母からの宅配便

昨日は夫の誕生日だった。

慣れないメニュー作りにわたしが台所で四苦八苦していると、ピンポーンとチャイムがなって、荷物が届いた。わたしの実家の母から。

おそらく誕生日に間に合うようにと、前日指定で届けられた宅配便。その日は不在で受けとれずに、再配達で当日に受けとったのだ。

夫へのプレゼントにと送られてきたのは、コーヒーミル。

箱を開ける前から伝票の表示を見て「おぉー、ナイスセレクトだよ」と言っている夫をみると、たぶんほんとうにそう思ってくれたのだろう。別にそうでもないときは絶対に、そんなコメントは言わないひとなのでわかる。

そっか、コーヒーミルかあ。なるほど。やるなあ、母よ。

まんざらでもない夫の横顔をみながら、妻はそんなことを思っている。

* * *

実は事前に母からLINEで、わたしや本人に、「プレゼントに何か欲しいものないかしら?」と聞かれてもいた。

でも夫は物欲があるタイプじゃないし(ガジェット類はのぞく)、結局「おまかせします」と判断をゆだねていた次第。

さあ何を選んでくれたのかな、デパートの紳士服売り場で小物かなにかかしら……?と無難な想像をしていたら、届いたのは服飾雑貨ではなくコーヒーミルで、やられた、と思った。

私よりよほど少ないインフォメーションの中から、「夫さんは何が好きかしらねえ」と思いをめぐらせ、そうだコーヒーは好きって言ってたわよね、でもあの家、コーヒーミルはなかったわねえと考えて、いろいろ探してくれている母の姿が思い浮かぶ。

実際、夫は「コーヒー豆、すでに挽いてあるの買うと風味落ちちゃうってのは知ってても、まあいっかーっと思ってなんとなく過ごしてたから、プレゼントとしてもらうとまさに、うれしいよね」と言っていた。

うん、わかる。

わたしもプレゼントは「自分じゃ買わないけれど、もらったらうれしいもの」が一番うれしい、と思うので、言わんとすることがとってもわかる。

“あったらいいなあ、ちょっとほしいなあ。でもまあ、なくても困らないし、いっか……”。必需品ならば自分でも買うので、自分がだれかの誕生日プレゼントを選ぶときも、そんなせまい範囲になるべくささればいいな、と思って品定めをする。

ふうむ。母よ、今回は大正解チョイスだ。

当日、ばたばたしながら結局必需品に近いポジションのチェックシャツを2着買ってきた妻としては、複雑ではありつつも、なんとなくその敗北感を気持ちよく味わっていた。

ああ、やっぱり母にはかなわないなあ、なんて。

* * *

ダンボールの中にはちゃっかり娘用のシールブックも入っていて、娘はさっそくぺりぺりシールを剥がして遊んでいた。

「きっと孫ちゃんは、何が出てくるかと興味津々でのぞきこみながら、一緒に荷物あけるでしょうね」という母の想像力を、そんなところからもちゃんと感じとってしまう。わたしもおとなになったものだ。

そして極めつけは、「粉末にぼし」と「乾燥刻みゆず」である。

夫宛にはお祝いのメッセージカードが、娘宛にもひとことお手紙が入っていたけれど、わたしには無言で、粉末にぼしと乾燥刻みゆず。実にいいじゃないか。

実はこの2つの商品は、この前実家にいったとき、わたしがえらく感動していた商品である。

ふだんはお味噌汁のだしをにぼしでとっているのだけれど、だしがらを捨てるのはもったいないし、食べるにしても飽きるし、一時期は佃煮にしていたけれどめんどうくさいし……と思っていた。かといって、できれば子が小さいうちは、顆粒だしじゃなく天然ものを使いたいのよねと。

そんなときに実家へいって、出てきたお味噌汁をみて「だし何でとってるの?」と聞いたら、添加物なしで、にぼしだけを粉末にした商品を使っていて、そのまま汁といっしょに飲んでしまうという。わあめっちゃいいじゃんそれ。

よし帰ったら即買おう!と意気込んでいたものの、なんと近くのスーパーには全然ない。しょんぼり。あーあ。

……なんてことを、別に母に報告したわけではない。わたしがしたことは、ただ実家にいたときに「へぇ。いいねーそれ。帰ったら買おうっと」とさらり、話したくらいである。

乾燥刻みゆずもそんな感じで、たとえば浅漬けとか、お吸い物とかに、パラパラっと手軽に入れてゆず風味が味わえるという商品を実家で使っているのをみて、「へー、これいいねえ」と軽くつぶやいた、その程度である。

もう、そんなつぶやきを、ほんとうによく、おぼえてるんだから。

ダンボールから何の説明もラッピングもなしに、どん、と出てきた粉末にぼしと乾燥刻みゆずを見ながら、わたしはまた、何度でも思う。

母よ、あなたにはどこまでもかなわない。

わたしもいつか、そんなふうになれますか。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。