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サラメシ時代

NHK「サラメシ」は好きな番組のひとつです。
とにかくやたらテンションが高い中井貴一さんのナレーションがいいですね。
テンションの高さでは、ジャパネットCMの塚本慎太郎さんと双璧です。
普通の職場のサラメシ(サラリーマンの昼メシ)に加えて、時事ネタ系サラメシ(新入社員の昼メシだったり、サッカーワールドカップ担当シェフの賄いメシだったり……)が加わり、かつ、「へえ、こんな仕事あるんだ!」系職場の昼メシなど、多種多様でとっても興味深い!

中井貴一さんといえば、映画「記憶にございません!」の首相演技が素晴らしかった!

さて、私の勤めていた会社にはいわゆる社員食堂があり、会社が昼食代を半額補助することもあり、さらに、近くに外食もコンビニもないため、9割以上の社員が利用していた。
入社当時は地元に密着した給食会社が調理・配膳を担当していたが、間もなく食材高騰などでギブアップし、大手に交代した。
交代したとたん、定食の種類が増えただけでなく、かなり味も良くなった。

「いや、会社のメシって美味しいね!」
ある時そう言っていたら、同僚♂がこぼすのです。
「ボクもそう思うんだけど、ウチでうっかりそう言ったら、カミさんに『そんなこと他所で言わないでよ。家でロクなもの食べさせていないみたいじゃないの!』って叱られちゃいましたよ」
少し前の時代で、この人は社内結婚して、奥さんは寿退社後、専業主婦になっていました。
偏差値の高い国立大学理系学部を卒業した優秀な女性で、彼女の寿退社を知った上司が、
「勿体ない! むしろ彼女が残ってくれた方が会社にとって有益なのに……」
とぼやいていたほどです。
でも、おそらくは子供の頃から成績優秀で万事完璧にこなしていた彼女は、自分自身が勤務していた会社で、夫が、
「社食美味しい!」
と口走るのは、専業主婦としての評価に関わる、と眉をひそめたのかもしれません。

「うーん、会社で食べる昼メシは、急いで食べる朝メシとも、ビール飲みながらの夕メシとも違うんだけどなあ」
社食を美味い美味いと食べていられれば、それはとってもハッピーなことではないか、と思うのだけど、人はそれぞれ大切にしているプライドがあるのでしょう。

ところどころにお櫃が置いてあり、ノロウィルスが問題になるまでは、各人でご飯をよそう方式でした。

6人掛けのテーブルにひとつの割合で、お新香が3種類ぐらい盛り付けてある皿がありました。
しかし、節度をわきまえず、その半分以上をひとりで分捕るヒトもいました。
また、その共有皿のお新香に、ドバドバと醤油をかけるヒトもいました。
「大皿のから揚げにいきなりレモンを絞ってかける事案」が社会問題!になったことがありましたが、同類です。自分の持っている文化が世界共通だと信じているわけです。
目の前で醤油ドバドバをやられて怒っていた人もいましたが、これもむしろ集団生活ならではの「観察ネタ」として、私はひそかに悦んで眺めていました。

お新香とご飯をひとり占めしてカラにしても、顰蹙は買うけれど、糾弾されるほどではないな、などと考えているうちに、こんな小説ネタも浮かぶというものです:
(映画のパンフレットに使いました)

海老フライを尻尾から食べるヒトを見た時には衝撃を受けました。大げさですが、常識を根底から覆されました。
(……このヒトは海老の肉よりも尻尾の方が好きなのだろうか?)
あまりに気になったので、次に同席した時に尋ねてみました。
「── あ? そうだった? いや、たぶん、何も考えずに食べていたんだと思う。尻尾を残すことはしないから、どうせ全て胃の中に納まるわけだ。だから、1/2の確率で現れた事象をキミは目撃したに過ぎない」
この人はその会社のトップ研究者のひとりだったので、
「スゲー! 海老の食い方なんて小さなことにはこだわらないんだ!」
とほとんど感動しましたね。同時に、海老は肉の方から食べるもの、と「妄信」していた自分を小さく感じたくらいです。

たまに、女子社員のテーブルに行って、エロトーンの混じったバカ話をかましたりしていましたが、彼女たちはきっと、心中イエローカードを出していたのでしょうね。
「その話、ひとつ間違ったらセクハラですよ」
「Pochiさん、笑ってるからって、ウケてると思ったら大間違いですからね」
女子社員はいつも同じ顔ぶれで食べているので、「暗黙の領域テリトリー」を侵さないように気を遣う。
昼休みぐらい気楽な仲間と一緒にいたい、というのはわかるけれど、毎日同じ相手で話題が尽きることはないのだろうか? 「刺激」より「平穏」を望んでいるのだろうな。

ある時期、経営企画のリーダに指名され、若手数人と会社の方向性を立案する機会があった。それぞれ日々の業務があるので、15分ほど早く食堂に行って、昼メシを食べながら議論することにした。いわゆるパワーランチですな。
この時、会議室に缶詰よりも、オープンスペースでサラメシながらの方が、何より楽しいし、アイディアも浮かぶ、ということを学びました。

「サラメシ」には育ちとか人生観が現れる。
リタイヤした今だからこそ、「サラメシ」番組を見て、「サラメシ時代」を懐かしく思うのでしょう。

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