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観光旅行をしていたら、ソ連がこわれた②ハバロフスク

1991年の夏。ロシア極東のハバロフスクから私たちの「素晴らしきソ連旅行」は始まりました。新潟から飛行機でたったの2時間。そこで、社会主義国家の洗礼を受けることになるのです。

ロシアの「夜明け」ホテル

ファーストコンタクトは、小さな男の子。空港を出てすぐに駆け寄ってきました。「マイ・プレゼント」と言って、手のひらに乗せているのは、偉大なる指導者レーニンのバッチ。マッチ売りならぬバッチ売りの少年です。金髪で青い目を見開く彼の頭をなでて、ルーブルは今持ってないからと通り過ぎようとしたら、愛らしい姿にも関わらず「じゃあ1ドルで」と意外と押しが強い。引き際もあざやかで、ダメだと分かると身を翻し、別の旅行者へ走っていきました。

バスの中で、ホテルが変わったという残念なお知らせがありました。たどり着いたホテルの名は「ザリャー」。「夜明け」という意味です。ホテルというより、5階建ての古いアパート。「ドロボウがバルコニーを伝って登ってくるので、窓のカギはしっかり閉めるように」と通訳のターニャさん。「夜10時から一晩中、断水するので、それまでに用は済ませるように」と。なんということでしょう。

荷ほどきをしながら部屋をチェックすると、シャワーがありません。共同シャワーがあるのかと添乗員のキムラさんに尋ねると、受付の女性に聞いてくれました。大柄の彼女は、小柄なキムラさんをじろりと睨み「ニェット」つまり「無い」と言い放つ。どういうことだと女子たちに突き上げられたキムラさんは、おずおずと質問を繰り返す。再び答えは「ニェット」。そこで騒ぎを聞きつけたターニャさんが、何やら早口で受付の女性と言い合いを始めました。お互いにヒートアップし、しばらく大声で争ったあと、ターニャさんは憮然として言いました。「この人は係じゃないから知らないそうです」と。バトルが終わって奇妙な安心感が漂い、誰かがほーっとため息をつきました。キムラさんは「ソ連の人は、知らないことは『ない』って言い張るんですね」と呟きました。

お水を一杯ください

ソ連人の「ニェット」は夕食のレストランでもキムラさんを襲いました。予約は6時。私たちは日本人らしく5分前に到着。ソ連時間はおそろしい程ルーズなくせに、なぜか、このレストランだけは、1分1秒たりとも違えないという気合いの「ニェット」がさく裂。6時きっかりまで、店の外で待たされたのでした。

メニューは、水、黒パン、チーズとキュウリが2切れずつ、チキンのバターライス添え、そしてチャイ。以上。質量ともにとぼしかったのですが、この日はとても蒸し暑く、何よりも私たちは水分を欲していました。皆、くちぐちに飲み物が欲しいとキムラさんに訴えます。ずかずか歩く店員さんにキムラさんはそっと、チャイのおかわりを所望しました。彼女は面倒くさそうに「ニェット」。ちょ、向こうのロシア人のテーブルには、ワインもフルーツ盛りも湯気のたったボルシチも何でもある。私たちは視線でキムラさんを促しました。せめて水を、とキムラさんは頼みましたが、店員の答えはニェット、ニェット、ニェーット。もうキムラさんは息も絶え絶え。彼は、ロシア語は話せますがソ連のアテンドは初めてとのこと。この人はこの先大丈夫だろうか、と心配になりました。

ロシア人はやっぱり美人が多い

翌日、現地のガイドさんが合流し、市内を観光しました。うっそうとした木立を抜けると広場に到着。そこに白いドレスを着た花嫁さんと軍服姿の花婿さんのカップルが。友人たちに囲まれ、ワインで乾杯していました。花嫁さんも、友人さんたちも、美しい。そしてガイドのオーリャさんもほっそりした知的な美人。経済を学ぶ学生さんで英語、日本語を勉強しています。バスの席が隣で仲良くなりました。

赤い煉瓦づくりの郷土博物館へ行きました。虎のはく製やマンモスの牙を横目に集団から離れふらふらしていると、オーリャがすっと寄ってきました。退屈でしょ、と彼女は優雅に私の手を取り、3階の展示室へ行きました。ソ連以前の暮らしの展示を見ながら、「昔はね、キリストを信じ祖先を敬う良い伝統があったのよ」と彼女は言いました。「革命のせいでなくなったの?」と聞くと、「世界的に最近はそうじゃないの」と言葉を濁しました。

互いの家族や将来の夢などおしゃべりをしながら、私は「ゴルバチョフを支持しますか?」と聞きました。彼女はしばらく考えて言いました。「そうね。ソ連を世界に開いたことは評価するわ。私たちは情報を受け取ることも発信することもできるようになった。そして、自分たちの歴史を知ることが出来るようになった。でもね、彼は選挙で選ばれていないのに大統領になってしまった。権力がありすぎる」もし選挙をしたら?と聞くと、「人気がないのでたぶん無理」とのことでした。

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この後、ウズベク共和国の首都、タシケントへ行くため空港へ赴いたのですが、大変なことが起りました。(続く)

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