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【Public Notes】なぜ日本には34歳の首相が生まれないのか

【Public Notes】とはミレニアル世代のシンクタンクPublicMeetsInnovationがイノベーターに知ってもらいたいイノベーションとルールメイキングに纏わる情報をお届けする記事です。

 突然ですが、昨年12月に第46代フィンランド首相としてサンナ・マリン氏が就任しました。日本でもその年齢(34歳!)で大きな話題になったため、まだ記憶に新しいかと思います。
 このニュースを受けて、「日本は遅れている!」「文化の違いだ!」と言うのは簡単ですが、なぜそれが実現できているのかその裏にはどういった理由があるのかという視点で解説している記事はほとんど見かけなかったように思います。

 何でもかんでも若ければいい!というわけではありませんが、シルバー民主主義と言われて久しい今、若いリーダーに新たな風を期待する人も少なくないでしょう。また、テクノロジーを始め急速に移り変わる社会情勢に政治家が対応しきれていないのも事実です。

 そこで、本記事では、実際日本が他国と比べてどれほど政治の高齢化が進んでいるのかいくつかデータも参照にしつつ、若いリーダーが生まれている国とそうでない国の間にどういった違いがあるのか考えてみたいと思います(今回は、選挙によって国会議員やリーダーが選ばれている世界16か国を対象に調査をしました)。
 長くなってしまったので、時間がないという方は各グラフとまとめだけでもご覧いただければ幸いです。

まとめ:なぜ日本には34歳の首相が生まれないのか

(ig)なぜ日本には34歳の首相が生まれないのか

Key Findings
☑ 日本のリーダーは世界的に見てかなり高齢。
☑ リーダーの平均年齢が60歳を超えている国は日本、韓国、イタリアのみ。また、日本の若い国会議員の割合は、韓国、アメリカに次いで下から3番目
☑ 議院内閣制の国では、若い国会議員の割合が高ければ高いほどリーダーの平均年齢は基本的に若い
☑ 各国の特殊事情(政治情勢や外圧など等)を受け、突発的に極端に若いリーダーが生まれることがある。
☑ 様々な観点から、特に日本と韓国は若者の政治へのチャレンジ促進が非常に弱い国と言える。若い国会議員を増やしていくためには、被選挙権年齢の引き下げ若年層投票率の向上選挙に伴う金銭面・仕事面でのリスクの低減比例代表制へのシフト等が有効な手段として考えられる。
選挙制度はリーダーの年齢そのものにも直接影響を与えている可能性があり、かなりクリティカルな要素と考えられる。

1.UNDER40ばかり!?世界の最年少リーダーたち

 まず、いわゆるリーダーと呼ばれる人たち(ここでは基本的には大統領または首相を想定しています)の年齢分布について調べてみましょう。どれくらい各国で違いが出るのでしょうか。

図1

※各国HP等を参考に筆者作成(2000年以降の各国リーダー(首相または大統領)の就任時年齢から算出)
※半大統領制を採用しているフランスについては大統領、イタリアについては首相の年齢で算出

 2000年以降に誕生した各国リーダーの就任時の年齢分布を国別に表したのがこちらです。
 まずはちょうど真ん中に来る人の年齢を表した中央値(グラフの箱の中の数値)を見てみましょう。何となく想像はしていましたが、予想以上に開きがあることが分かります。最も中央値が高かったのは韓国(64.0歳)、次いで日本(62.5歳)、最も中央値が若かったのはスペイン(45歳)、ついでオランダ(46歳)カナダ、アイルランド、フィンランド、スウェーデン(いずれも47歳)が続きます。
 一方、平均値で見ると(グラフ中折れ線グラフ)、フィンランド(46.1歳)が最も若く、続いてNZ(47歳)となっています。一方、平均値が最も高かったのは変わらず韓国(64.0歳)、次いで日本(62.38歳)となっています。
 意外にも、実は日本よりも韓国の方がリーダーの平均年齢が高いようです。ちなみに韓国、2000年当時大統領を務めていた金大中氏(74歳で就任)から始まって、その後57歳、66歳、67歳、61歳、59歳、64歳とかなり高齢の大統領が相次いで就任しています。一方、例えば最も平均年齢の若いフィンランドを見ると、48歳、48歳、42歳、40歳、46歳、54歳、57歳、34歳とほぼ40代が首相を務めています。

 続いて各国が輩出した最年少リーダーも見てみましょう(縦棒の最も下の値をご覧ください)。実はフィンランドの34歳首相というのが、世界的には決して特異ではないということが分かります。
 NZ(アーダーン大統領、37歳)、オーストリア(クルツ首相、31歳)、アイルランド(バラッカー首相、38歳)、イタリア(レンツィ首相、39歳)など数多くの国が、30代後半のリーダーを生み出しています。
 一方で、最年少リーダーが50歳を超えているのは、日本(ちなみに2000年以降の我が国の最年少リーダーは2006年に52歳で就任した安倍総理)、韓国(57歳)、それからドイツ(51歳)です。ちなみにドイツは、メルケル首相が長期安定政権を築いておりサンプルが少ないため、実質日本と韓国のみが50歳以下のリーダーを輩出できていない国となります。
 なお、最年少リーダーの年齢と年齢の全体分布を見比べると、全体分布に比して極端に若いリーダーを輩出しているイタリアとオーストリアを除き(この二か国はあとで個別に考えます)、基本的に両者の間には一定の比例関係があるように見えます。言い換えると、世界的に若いリーダーを生み出している国は総じてリーダーになる年齢層が低いということが言えそうです。

2. こんなに少ない!?日本の若い国会議員

 さて、こうした若いリーダーが生まれる背景に何があるのでしょうか。
 それを考える前に、「そもそも政治家全体で若い人がどれくらいいるのか?」を考える必要があります。なぜなら、(あとで詳しく述べますが)議院内閣制においてはリーダーが国会議員の中から選ばれるため、そもそも母集団の年齢層が重要になってくるからです。
 ということで、リーダーの年齢比較に続いて、国会議員全体の年齢の比較もしてみたいと思います。残念ながら各国の国会議員の平均年齢はデータとして見つけられなかったのですが、Inter Parliamentary Unionという団体が2018年に発行した「Youth participation in national parliaments(若者の国会への参画)」というレポートにおいて、国会議員のうち45歳以下が占める割合の比較があったため、そちらを参照します。なお、二院制を敷いている国については、下院(日本でいう衆議院)での割合を引用しています。

図2

※「Youth participation in national parliaments」(Inter Parliamentary Union, 2018)より筆者作成

 リーダーの年齢が国によって大きく異なることはすでに述べた通りですが、そもそも国会議員の年齢層自体もずいぶん差が開いています。
 45歳以下の割合全体で見たとき、最も割合が低いのは韓国(6.33%)アメリカ(14.25%)日本(22.15%)の三か国が占める一方、最も割合の大きいオランダに至ってはなんと半分以上の55.13%を45歳以下が占めており、その他リーダーの平均年齢の低いフィンランドやオーストリアといった国々も約半数を45歳以下の国会議員が占めていることが分かります。
 また、30歳以下に限ってみれば、最も割合が高いのはスウェーデン(12.32%)、続いてオーストリア(8.74%)であり、国会議員のうち約1割を20歳台が占めていることになります。 

 どこまでを若手として括るかは難しいところですが、ここでは45歳以下国会議員割合の値を使いたいと思います。45歳以下国会議員割合とリーダーの平均年齢を指標において各国をプロットしてみると以下のようになります。

図3

 こう見比べてみると、面白い特徴が見えてきます。
 まず、若いリーダーを生み出している国ほど若い国会議員が多いという関係性が見えてきます。一方で必ずしもそれだけでなく、若い国会議員が同じくらいいたとしてもリーダーの平均年齢に差が出ていますし、45歳国会議員が多い割に極端にリーダーの平均年齢が高い国もあります。
そこで、これら16の国を大まかに以下5つのカテゴリーに分類してみました。
国会議員に若い人が多く、リーダーも若い国:フィンランド、スウェーデン、オランダ
国会議員に若い人は多くないが、リーダーは若い国:NZ、スペイン、アイルランド
国会議員に若い人は多いが、リーダーは高齢の国:イタリア(ただし最年少は39歳)
国会議員に若い人は多くなく、リーダーも若くない国:オーストリア(ただし最年少は31歳)、フランス、オーストリア、イギリス、ドイツ、カナダ
国会議員に若い人が少なく、リーダーも高齢の国:韓国、日本、アメリカ
 

 これらの国にはどういった違いがあるのでしょうか。議員やリーダーがどのように選ばれるのかを考えつつ、その違いを探ってみたいと思います。


3. 国会議員の年齢を決める6つの視点

 まずは分かりやすい国会議員の選び方から見てみましょう。なぜここまで若い国会議員の割合に差が生じるのでしょう。
(1)選挙権年齢
 ご存じの通り、国会議員は選挙によって選ばれます。選挙が人が人を選ぶ制度である以上、どんな人(選挙権)がどんな人(被選挙権)を、どんな仕組みによって選ぶか(選挙制度)という基準があります。まずは分かりやすいところから攻めていきましょう。年齢です。
 まずは、何歳から投票できるか、つまり選挙権年齢を見ていきます。必ずしも若い人が若い人を選ぶわけではありませんが、より自分に近い利益を代表する若い国会議員に投票する可能性が高いとすると、若い選挙権年齢を設定している方が若い国会議員が多い可能性はあります。

選挙権年齢

※「諸外国の選挙権年齢及び被選挙権年齢(国立国会図書館調査及び立法考査局)」を参考に筆者作成

 ご覧の通り、一部の例外(オーストリアは16歳、韓国は19歳)を除き実はほぼ全ての国が18歳を採用しています。我が国でも2016年に選挙権年齢が18歳に引き下げられましたが、実はそれでようやく国際スタンダードに追いついた状態。
 いずれにせよ、選挙権年齢そのものは国によってそこまで大きな違いはないと言えそうです。

(2)被選挙権年齢
 続いて被選挙権(何歳から立候補できるか)はどうでしょうか。若い人に国会議員への門戸が開かれていれば開かれているほど、若い国会議員の占める割合が高くなる可能性はあります。
※ 上院と下院(日本でいう衆議院と参議院)で被選挙年齢が異なる場合は両方の年齢を記載しています。

被選挙権年齢

※「諸外国の選挙権年齢及び被選挙権年齢(国立国会図書館調査及び立法考査局)」を参考に筆者作成

 被選挙権年齢は国によってかなりばらつきが見受けられます。
 ご存じの通り日本は衆議院が25歳、参議院が30歳ですが、世界的に見るとかなり高い方。フィンランドやオランダを含むおよそ半数の国で被選挙権年齢は18歳に設定されており、少なくともカテゴリー①(フィンランド、スウェーデン、オランダ)カテゴリー②(NZ、スペイン、アイルランド)の被選挙権は18歳か21歳のいずれかです。
 一方、45歳以下国会議員割合の少ないカテゴリー⑤(韓国、日本、アメリカ)はいずれも被選挙権年齢が高めに設定されています(なお、イタリアは上院の被選挙権年齢が40歳と非常に高いのですが、今回引用している45歳以下国会議員割合は下院に関するデータなので直接の関係はありません)。
 被選挙権が18歳だからといって実際18歳からすぐ立候補、とはいかないようですが、例えばオーストリアの最年少首相となったクルツ氏は、16歳で国民党の青年支部に参加し、21歳で同代表として活動するなど、政治にかかわる年齢が全体として低いことは若いリーダーを生む一つの要因なのではないかと思われます。

(3)高齢化率と若年層投票率
 (2)で選挙権年齢はほぼ全ての国で18歳と言いましたが、同じ選挙権年齢を設定しているとは言え、どれほどの若者が、どれくらいの割合で投票に行っているかは別問題。
 そこで社会の高齢者割合(=高齢化率)若年層投票率を国別に比較してみたいと思います。

 まずは高齢化率から。社会の中に相対的にお年寄りが多ければ、自分たちの利益を代表する同じく高齢の国会議員を選出するかもしれないし、そもそもデモグラフィー上国会議員の世代別割合に違いが生じる可能性もあります(データは様々な統計をまとめているglobal noteから引用しています)。

図6


global noteを参考に筆者作成

 左から順に高齢化率の高い国を並べていますが、45歳以下国会議員の割合はてんでバラバラ。残念ながら、本データからは、両者に特段の相関関係は読み取れませんでした。
 高齢化率の高いイタリアやフィンランドでも多くの若い国会議員を輩出していますし、全体として見ればむしろ高齢化率の高い国ほど45歳以下国会議員の割合が高いようにも思えます。要するに、「高齢化が進んでいるんだから(政治家が高齢になるのは)仕方がないよ」という言い訳は通用しないということです。
 なお、この理由としては、①高齢者も若年層候補者に投票している、②そもそも中高年層の立候補者が少ない、③高齢化率の差が投票結果に差を及ぼすほど大きくない、などが考えられるかと思いますが、これ以上の分析が困難のためいったんここで打ち止めにしておきたいと思います。

 続いて若年層投票率の差を見てみましょう。少々古いデータですが、OECDが2011年に報告した高齢層(55歳以上)と若年層(16歳~35歳)の投票率の差を参考にしたいと思います()。

高齢層と若年層の投票率の差

※「Society at a Glance 2011」(OECD)を参考に筆者作成
※高齢層の投票率-若年層の投票率で算出(正の数値は高齢者の投票率の方が高いことを意味する)

 最も高齢層に比べて若年層投票率が低いのはイギリス(38.18%)、続いて日本(25.2%)という結果が出てきました。(なお、イギリスは2010年以降劇的に若者の投票率が改善しているため、現在の順位は異なる可能性があります)。一方、イタリア(-3.51%)オーストラリア(-0.35%)では、高齢層よりも若年層の投票率の方が若干上回っています。
 これだけだと分かりにくいので、今回出てきた若年層投票率と45歳以下国会議員割合を比較してみました。

図8


 ご覧のとおり、下に行けば行くほど(若者と高齢者の投票率が近ければ近いほど)45歳以下国会議員の割合は多くなっています。
 両者の関係を分析すると、多くの国はおおむね弱い負の相関関係上にあり(R=-0.45、イギリスを除くとR=-0.53。0.5を超えているとやや相関が強いとご理解ください)、若年層投票率の高さと45歳以下国会議員割合が一定程度関係しているということが言えそうです。
 ただし今回の分析からは、若年層投票率が高いから45歳以下国会議員が多いのか、45歳以下国会議員が多いから若年層投票率が高いのかは必ずしも判然としません。個人的には、双方が双方に影響し合っているようにも思えますが、いずれにせよ我々がアプローチできる若年層投票率が重要なファクターの一つであることは間違いなさそうです。

(4)選挙にかかる費用
 ここまで、主にどんな人が選挙に行くかという観点でデータを比べてきましたが、そもそも「どんな人が選挙に出るか」という観点でも比較していく必要があります。
 実際に自分が選挙に出るとなったとき、真っ先にぶつかる課題とは何でしょうか。家庭や時間などいろんな回答がありそうですが、まず想定できるのがお金です。選挙にお金が掛かればかかるほど、たとえ被選挙権が若く設定されていても、原資のない人は選挙に出るのが難しくなります。
 そこで、各国で選挙にどれほどお金が掛かるのか比べてみましょう。実際に選挙全体でどれほどのお金が掛かるのかを国別で比較したデータは見つかりませんでしたが(ちなみに日本では、衆議院選挙で1億円程度と言われています)、いわゆる供託金(選挙に出るために最低限必要になるお金)で比較したとき、結果は以下のようにとなります。

供託金

※「社会実情データ実録」、wikipedia等を参考に筆者作成

 この通り、約半数程度の国がそもそも供託金制度を設けておらず、残る国でも多くは20万円程度と比較的低い金額に設定しています。一方で、日本、オランダ、韓国の3か国の供託金は100万円を超えています。
 なぜ日本でここまで多額の供託金が求められているのでしょうか。調べてみたところ、昔選挙妨害のためだけに多数の候補者を擁立した時代があり、(候補者の名前が一郎、二郎…と機械的に名付けられていたため、背番号候補と呼ばれていたらしい)、候補者乱立を防ぐことが目的の第一にあるようです。とは言え、他国と比べて明らかに高額なことも事実。供託金が若者の選挙立候補の足かせになっている側面は否定できないように思います。
 なお、オランダの供託金が高いにも関わらず45歳以下国会議員割合が高い理由を調べたところ、オランダの150万円という金額は政党が払うものであり、個人が負担するものではないとのことでした。したがって、実質的に日本と韓国のみが個人に対して多額の供託金を求めている国になるようです。
 供託金のみで選挙に掛かる費用を語るのは少々乱暴ですが、日本と韓国が様々な観点で若者にとって政治にチャレンジしにくい国になっている、ということは言えるのではないかと思います。

(5)仕事を辞めるリスク
 お金と合わせて若者が選挙に出る障害になるものとして、仕事が考えられます。政治家という職種が選挙によって選ばれる不安定なものである以上、そこには失業というリスクが伴います。スイスのように職業政治家を否定し、政治家の労働時間の一部を自分のビジネスに充てるようにしている国もありますが、仕事を辞めて国政を志すとなると、どの程度社会がチャレンジへのリスクを緩和しているかが重要なファクターになるのではないかと思います。
 そこで、デンマークの政治経済学者のトーベン・イヴェルセンという方がまとめた各国の雇用保障と失業手当の充実度の比較を参考に、何か相関関係があるのか見てみたいと思います。

図10

Research Gateより引用

 横軸は雇用保障(右に行くほど強い)、縦軸は失業手当の充実度(上に行くほど充実している)を表しています。右上に行けば行くほど社会のリスクヘッジが充実している国と理解いただければと思います。例えば、アメリカは雇用保障が弱く失業手当も充実していない国、日本は、雇用保障はしっかりしているが失業手当は充実していない国となります。
 今回比較している16の国全てが出てきているわけではないですが、45歳以下国会議員割合が上位に来ているオランダ、スウェーデン、フィンランド、オーストリアといった国々は、いずれも右上に位置する、つまり社会のリスクヘッジが充実している国と言えます。

 また、社会のリスクヘッジに合わせて、雇用の流動性も見てみましょう。雇用流動性が高ければ高いほど、今の仕事を辞めることに対するハードルが低く、政治に参画しやすいと言えるかもしれません。
 少々古いデータですが、45歳から54歳の成人に対し「今の雇用主の下で働き始めた年齢」を聞いているOECDのアンケート調査(PIAAC, 2012)をまとめたものがあります(社会教育学者の舞田敏彦氏作成)。直接雇用の流動性を表しているわけではありませんが、今の雇用主の下で働き始めた年齢が高ければ高いほど、雇用流動性が高いと言える可能性はありそうです。

図11

 例えばNZであれば、45歳から54歳の労働者のうち半数以上が、40歳以上で今の雇用主の下で働いています。一方、最下位となった日本は、40歳以上で今の雇用主に雇用された割合は25%程度に留まり、むしろ25歳未満が半数近くを占めます。要するに、新卒で入った会社からそのまま40過ぎまで働き続けている方が半分近くいるということです。
 ご覧のとおり、最下位は確かに日本ですが、一方で韓国は非常に雇用流動性が高かったり、45歳以下国会議員割合の多いフィンランドやオランダもそこまで雇用流動性が高くなかったりと、必ずしも若い国会議員の割合と雇用流動性の間に強い関係性があるようには見えませんでした。
 ここで考えられる仮説としては、雇用の流動性に関わらず、社会のリスクヘッジが充実していること(北欧諸国のように福祉政策が充実している国)が若者の国政へのチャレンジを後押ししているということが挙げられるのではないかと思います。

(6)選挙制度
 最後に比較したいのは、各国で国会議員を選ぶ選び方に違いがあるのか、言い換えると選挙制度に違いがあるのかという点です。
 一般的に選挙には大きく分けて、多数代表制比例代表制という二つの手法があります。簡単に解説しておきましょう。
 多数代表制とは、「選挙区内で最も多くの票を獲得した候補者が選挙区内の議席を獲得する制度」のことで、日本でいう小選挙区(各区で一番得票数が多かった人が当選)がこれに当たります。
 比例代表制とは「各党の得票に応じて議席を配分する制度」のことを意味します。比例代表制の中にも様々なやり方がありますが、例えばA党の得票数が80%、B党の得票数が20%だった場合、その割合に応じて議席が割り当てられる仕組みがあります。
 これら二つの制度は選挙結果にも様々な差をもたらしますが、その一つとして少数派の意見がどれだけ反映されるかという点が挙げられます。
 多数代表制の場合、選挙区内で多数票を得た候補者が当選するため、それ以外の候補者は全員落選、言い換えると死票が多くなります。一方で比例代表制だと、仮に得票数が一位になれなかったとしても、その割合に応じて議席をもらうことができます(N国党が当選できたのは比例代表制の賜物だと言えます)。結果、小さなアジェンダ(NHKをぶっこわすなど)でも全国で一定数仲間を集めることが出来れば国会に人を送ることが出来るため、少数派に有利であるとともに、政党が出来やすくなると言われています。
 長くなりましたが、要するに高齢化が進む先進国において、相対的に少数派となっている若者世代の国会議員割合は、多数代表制よりも比例代表制の方が高いのではないかという仮説が成り立ちます。
 そこで、実際に各国の選挙制度と45歳以下国会議員割合を比較してみたのがこちらです。なお、混合制とは多数代表制と比例代表制を組み合わせた制度を言います。

選挙制度

※「諸外国の選挙制度(国立国会図書館、2011)」を参考に筆者作成

 予想以上に大きな違いが選挙制度ごとに生まれています。特にオランダ、スウェーデン、フィンランドを始めとする45歳以下国会議員割合の高い国は軒並み比例代表制を採用しています。
 選挙制度ごとの45歳以下国会議員割合の平均値も比較してみました。

図13

 ご覧の通り、比例代表制における45歳以下国会議員割合が圧倒的に高いことが分かります。
 なお、今回のデータでは混合制が多数代表制よりも下回る結果となりましたが、混合制の中にも多数代表制寄りの国と比例代表制寄りの国があるため、この結果は国の組み合わせによって変動し得ると思われます。

(結論)なぜ若い国会議員が多いのか
 ここまでいくつかのデータを通じて、若い国会議員が多い国は何が異なるのか比較してきました。非常に多様な要素が絡んでおり、変数同士の関係や寄与率まで明らかにできていませんが、少なくとも、
・被選挙権年齢
・若年層投票率
・供託金の金額
・社会によるリスクヘッジの充実具合
・選挙制度(多数代表制か比例代表制か)

は、若い国会議員が占める割合に影響を及ぼしていると言えそうです。
 なお、私見ですが、この中でも特に選挙制度は若い国会議員を増やすうえで非常に重要なファクターだと思っています。というのも、仮に被選挙権年齢が引き下げられたり、供託金の額が減額されたりしたとしても、そもそも若年層が当選できる余地がない限り若年層の立候補は意味をなさないからです。その点、(ハードルの高さはあるものの)選挙制度とは制度を変えるための制度。もし選挙制度を変えることができれば、そこから様々な政策に反映させていくことが出来るのではないかと考えます。
 特に小選挙区制を採用している我が国は、各選挙区から基本的に一人しか当選できないため、その地域のマスを押さえることが決定的に重要になります。そうすると、相対的に割合の高い高齢者層や地盤を有する組織票を取り込むことが必要になってくることから、自然と若者や多様なニーズへの配慮が弱くなる傾向があります。
 一方で、第二順以降も当選できる比例代表制だと、多数代表制に比べて少数派を取り込みやすくなります。結果、より社会的弱者に配慮した仕組み、つまりは社会福祉が充実するとも言われており、まさにスウェーデン、フィンランドといった社会民主主義国家はこの典型的な例です。
 選挙制度は極めて政治的なものであり、比例代表制は比例代表制で連立が多く安定性に欠けるなど欠点はありますが、若者を含む多様な意見を取り入れた国会運営を目指すという観点から、議論していく価値のあるテーマではないかと考えています。

4. 若いリーダーが生まれる国に共通していること

 それでは、ここからは本題の「なぜ若いリーダーが生まれるのか」について考えてみたいと思います。
(1)議院内閣制と大統領制
 その前に、(前半で少しばかり触れましたが)「議院内閣制」と「大統領制」の違いを押さえておく必要があります。なぜなら、いずれに属するかによってリーダーの選び方が大きく異なってくるからです。
 議院内閣制とは、「リーダー(首相)を国民が選出した国会議員の中から国会の議決によって指名する」仕組みです。国会議員がリーダーを選ぶため、国会議員で形成する議会(立法権)と首相を中心に形成する内閣(行政権)の両方を多数派(与党)が押さえることができ、権力が集中しやすいという特徴があります。また、内閣が議会の信任によって成り立っているため、議会は内閣を辞めさせる(不信任決議)ことができ、内閣は議会を解散させる(解散権)ことができます。
 一方大統領制とは、「リーダー(大統領)を議会とは別に国民が直接選ぶ」仕組みです。大統領は議会から独立して存在しているため、議会には基本的に大統領を辞めさせる権限は存在しません。また、大統領にも議会を解散させることができません。
 なお、多くの国はこのいずれかに該当しますが、ごく一部例外として「半大統領制」というものが存在します。これは、議院内閣制をベースにしつつも大統領がいるというレアなケースで、イタリアやフランスが当てはまります。
 そこでもう一度、2.で示したリーダーの平均年齢と45歳以下国会議員割合のプロット図を見てみましょう。今回は各国が議院内閣制、大統領制、半大統領制のどれに該当するのか色分けしてみました。

図14

(a)議院内閣制
 このように見ると、実は多くの国は議院内閣制を採用していることが分かります。大統領制はアメリカと韓国、半大統領制がイタリアとフランスくらいで、それ以外は全て議院内閣制となっています。
 基本的に議院内閣制は、国会議員の中から首相を選ぶため、若い国会議員の割合がリーダーの年齢に影響を与えやすいと考えられます。実際、議院内閣制の国だけで比較すると、45歳以下国会議員の割合と指導者の平均年齢の間には高めの相関関係が出てきました(R=-0.63)。若い国会議員の割合とリーダーの若年化には一定の関係性があると言えそうです。

 なお、ここで一つ見ておくべき国があります。オーストリアです。冒頭見たとおり、オーストリアのリーダーの平均年齢は50.17歳とそこまで若くはありません。ところが、2015年に突発的に世界最年少31歳のクルツ首相が誕生しました。ここにはどういった経緯があったのでしょう。
 こちらの記事に詳しいですが、オーストリアでは、クルツ首相率いる中道右派の国民党と中道左派の社民党が長らく大連立政権を維持してきました。ところが、2015年に難民危機がオーストリアを襲い、伝統的な政権運営で対応できなくなってきたとき、救世主として現れたのがクルツ氏でした。
 難民受け入れに対する厳格な態度を始め、右寄りの政策を進めてきたクルツ氏は、「新」国民党の顔として注目を集めることとなります。クルツ氏に対して批判的な党の高齢幹部もいたそうですが、選挙で勝つためには若いクルツ氏の力が不可欠だったとのこと。加えて2007年の選挙法改正で選挙権が18歳から16歳に引き下げられたこともクルツ氏の躍進に拍車をかけます。結果2017年の選挙で国民党は第一党となり、クルツ首相が誕生することとなりました。
 つまり難民危機という外圧によって変革の波にさらされた伝統的な政党が、変革のシンボルとしてまつり上げたのが若くカリスマ性のあるクルツ首相だったと考えられます。

(b)大統領制
 一方、大統領制の国においては、基本的に議会と切り離されて大統領が選出されるため、直接的に45歳以下の国会議員割合とリーダーの年齢が結びつくわけではありません。実際こうして表に落とし込んでみるまで、突発的に若いリーダーが誕生している国の多くは大統領制の国だろうと思っていました。
 しかし実際は両者に相関関係があるように見えます。これは、結局大統領になろうと思うと、政党からの公認をもらい大統領候補として認めてもらう必要があるため、若い国会議員の比率の影響を一定程度受けていることが原因ではないかと考えられます。

(c)半大統領制
 半大統領制は国によって形が少しずつ違いますが、例えばフランスの場合、首相は一般的に与党から議会の信任を得て任命される一方、大統領は国民による選挙によって選ばれます(したがって、首相と大統領が別の政党になることもあります)。今回はより対外的に存在感のある大統領の年齢で比較しています。
 一方、イタリアも半大統領制の国ですが、大統領は存在するものの権限が強くないことから、一般的には議会の信任を得て選ばれる首相の方が政治的に重要とされています(今回は首相の年齢で比較しています)。
 そして実はこの国、かなり特殊です。これまで見てきたとおり、イタリアは45歳以下国会議員割合が高い一方で、リーダーの平均年齢も高い特殊なカテゴリー③に位置付けられています。そう思いきや、何と過去には39歳の極めて若い首相も誕生しています。いったい何が起きているのでしょうか。
 実はイタリア、非常に政治が不安定な国として知られています。いくつか理由はあるのですが、上院、下院が対等であり、首相は両方から信任を得ないといけないこと、長らく与党を担ってきたキリスト教民主党が1994年に解党したことなどから、なんと2000年以降だけで9人も首相が交替しています。首相の年齢が相対的に高いのは、政党間の複雑な連立を成立させる必要があることから、政治家の中からあまり角が立つ(リスクのある)人事を取りにくいのが理由にあるのではないかと考えられます。
 そして、イタリアの制度がユニークなのは、何と首相を民間人(非国会議員)から選ぶことが出来るという制度があるのです。大統領が各政党と協議の上任命するようですが、政治の空白を避けるため過去4人もの民間人首相が誕生しているとのこと。そのうちの一人が、2014年に若干39歳で首相に就任した元フィレンツェ市長のマッテオ・レンツィです。レンツィ氏は、33歳でフィレンツェ市の市長に当選し、その後党書記長に高い支持を受けて選ばれるなど、若手のエースとして頭角を現していました。
 このように、イタリアが若い国会議員が多い割に首相の年齢が高い一方、非常に若い首相が誕生しているのは、混乱した政治情勢と独自の制度が背景にあるものだと考えられます。

(2)選挙制度はリーダーの年齢にも影響するか
 最後に、45歳以下国会議員が同程度いる国でも、リーダーが若い国とそうでない国があります(カテゴリー②とカテゴリー④)。ここには、3.で見た選挙制度が影響しているのではないかと考えられます。まずは(1)のプロット図に、さらに選挙制度による分類も加えたものをご覧ください。

図15

 指導者の平均年齢が低い国のほとんど(カテゴリー①、②)が比例代表制を採用している国によって占められているのが分かります。これはどういった理由によるものなのでしょう。
 繰り返しになりますが、多数代表制と異なり、比例代表制では得票数によって議席が割り振られます。すると、小さな政党であっても一定の得票数を得ていれば議席を国会で確保することができるようになるため、多党化が進むと言われています。一方多数代表制の場合、選挙区内で得票数の多い政党に議席が集中するため、結果的に大きな政党のみが生き残る、言い換えると二大政党制に近づいていくとされています。
 つまり、多数制の場合、与党と野党第一党が肥大化していくため、党内の層が比例代表制に比べて厚くなり若手に十分なチャンスが回ってこない。一方で、比例代表制の場合、比較的小さな複数の政党が連立与党を形成するため、年齢の若い党首が首相に就任できる可能性が高くなるのではないかという仮説が考えられます。
 実際、フィンランドの34歳首相サンナ・マリン氏が率いるフィンランド社会民主党は、与党とは言え国会での議席占有率は20%で40議席、アイルランドの38歳バラッカー首相が率いるフィナ・ゲールは約30%で50議席に留まっており、日本に比べて与党が小さいということが出来ます(自民党の議席占有率は60%で284議席)。

おわりに

 以上、なぜ日本に若い首相が生まれないのかという疑問を様々な角度から検討してきました。 
 今回のリサーチでは、若い国会議員の割合に影響を与えていると考えられる各要素が互いにどのように関係しているのか、実際に政党内でリーダーがどのように選ばれているのかという個別具体的な論点まで踏み込んで検証することはできていません。
 また、若者が政治に参画しにくいこととアジアの文化がどのように関係しているのか(儒教の影響など)、フィンランドなどの若い政治家が生まれている国で政治家を辞めた後のセカンドキャリアはどうなっているのかなど、今後検討する価値のありそうなテーマがまだまだあるのも事実です。
 事実誤認の指摘やリサーチデザインの提案含めて、ぜひご意見・ご感想いただけますとありがたいです。

 今回の分析が次世代の政治運営につながっていく端緒になれば大変うれしく思います。



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Public Meets Innovation 理事 田中 佑典

1989年奈良県生まれ。京都大学卒業後、総務省入省。長野県、外務省での勤務を経たのち、総務省において、シェアリングエコノミーの社会実装をはじめとする人口減少下の持続可能な社会を実現するための企画・立案に従事。現在、米国コロンビア大学修士課程に在籍中(公共政策学)。2019年世界経済フォーラム Global Shapersに選出。

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