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罰金くらっても元気だもん

【Preface】

ケアンズのマックから今夜もこんばんは。デッドライン症候群なので、三十路という大台を目前にして人生がそれいけと言わんばかりに次から次へと難題を持ち込んでくる柑橘です。やれやれだぜ、と襲いくる謎の手湿疹やら突然の退去宣告をちぎっては投げちぎっては投げ、さあ次は何がくる、と戦闘態勢のままワーホリ戦国時代を今日も生き抜いています。

そんな今日は、柑橘三十路手前駆け込み大厄災の1つ、fineの話をしておこうと思います。How are you?の教科書的回答に用いられ、なんならあまりにも典型的すぎていっそ揶揄すらされうるこの単語、名詞だと全く違う(ように見える)意味になるんですね。この記事が誰かのfineを避ける一助になりますように!

それでは、お楽しみください。

【When I was doing Uber Eats…】

いつも通りレンタカー屋でのシフトを終え、夕方のケアンズシティを走っていた時のことです。昼間っからお酒の配達が入り、パーティの準備でもしてるのかなーなんて思いながら車を走らせていたところ、真横までバイクが割り込んできました。それ自体は珍しいことでもないのですが、そのバイクが私の車のドアを叩き、見せてきたのは警察手帳。路肩に車を停めるようジェスチャーで指示されました。

スマホかなーと思いつつ素直に車を交差点近くの無駄に空いているスペースに停めると、ドアを開けるや否やちょび髭のおじさんポリスが質問を投げかけてきました。

When did you wear seatbelt like that?

てっきりスマホについて言われるのだと思っていたので、はじめはうまく理解できなかったのですが、どうやらシートベルトの付け方の指導だったようです。元々右肩から後頭部にかけて痛みや凝りが出やすいので、つい癖でシートベルトを脇の下に回してしまうことがありました。今回は運悪くこれを白バイに見咎められてしまったようです。

いつから、と聞かれても思い出せないくらいに無意識にやっていたんですよね。右左折時に上半身を前傾させるのにベルトの圧迫が嫌でよく下に回してしまうので、近くのラウンドアバウトからかな?と答えたりもしたのですが、どうやらそれより前からこの白バイおじさんは私を見ていたようです。違うだろ、とやや威圧的に言われ、私も正直にSorry, but I don't know. It's my habit.と答えました。

するとおじさんはベルトを外すように指示され、大人しく外すとベルトを引っ張ってストッパーが稼働するかの確認を始めました。問題なく動くことを確認すると、今度は正しくつけろ、と。私がシートベルトをつけると、今度はMove forward quickly. Then wear it as you did and move forward again.と、「なぜシートベルトを適切に装着しないといけないか」の実践講習が始まりました。

その後はまさかの質問攻め。原文ママ暗記してはいないので、あくまでも英文はこんな感じだった、というものを書いています。

When did you start wearing it in that way?
How often do you drive this way?
Who taught this way of wearing the seat belt?
Do you have any document proving a doctor allows you to wear the seatbelt this way?

「いつから、そしてどのくらいの頻度でその付け方をしているのか」「誰からその方法を教わったのか」「シートベルトをその付け方をしないといけない医師からの診断書を持っているのか」と、戸惑いつつも全部に真面目に答えていくと、住所や電話番号を聞かれたのち、最終的には罰金を申し渡されました。ついでに、期限までに払わないとビザも危うくなるぞ、と脅しじみたことまでご丁寧に言い添えてくれます。

その額、なんと$1161。ケアンズの1ヶ月の平均家賃以上です。
恐るべし、罰金大国オーストラリア。

ぶっちゃけ本当に覚えてないくらい普段からこのベルトの付け方で市内を走り回っていたのですが、見つかると4桁ドルの罰金なのは知りませんでした。幸い先月からかなり収入を増やすことに成功していたので、払うことに困る額ではなかったのですが、とはいえ嫌なものです。何も交換に得るものもなく払う10万。日本円にして書くと改めてじわじわダメージが来ますね。

金額を提示した後、すぐに私のスマホへ支払いの請求がSMSで届きました。ちなみに英語では"infringement notice"といいます。体験したくない英語TOP3に入りそうですね。
罪状はもっと簡単で、Offence:Driver fail to wear seatbeltとなっていました。
こういう見出し系では、冠詞やら三単現やらは全部落ちるんですよね。あとでじっくり読みながらその辺りの言語現象に感心してしまいました。

この辺の電子化と迅速さはさすがとしか言いようがありません。嬉しくはないけど。でも、忘れたころに郵便が届くよりは現行犯の方が楽か。どっちみち嫌ではありますけど。

支払い期限は約1ヶ月、経済的にしんどい場合は、先に頭金だけ支払うこともできるようです。罰金の頭金……

【be fine with being fined】

てことで、タイトル回収。fineは形容詞で「元気な、十分な」といった意味のほかに、「罰金」という意味があります。そこで今回はこの二つを並べて言葉遊びをしてみたわけですね。わざわざ音がなるべく似るように趣向を凝らしました。楽しんでいただけたでしょうか。こんだけ体を張ったネタなので、楽しんでください。何卒。

冗談はさておき、このfineという単語は語源を楽しむのにはちょうど良いので、取り上げてみます。

フランス系の映画の最後に、endの代わりにfinと書いてあって、「おっしゃれ〜!」と感じたことがあるのは私だけではないはず。このfinから、英語のfineも、さらに言えばfinishも、finiteも、refineも繋がってる、という話を聞いたことがあるでしょうか。

「fin:終わる」とざっくり捉えたときに、fineが罰金になるのは、「これ(お金)を払って罪を終わらせる」からです。finishは言わずもがなですね。「終わる」という動詞ですから。

となると、逆にfineがI'm fine.と「元気」というように使われている方が繋がらなくなってきますね。
finを、「最後までやり終える」と考えると、「作品や作業が終わる=「終わり」と呼んで良い状態になる」と派生した、という説が有力のようです。
終わり、や完成、と呼べる状態は、洗練されていて良い状態、
It's "fin"! =It's fine(=good)!
無理やり英語で示すならこんな感じでしょうか。

refineが「洗練・研磨する」という意味になるのも、ここまでくるとちょっと納得ですね。一度fin、OKになって終わった作品を、再び(re)、fineまで持っていく、ということです。

この辺りの解説は、私が敬愛してやまない認知言語学者、時吉先生がブログの記事にもしていたので、興味がある方はぜひこちらもご一読ください。私は彼の英文法の解説書で英語に対する解像度をさらに高めることができました。鬼100と呼ばれている解説書です。

【postscript】

タイトルはまあぶっちゃけてしまえば痩せ我慢の風味が多分にあります。いくら私が先月ちょっと多めに稼げたとはいえ、普通のUberの配達100本分くらいは罰金のため、いわばタダ働きになるわけですから。

とは言え、この悲劇をツイートしたおかげで、まさかの脇下シートベルト同士にも出会うことができました。彼女は助手席で、かつ写真を撮られて後から罰金通告がきたそうです。ご愁傷様でした……。

というわけで、昨日のUber中、傷口に塩を塗ってきたダメ押し自動ドアがこちらです。

めでたくorの方になったよちくしょうめ!!!

おかげで私の車に乗った友人たちはもれなく「気合を入れてシートベルトを正しく装着」するようになりました。
この記事と私のfineが、誰かの命を守ったり誰かがfineを免れる理由になれたらありがたい限りです。

Thank you for reading.
Have a FINE day with your seatbelt on properly without getting fined!!

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