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雪舟のはなし

テレビで東福寺を見ていた。

25ある塔頭のひとつ芬陀院は、雪舟が作った庭があることから、雪舟寺と呼ばれているという。

ふと、子どものころ母が話してくれた雪舟の物語を思い出した。

修行中の幼い少年雪舟が絵ばかり描いているので、怒った和尚さんが雪舟を柱に縛りつける。
雪舟は悲しくなって涙がぽたりぽたり、その涙を足の親指につけてネズミの絵を描く。
どうしているか気になった和尚さんが見にいくと、雪舟の足元にネズミがいて…、というお話だ。

寝る前に母が話してくれる物語が、雪舟が涙を落とすところにくると、決まって私は布団の中でシクシク泣いたらしい。

なんとなく、かすかに、覚えているような気がする。

泣いてしまうくせに、また話してほしいと母にせがんだと聞いた。

そしてまた泣く、の繰り返し。

大人になってからは誰も信じてくれないけれど、本当に泣き虫で、引っ込み思案で、思ったことを言えない子どもだった。

母は厳しくて叱られるたび泣くのに、寝る前のお話は好きだった。

いろんな話をしてくれたはずだけれど、雪舟の話だけを覚えている。

「私、雪舟の話のいつも同じところで泣いてたんだよね」そんなことを話せる母はもういない。
あのころのことを一緒に思い出せる人は誰もいないんだと思ったら、少し切なくなった。

秋はおばさんもセンチメンタルになるらしい。

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