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熊谷和徳 「表現者たちーLiBERATiON」覚書

ダンスを見た感想を言葉にするにはどうしても無理がある。
それでも言葉にして残しておきたいと思う作品に出会うことがある。
この試みは2度目。
今回は覚書という形でここに残しておく。

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2021年10月1日金曜日。
赤煉瓦倉庫1号館にてタップダンス公演・熊谷和徳「表現者たちーLiBERATiON」が催された。
タップダンスの第一人者が、日替わりのゲスト達とともに作品を作るプレミアムな公演。
1日のゲストは辻本知彦と平原慎太郎。

公演は四部構成。ゲストは第3部で共演する形。

■舞台上の構図

舞台は赤レンガの壁面を背に、平均台のようなタイプのタップボード(タップを踏む床)、そしてフロアランプ、植物、ツリーチャイム、そしてメインのタップボードが配されている。
舞台美術としてはシンプルだが、室内のようなイメージを感じさせる。

■1. PRAYER - 夜明け

まず冒頭は熊谷さんのソロ。
至近距離で改めてタップを見ると上半身と下半身が全く別の動きをしていることに気づく。上と下が普通の人のように連動しない。下半身はタップを刻むが、上半身は静かに淡々としているのが対象的。
身体全体を改めて眺めると、静と動を一人の肉体で体現していることがわかる。この二層性が他のダンスにはない独特の深みを一人の肉体で生み出す。
その姿は湖面を統べる精霊のような趣すらある。人間の域を超えた動きが余計にそう感じさせてくれる。

■2. WE HEAR WE DANCE

続いて、男女二人によるタップ・セッション。谷口翔有子さんが舞台上に登場する。

谷口さんのリードに熊谷さんがさまざまなビートでアプローチを試み、それがある瞬間つながって、二人の音が一気に重なる。
他者へなかなか近づけないもどかしさ、それがあるから分かり合えた瞬間、喜びが爆発する。

また、二人の刻む音はよく聴くと微妙な差異がある。熊谷さんの音の方が低く、重い音。谷口さんは軽やかな高音のイメージ。このようなところにも男性性、女性性の特性が生かされているのか。

演舞中、贅沢にも敢えて眼を閉じてみた。音に集中すると互いの個性が感じられて、これもまた良い。

■3. PLAY WITH MY FRIENDS

ここでゲストの二人が登場。
まず、平原慎太郎さんが登場しソロを舞い、続いて熊谷さん、最後に辻本智彦さんが登場。

ゲスト2人のコンテンポラリーダンスは何度も拝見しているが、改めてメインで踊っているのを観ると平原さんが野生的、辻本さんは流線的で両者好対象な振付で魅せてくれる。
その対象的な2人と熊谷さんのタップ。舞台上で3人の個性がぶつかりあうのだが、タップの動きをゲスト2人が自らの動作へ落とし込むことで、3人の舞が見事なまでに調和を果たす。
この一連のプロセスは思い出しただけで鳥肌が立つ圧巻のパフォーマンスで、自由にのびのびとした3人が心から踊ることを楽しんでいるのが観ているだけで伝わってきた。

■4. LiBERATiON -

ラストを締めくくる舞踏は、壇上の背景になっている赤レンガに映像を投影しながらの舞になる。
背景はNYの街並み?ライトで熊谷さんの影を映像に重ねる演出が冴える。一歩一歩、街々の景色を踏みしめながらの、ドラマチックな終演。

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傑出した芸術は予備知識を必要とせず、観客を惹きつける。名画がキャプションを必要としないように。


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