第三章を見てきたので感想を

いうまでもないですけど、黒セイバーvsライダー戦、凛vs桜戦。期待はしていたけれど、その期待を軽々と超えてくる圧巻の作画でした。言峰がイリヤを抱えて走るシーンはfateシリーズを通しても指折りのお気に入りだったので映像化が叶って感涙です。

と、前置きをして始めます。今回の劇場版三部作には大いに満足しているし、HFは自分も一番好きなルートです。その上でラストについて、間桐桜についての思いをここに述べておきます。

まず、「Heaven’s Feel」とは、どのような物語としての方向性を持っていたのか、ポイントとして抑えておきたいのは大きく２つです。１つ目は、これまで衛宮切嗣という正義の味方(万人を救うこと)に憧れていた少年が、その考えを諦め、これまでの自分と決別し、たった一人にとっての正義の味方となることを選択したこと──自己変革。２つ目は、本ルートのメインヒロイン、間桐桜という存在が誰よりも負の属性を強く持っているということ──内向きな感情。

上記を踏まえ、類似点をもつセカイ系になぞらえれば、HFとは、“あえて間違える”──広義の世界を破壊し狭義のそれを守る──ことを主題としているのです。

であれば、この罪の物語の結末を得るには、何らかの代償をもって然るべきと考えるのが自然な流れです。しかし今回、明確にそうはなっていませんでした。

１つ目に関しては、衛宮士郎が間桐桜を守る、身代わりになるという選択をあえてしたのにもかかわらず、後に仮の肉体を得て帰ってきてしまっています。無論、彼自身はアンリマユを堕し世界を破壊しようとしていたわけではありませんが、生まれつき不遇を背負った桜の代わりになることを望んだのであれば、生き残った桜は彼の存在しない世界でのみ、生きていくことが求められます。──罪の所在。

２つ目に関しては、ラストの凛との会話の中で、内面の弱さを捨てられつつあることが仄めかされていますが、過程が描かれておらず、あまりにも急激な幸福の訪れであることから、これは彼女の本来持っている負の属性(物語の要点)そのものを無条件に放棄してしまっているようにも見えます。

端的に言えば、最終章では桜の運命にスポットが当りきらないまま士郎や凛、外部からの圧力によって無責任に救われてしまっているように感じるのです。では、この違和感の正体は何だったのか。

繰り返しますが、このエンディングは確かにあるもので、それ自体に問題を指摘したいわけではありません。ただし、本作品はそもそもノベルゲームであり多種多様なエンドが存在した上に今回の大団円があるという、ノベルゲーム的な物語構造を理解しておく必要があるのです。

ノベルゲームはアニメや小説と違い、自らの選択によって話を進行させます。それは手放しに主人公やキャラクターに感情移入ができる媒体と違い、プレイヤー自身にも責任が課せられ、本来の読み手としての役割に加え自身がその作品世界全体を見晴るかし創っていくという神の目、メタ視点が要求されるのです。

そのため、今回の桜も間違いなく「間桐桜」ですが、より明確なキャラクター像を認識するためには、そういった視点を持って、限られた物語内での彼女を見つめ直す必要が生まれてきます。

この物語は確かに“トゥルーエンド”ですが、これは本来“ノーマルエンド”という贖罪の物語の上に成り立っているものです。メタ視点が排除されてしまっている映像作品ではそれを認識することができない、もしくはそうすることが難しいために彼女のキャラクターとしての魅力が薄れてしまっているのだと言えるでしょう。

言い換えると、ノーマルエンドが彼女のキャラクター性を深め、物語の基本構造を理解する下層部分であるとするなら、今回のトゥルーエンドはそんな(悲劇の運命にある)彼女を救済する上層部分に当たります。この物語は確かに“ある”ものですが、メタ視点をもって下層を踏まえなければトゥルーエンドのもつ真の意味──間桐桜という女の運命に対する救いであること──を理解することができないのです。

第三章に抱いた「面白いけれどほんの少しもったいない」という感情は、本来、間桐桜に備わっているはずの負の側面──弱く、幼く、儚く、惨めな心──にこそ彼女の本質的な魅力があり、そこが欠けてしまっていることでキャラクターとしての全容、罪の意識を掴みきることできなかったことからくるものなのです。

桜の木の本当の美しさを知るには、その下に眠る屍体のような苦味を知っておかなければなりません。彼女、間桐桜の笑顔が本当の意味を持つのは真の贖罪の上であると言いたいのです。

これは愛でなく、エゴです。

引用

劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」Ⅲ.spring song

Fate/stay night 公式Twitter

9.16 大幅に加筆修正