なメンタルヘルスケアを実施する企画立案、医学的な助言、事業場外資源とのネットワーク形成や職場復帰の支援を行います。

最後に4つ目の「事業場外資源によるケア」とは、事業場外にある地域保健機関などの公的なサービスや民間のサービスを利用することでメンタルヘルスケアすることを意味します。4つを実践することが大切です。

▶︎産業保健として医療現場が実践できる4つのケアとは?

―「セルフケア」とは

「セルフケア」とは、労働者自身が自らのストレスに気づいて対処することです。セルフケアにおいて大事なことは、自分で自分の状態を観察できるようになること、つまり、セルモニタリングです。このセルフモニタリングが上手くできるようになると、周囲のストレスに対する体調の変化を把握し、それに応じて対処行動ができるようになります。例えば、精神的に緊張すると頭痛するタイプの人であれば、頭痛があると「いま緊張しているんだな」「疲れているんだな」と自身の症状に気づき、早く休もうと自分のセルフケアの対処行動ができるようになります。そのため、セルフケア・セルフモニタリングを培うことが大切です。

―「ラインケア」とは

管理監督者である上司が部下の体調や勤務環境の把握をし、改善を促すことである。医療従事者、特に看護師の特徴は自分自身が周囲に助けを求めることに消極的な傾向があります。そのため、上司の存在は大きいです。健康状態やパフォーマンスを把握し、部下の存在を見守るケアが大切です。室井氏によると、特に管理者側は率先して、部下に声をかけることをしてほしいとのことです。

では、どのように声をかけたら良いのか?何に着目すべきか?
1番大切なことは、「いつもと違う」という部下の変化に気づき、声をかけることです。サインとは、遅刻や欠席が多くなるといった勤怠の乱れや仕事のパフォーマンスの低下、インシデントの増加、服装の乱れなどが挙げられます。こうしたサインが見られた際に声をかけるポイントとしては、きちんと眠れているのかなど睡眠、ご飯は3食とれているかなど食欲、きっかけもなく不安やドキドキすることはないかなど気分など人間的に重要な特徴です。

―「事業場内産業保健スタッフによるケア」とは

事業場内にいる産業医、心理士、リエゾン専門看護師などのメンタルヘルスの専門家による面談のことです。これらの資格を持った方々は、体調の様子や業務内容を評価し、万一、復職した際の復職支援などに役立ちます。しかしながら、中小規模の病院ですと、十分に産業保健スタッフがリソースされていないかもしれません。その場合は、日本看護協会のメンタルヘルス相談窓口や厚生労働省の「こころの耳」を参考にしながら、病院内で進めていくことが大切です。

厚生労働省「こころの耳」

―「事業場外資源によるケア」とは

こちらは、リソースが限られている場合に外部の公的な資源や民間のEAPといわれる従業員支援プログラムなどを活用して支援していくことです。特にアメリカでは、EAPといわれるプログラムがたくさんあり、労働者のメンタルヘルス対策で活用されています。医療従事者は、内部の医療従事者に助けを求めることに抵抗があるため、外的な支援が重要になってくると考えられます。また、室井氏によると、このように外部の支援をスタッフに上手く伝えるためには、ポスターによる情報周知や口コミ(特に新人看護師に有効)などがポイントになるとのことです。

▶︎看護職個人が実践できるケア

  1. 看護職個人が実践できる「セルフケア」
    メンタルヘルス不調の定義とは、精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある、精神的および行動状の問題を幅広く含むもの(厚生労働省による「労働者の心の健康保持増進のための指針」)と言われています。つまり、労働者の生活に何らかの影響を与えるような問題は全般的にメンタルヘルス不調です。メンタルヘルス不調への誤解がまだまだあるのが現状です。ストレスが過多な状況下では誰でもなる可能性はあります。看護師個人がメンタルヘルス不調を防ぐには、以下の3つポイントがあります。

厚生労働省による「労働者の心の健康保持増進のための指針」

① ストレスに気づき対処する力をつける 
 →セルフケア・セルフモニタリング(自分の心の状態に気づく)

【セルフケアの例】
・リラクセーション ・笑う ・ストレッチ ・適度な運動 ・快適な睡眠 
・親しい人たちと交流 ・仕事から離れた趣味を持つ ・専門家への相談 
※ストレス解消の誤解:喫煙・飲酒 (あまりお勧めできません)

② メンタルヘルスについて学び、理解する
 →どんな不調・症状があるのか、どう対処していくのか知識を深める

③ 相談先があることを知る 
 →身の回りで話を聞いてくれる人はいるかなど

2. 看護職個人が実践できる「外部によるケア」
社内に相談窓口がない場合または相談しづらい場合、次のような相談窓口があります。

【相談窓口】
・専門相談機関・相談窓口  ・全国医療機関  ・サポートサービス
・働く人の「こころの耳メール相談」  ・働く人の「こころの耳電話相談」  

仕事に関する悩みからキャリアに関する悩みなど窓口は様々で利用しやすいものとなっています。それ以外のサポートサービスとして、カウンセリングや弊社が開発するNursebeなど第三者の民間のサポートを活用していくことが大切です。大切なことは、1人で悩みこまないことです。

▶︎ナースビーについて

私たち株式会社Plusbaseが運営する看護師向けメンタルサポートサービスナースビーは、看護師1人ひとりのこころを守る様々なコンテンツをWeb上で提供します。上記の記載にもあるようなセルフモニタリングやセルフケア、意思決定サポートなどをオンラインで提供していきます。看護師特有の悩みに合わせたセルフモニタリングの視点や働く看護師の人生に寄り添えるようなサポートをさせていただくサービスをリリースする予定です。公式LINEにて先行登録受付中です!

▶︎一般の方にお願いしたいこと

①基本的な感染対策の徹底
医療従事者の最大の支援は感染者を減らすことに間違いはありません。医療機関への負担を軽減させるためにも、室内でのマスク着用、3密を避ける(特に職場での休憩時間や会食)、こまめに手洗いをするなど基本的な感染対策を徹底していただきたく、思います。

②医療従事者の方々へのサポート
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、20.5%の看護職員が差別・偏見が「あった」と回答し、差別・偏見の内容は、「家族や親族が周囲の人から心無い言葉を言われた」と答えた方が27.6%でした(日本看護協会)。医療現場だけでなく、家庭でも拠り所がなくなると、医療従事者は益々疲弊してしまいます。ぜひご協力をお願いいたします。

③外部支援機関のご紹介
今回紹介させていただいた外部支援機関のご紹介やナースビーの拡散にもご協力いただけますと幸いです。

▶︎お問合せ先

疑問点や取材のお問合せに関しましては、お気軽に下記メールアドレス(本社窓口)にご連絡ください。

本社総合窓口:info@plusbase.jp

株式会社Plusbase
〒150-0044 東京都渋谷区円山町5番地5号Navi渋谷V3階
代表 Wim.サクラ / 氏家好野


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?