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類は友を呼ぶ職場

数十人の応募者からたった一人の採用枠を私は勝ち取った。
入社して一か月がたとうとしているある日「上っ面だけの人たちの集まりだな、この会社は」そんなことを思いながら一日の勤めを終え家路についた。

職場の人たちの名前を間違えないよう気をつけなくてもスムーズに口から出るようになったし、それぞれの人の性格ややり方がわかってきた。私はのみこみが早いようだ。人にも仕事にも慣れてくると回りを冷静に見る余裕がでてきた。

私は難関を突破して入っただけある。我ながら思った「私って覚えが早いわ。仕事できるわ。回りからの評価もいいはずだわ」そう思うと自信がわいてきた。
もっと仕事を覚えたい、誰よりも仕事ができるようになりたいと思い、回りの人がどんな風に仕事をすすめているのか見るようにしていた。すると見えてきた。人の本性というものが。

ノリがよくて笑顔がかわいい第一印象がよかったのりこ先輩が、人が見ていない時に一瞬のぞかせた意地悪そうな顔。
仕事ができて勤務態度がよいと評判のりえ先輩が、上司の見ていないところで手を抜いているだらしない姿。

それは一瞬の表情、一瞬の姿なのにちょうどそのタイミングに私は見てしまう。そして真実の姿を知ってしまうのだ。

のりこ先輩がいつものかわいい笑顔で言った「入って間もないんだからまちがったっていいのよ。わからないことは遠慮しないで何回でも聞いてね」
その笑顔の裏で「何度も同じこと言わせるな」という声が聞こえた気がした。

きりっとしたりえ先輩が回りの人がいなくなった時に身をかがめるようにして私に聞いてきた「ねえ、これってどうやるんだっけ?」
うる覚えだったので他の先輩に聞いて内容を伝えると
「あ~やっぱりそうだよね。どういう風に教わったか確認したかったんだ」
そう言うとまたいつものきりっとした姿勢に戻った。「この新人、つかえる~。わからないことばれずにすんだわ」という声が聞こえた気がした。

私の観察眼はますます磨かれていった。
ここにいる人たち皆、みせかけだけ。たいしたことないな。


人事部では、入社3か月の試用期間を終える社員の人事評価が行われた。
「面接の時は意欲があって質問にもはきはき答えて、つかえるって思ったんですがね。どうもボ~と人のことを見ていることが多いのが気になりますね。みかけだおしだったってことですかね」

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