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むすめ2歳の入院日記(11)術後8日目

9月5日(木)

朝6時過ぎ、看護師さんが入ってきた気配で起きる。

昨日、朝まで便が出ていなかったら浣腸しましょうと言われていて、やはり出ていないので、体重測定の前にやりましょうと言われる。ようやくまどろみの中から起きた娘。しばらくして「おちゃ、のむ」と言うので、水分をとらせる前には体重測定をしなければならず、さらに今日は体重測定の前に浣腸をしなければならないので、看護師さんを呼ぶ。

起きて早々、お尻から薬を注入されて泣き叫ぶという目覚め。眠り薬を入れるときと同じように泣き暴れるのだけれど、浣腸の場合は、これで便が出れば本人のお腹もすっきりするしなあ、と思って見ているので母の気持ちは楽。ご機嫌斜めだった娘も数分後、「うんち、でた」とケロッとした顔で言う。オムツを替えて、計測に行き、記録。そして体重測定へ。

心電図モニターの機器をポシェットで自分の肩にさげたお出かけスタイルで、もう普通に歩けるようになった娘。さすがに踊ったり早歩きする元気はまだないようだけれど、とりあえず普通に歩いている姿を見るのはとても嬉しいし、頼もしい。

部屋に帰って、お絵かきしたりして遊ぶ。汽車や工事現場用の車のおもちゃとコラボして、スケッチブックにクーピーで線路や踏切、道路、工事現場の風景もどきを描く。その紙の上で汽車を走らせ、工事現場で土の積み下ろしのまねっこをして遊ぶ。土砂のかわりに、紙を小さくちぎってみた。

朝のおやつはヤクルト。

10時過ぎ、プレイルームへ行ってみる。アンパンマンのカップを重ねたり、マグネットの魚釣りをしたり、木製の線路を組み立てたり。11時、手遊びの時間がはじまるころにちょうど夫方のばあばが面会に来てくれ、部屋に戻って遊ぶことにする。

その後はまた「ばあば、えほん、よんで」や「かみしばい、よんで」とおねだりして、いつものフルコースを遊んでもらう。

昼食が運ばれてきて、ばあばに食べさせてもらう。スープがなくて残念だったけれど、炊き込みご飯で食べやすかったのか、8割ほどよく食べた。缶詰のフルーツらしき桃とパインをご褒美用に残しておくすりタイムに挑んだものの、薬を飲み終えるとフルーツももう食べず。お腹がいっぱいになったのかな。

昼食後、しばらくしてレントゲン。自分たちで外来の階に降りて、受付。娘もさすがに慣れたもので、動じずに完了。ちょうど病棟へ戻るときに、もうひとりのばあば(私の母)が荷物を届けに来てくれていたので受け取る。

レントゲン以降は特に検査もなく、遅れてきてくれた夫方のじいじもあわせて、娘はたっぷり遊んでもらう。

15時のおやつは牛乳とミルク寒天。

その後、部屋でシャワー。あいかわらず、シャワーに誘うと「いや」という。心電図のシールを剥がしたり、透明なシートを貼っているとはいえ自分の傷が無防備にさらされることがいやなのかもしれない。服を脱がされるのを嫌がる。なんとかシャワー室に入ると、シャワーを浴びているときはおとなしい。シャワー室で遊べるおもちゃ、何か持ってくればよかったなあ。

シャワーを出て、保湿を塗ってひと段落。じいじに絵本を読んでもらっているうちに「いや、いや」といいはじめ、眠気が限界な雰囲気。バトンタッチして添い寝し、絵本を数ページ読んだら一瞬のうちに寝た。昨日と同じパターン。外はいきなりの夕立ち。

17時過ぎごろ、内科医師の訪問あり。明日以降、利尿剤も1日2回に減らしていけるかもとのこと。少しずつ減ってきて嬉しい。レントゲンは明日も入れようかなと言う。「レントゲンは毎日撮っているのだけど、どんなことを見ているんですか?」と聞いてみる。術後心臓のまわりに水が溜まって大きくなってきたりしていないかをチェックしているそう。その会話の流れで「まあ今日も撮ったから、明日じゃなくてもいいかな」と情報が更新された。

これに限らずいろいろなシーンで、素人には情報が降りてこなくてわからないことも多いけれど、聞いてみるとちゃんと説明してくれたり、気になっている問題がちょっと解決したりするので、聞いてみるに限る。

夕食前にじいじ・ばあばは帰り、わたしは眠る娘の横で日記を書く。

ここ数日で、一気に回復傾向が見られて親も子も気持ちが落ち着いてきた。PICU3日目あたりが親子ともに気持ちのピークだったなと、振り返って思う。病棟に移ってきた初日の夜はまだ、娘もストレスが積もっていてまったく眠れていなかった。ここ2日ほどで笑顔もよく見られるようになり、歩くようになり、夜もぐっすりと眠れるようになって嬉しいなあと思っていたけれど、あの娘の「うつろな目」が、まだ1週間も経たない数日前のことなんだなと思うと不思議な気持ちになる。

少しずつ元気になりつつある娘を目の前にしていると、早くもそれが当たり前になりつつあって、いろんなことを忘れそうになる。

夜、添い寝しながら「娘ちゃん、元気になってきてうれしいよ。いっぱい、がんばったんだもんね。えらかったね。ひとりのときも、たくさんたくさんがんばったから、ちゃんと元気になってきて、えらかったね」と話して、頭をなでる。娘はそれまでとはちょっと違う真剣な目をして「うん」と言っていた。そうだよ、わたし、いっぱいがんばったんだよ。

予想はしていたけれど、やっぱり娘が回復してくると、以前からできていたことはすぐに「当たり前」になってきて、ひとつひとつの感謝が薄れてきてしまう。今はそれでもまだ、病院内で生活しているから、笑顔が見られることに感謝したり、歩けることに感謝したり、手を握ったり、横で眠れることに感謝したりをできるけれど。退院してからも、イライラしたりカッとなってしまうとき、ただ普通に暮らせることが、ただ一緒にいられることがどのくらい幸福なのか、思い出せるように意識していたい。

術後1週間を過ぎ、幸い経過は順調で、入院生活の山場は越えた印象。それでも退院時期についての具体的な案内はまだなく、終わりも見えず。あとは日々の検査や経過観察をつづけながら、たんたんとここでの日常を送ってゆく心づもり。

(つづく)

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。