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鉤縄で4つの湖を巡る | アイルランドと私 #6

アイルランド移住後の旅の記録、その6。自己紹介はこちらです。

毎回ゼルダの伝説と自分の旅の共通点を探しては、気持ちはすっかりリンク!となるのが、私の旅を楽しむコツだったりする。

アイルランドにて、水生植物を採取する鉤縄を作ったのだが、この用途がゼルダの伝説でお馴染みのフックショットに似ていて、非常に良い。そこで今回は、今年の晩夏、4つの湖をフックショットで攻略(?)した旅の話をしたい。

フックショットで引き寄せた水草たち。私たちにとってはルピーやお宝みたいなもん


アイルランド中央部から西部の湖を旅し、水の中に生えている植物を沢山知ろうというトレーニング(Aquatic Plant Project)が今年7月に1回、8月に4回開催され、私はその内、4回参加した。出席率はナンバーワンだ。講師は毎回同じなので、「こいつめちゃめちゃ来るじゃん。暇なやっちゃな」と思われていたかもしれない。嘘。講師のN氏はとても優しく穏やかな人だったのでそうは思っていなかったろう。彼はスコットランドに住む水生植物の専門家で、この期間はアイルランド行政が行う湖の調査プロジェクト参加も兼ねて、こちらに来てくれていた。

このトレーニングの概要は、湖面にフックショットを投げまくり、みんなで図鑑をうんうん唸って読みながら採った水草を見分け、N氏が答え合わせしてくれる、そんなもう絶対楽しいに決まっているやつなのだ。行くっきゃない!

採取した水草の名前をその場で専門家に聞ける贅沢
彼が手に持っているのが、水草採取に使うフックショット。
ボート用の錨(泡だて器でも可)がロープの先に付いている

そして水辺でフックショット……思うところがあった。ゼルダの伝説時のオカリナでフックショットを手に入れるのは水の神殿だ。ムジュラの仮面ではグレートベイ海岸で、トワイライトプリンセスでは湖底の神殿で手に入る。というわけでフックショットは、水のフィールドと何だか縁がある。ゲーム内では、フックショットを孤島の木や宝箱に引っ掛けて、自分自身を移動させるほか、水面下や空中のアイテムを自分に引き寄せるという用途がある。後者は、まさに私が水生植物を採取しようとしているのと、瓜二つである。つまり実質このトレーニングの旅は、水の神殿を攻略するようなものである。そんなわけで私はフックショットを握り、愛車エポナ(トヨタのヤリス)に乗り、4つの湖に鼻息荒く赴いた。その時の様子を写真中心に紹介したい。

トワイライトプリンセスのクローショットが一番見た目は近いかも
今回赴いた4つの湖

バニー湖(Lough Bunny)

7月末の第一回の日。この日は参加申込の締め切りが過ぎていたものの、ご厚意でねじ込んでもらえた。バニー湖はバレン国立公園内にあり、石灰岩の窪みに出来た湖だ。繊細な環境のため、車から降りたら全員分の長靴と道具をスプレーで殺菌してから現地に向かった。

氷河で土が削られ、露出した石灰岩。
バレン高原はこうした灰色と色あせた緑色の風景が続く
バレンは基本的に風が強く、土が薄いが、大きな窪みには土が溜まってこうして緑色の比率が高くなったりしている。青白い石とのコントラストがきれい
マジックアームで植物を引き寄せている。
湖底の石灰岩は濡れてぬるぬると滑るため、安易に足を動かせないのだ
石灰岩の表面は頻繁にこうして穿たれている。
てっきり雨による浸食と思っていたがそうではなく、
アオコの仲間が削ったものだというのでびっくり
この底にあるポコポコしたものが、アオコ
カキランの仲間(Epipactis palustris)
ツウェイブレード(Listera ovata)というラン。
名前が中二病みたいで恰好良い
カーラインアザミ(Carlina acaulis)。
ドライフラワーのような花が目新しい

この日は水位が高く、湖の水草観察はあまり出来なかったものの、周辺の石灰岩性植物の観察を大いに楽しめた。写真には撮れなかったが、Brown Hairstreakという、この地域でしか見ることの出来ない珍しいチョウを見ることが出来たので、色々と収穫の多い日であった。

シーリン湖(Sheelin Lough)

8月19日。この日は朝、盛大にやらかした。集合時間の10:30に間に合わせるため、8:30には出発準備を終わらせ、カメラを首から提げ、ランチ用に作ったアボカドベーグルサンドとバナナを持ち、私にしちゃ何て順調なんだ!と家から出てドアをばたんと閉めた瞬間、全てを悟った。家の鍵と車の鍵を持っていない。私がステイしていた家は、一旦ドアを閉めると外からは鍵なしでは開けられない仕組みになっている。つまり、車の鍵を取りに部屋に戻ろうにも、家の鍵がないので入れなくなった。この日は早起きのホストファザーは海外旅行に行っていた。ホストマザーは休日は11時起きだ。私の順調な朝は、自分のポカで一瞬にして終わった……しかも何故かスマホの充電も出来ていなかった。何をやっているんだ。
それから2時間散歩してホストマザーの目覚めを待ち、主催者に電話すると、今日はしばらく集合場所前で採取する予定だからゆっくりおいでと言ってもらえた。あの時鍵を確認していれば今頃は…はあ何てバカなんだ私は…なんて考えながら運転して、2時間かけて到着。駐車場前がすぐ見晴らしの良い湖岸になっており、そこでフックショットを投げる集団を無事見つけることが出来た。

私のアルバムは手を背景に植物を撮っている写真が多い。
手だけ写る画角がスカイリムの一人称視点画面みたいだ
これ
またもやスカイリム画角。
花はイヌガラシの仲間(Rorippa amphibia)
細い突堤に列になって植物観察をした。
みんなそれぞれ熱心な人たちばかり!
その装備品便利そうですね~どこで買ったの~なんて会話もこういう時の醍醐味。
リンクも宿でそういう話してるのかな
ミクリ(Sparganium erectum)。日本では少し希少。
実がいが栗のようだから、ミクリ

シーリン湖は面積が大きいため、色々な所有者に区画を分けられており、入れる場所も限られている。しかし、参加者の中に一角を保全地区として買い取った人がいて、彼の案内でさっきとは別口の場所で採取をすることが出来た。参加者のBSBI(植物学会)のメンバー達は彼と色々と話して、ここは非常に良い草原や湿地林が保存されているため、別途また記録会を行って、保全状況を強化しようと言っていた。こうやって人との出会いが次の動きにつながるんだなあとしみじみ感じた。

この日もかなり水位が高かった。
セイヨウイソノキなどの特殊な植物も生えていて、非常に面白い場所
安定のスカイリム画角。Fus ro dah!
持っているのはマツモの仲間(Ceratophyllum demersum)
ちょっと珍しいイヌノフグリの仲間(Veronica agrestis)が路傍に
珍しいね~って感じで皆で撮影会。
後ろには良い状態の草原が広がる

パラス湖(Pallas Lough)

8月20日。この日は同業者が多く、同年代の女の子やアイルランドに移住したオランダ人夫妻の環境調査員達が参加していた。

トレーニングと関係ないが、この日のベストショット。
日本の柴犬とおじいさんと軽トラも最高だけれど、
アイルランドのフワフワ小型犬とおじさんとボートも癒される
パラス湖外観
キンポウゲの仲間、グレータースピアウォート(Ranunculus lingua)。
これの小型版はよく見かけるが、この種はやや局所的
タツナミソウの仲間、スカルキャップ(Scutellaria galericulata)。
これも湖畔で見かけるが、どこにでもある感じではない
シャジクモは種類によってはアンモニアのような刺激臭がする…というのを実感中。
持ち帰ると部屋が本当に臭くなる
採取した水草をトレーに入れ、右の見分けシートで一つずつ種名を確定していく
湖岸のヒナミクリ(Sparganium natans)。やや希少種
この湖の前の家の人、良いな~。
ちょっと家の前でフックショット投げてくるね~って会話をしているんだろうか
フックショットだけでなく、こうした漂流物を漁るのも水草探しの一手段

マス湖(Mass Lough)

8月27日、最終日。この日初めて参加した人達ももちろんいて、シャジクモの仲間を見てこれは何だろうと見分けシートを見ている横で、代表的なものなら一目で種名が分かるようになっていたことに、トレーニングに足繁く通った成果を感じた。まだまだN氏に「うん、合っているよ」と言ってもらわないと確信が持てないものの、初日のあの右も左も分からないというところからは、一歩水草の世界に足を踏み入れられたと思う。

外観はこんな感じ。釣りをしている親子もいた
採取した水草と見分けシートを持ってあれかなこれかなとみんなで同定する。楽しかったなあ
水底に緑色のものがわさわさと敷き詰められているのが見えるだろうか。
これ全部、シャジクモの仲間である
水の深さによって生えているシャジクモの種類が変わるため、奥に投げたり浅瀬を探したりした

戦利品を手に入れた!

4つの湖を駆け巡ったあかつきに、戦利品を手に入れた。今回のプログラムの主催者Pは、イギリス諸島植物学会BSBIの元アイルランド代表だ。私は、Pが「私の本棚にBSBI発行の水生植物図鑑が重複して置いてある。誰かに長期で貸すことが出来るが」と話していた際に、運良く居合わせることが出来た。数日後、現アイルランド代表のBから、「Pに聞きました。長期で貸し出ししますね。この図鑑で種を沢山同定して、是非BSBIに記録を提出してください!」と書かれたユリ柄のポストカードと共に、4冊の図鑑が手元に届いた。

『らんまん』でも言われていた通り、植物好きは調査道具と図鑑と移動費でお金がどんどん飛んでいく運命にある。イギリス諸島の全種が満遍なく載っている図鑑、アイルランドの種だけの図鑑、種が多すぎる場合は個別の図鑑(タンポポやスミレなど)、イネ図鑑、スゲ図鑑、シダ図鑑、ミズゴケ図鑑……ととにかくキリがなく、万年貧乏月末口座預金10ユーロ(なんか技名みたい)という二つ名を持つ私には、この特殊な分類群の図鑑を4冊も借りれた時、脳内にあの「ごまだれ~」のアイテムゲットファンファーレが鳴り響いていた。天のお恵みである。

「シャジクモ、アワゴケ、オモダカ、水草の図鑑を手に入れた!」
ごまだれ~

しかしまだまだ攻略したと言ってはいけないくらい、アイルランドには色々な種類の湖がある(ヨーロッパでアイルランドにしかない種類の湖というのがあったりするくらい、湖の宝庫!)し、水草の見分けもやっと入門したところだ。一回行った湖にはシーカーストーンでワープ出来たら良いのにな~燃料代浮くしなんて思いつつ、フックショットとこの図鑑を装備して、次は目指せ!アイルランドの水の神殿こと湖の全クリだ!

今回採ってきたシャジクモ4種。
①と②は大型で見やすいが、④になるともうルーペでも観察が難しい…
シャジクモは顕微鏡かルーペで、茎(本当は長い一本の細胞が寄り集まったもの)についている棘(これも一本の細胞)の生え方を見て見分ける。
④のような小さい種の細胞を見るためには、もっと良い顕微鏡とスケールが欲しいなあ。
と、こうしてまたお金が飛んでいくのであった…

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