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研究魂#1_人の褌で相撲をとる研究者と、自分の褌を手段だと気づかない研究者

 今日はふんどし(褌)と研究者の話をします。「他人の褌で相撲を取るような研究はすべきではない、あくまで自分の褌で相撲をしてこそ研究者である。」という意見を聞くことがあります。しかし、私はこの手の話は好きではありません。なぜなら、こうした意見は、半分的を射ているものの、半分は時代遅れな考えだと感じるからです。

 「人の褌で相撲を取る」はことわざの1つです。コトバンクによると次のような意味になります。

他人の物を利用して、自分の利益をはかる。自分は犠牲をはらわずに、平気で人のもので事を行うことのたとえ。-コトバンク-

なぜ人の褌で相撲をとってはならないのか?

 まず、「他人の褌で相撲を取るような研究はすべきではない、あくまで自分の褌で相撲をしてこそ研究者である。」という言葉の意図を考えてみます。”相撲を取る”は、まさに研究を進めることを意味していると言えます。では、”褌”とは何を意味するのでしょうか?

 ”褌”は他人が開発した技術・他人が取得したデータなどを指していると考えられます。つまり、上述の言葉は、他人の物を利用して、自分の犠牲をはらわずに行う研究は望ましくないという意見になります。どうでしょうか?賛同されますでしょうか?私は、”自分自身が努力することなく、他人の成果を横取りしようとするような研究は、研究者倫理的に望ましくないと考えています”。その点は、大いに賛同できる部分です。

ふんどし=他人が開発した技術、他人が取得したデータ

時代遅れだと考える部分

 賛同できる部分は確かにあるのですが、時代遅れと感じることもあります。なぜそう感じるかを4つの視点で説明します。

①多かれ少なかれ、人が開発した技術や知見を使用している
 オーソドックスな研究ツールも、厳密に言えば人が開発した技術と言えますし、まったく先行研究がないという研究はありえない訳で、多くの研究が既存の技術や知見を参考にしています。自分の褌で相撲をとっていると思っていても、見方によってはそうではないことがあるのです。自分の研究が、多くの人が築いてきた土台の上に成り立っていることを忘れてはいけないと思います。

②褌は手段。目的が達成できるかが重要
 一番重要なポイントです。目的を達成する上で、褌が他人のものか、自分のものかは、関係ないと思います。自分の褌に拘って、何も成果を残せない人や目的を達成できない人がいるとしたら、お粗末ですよね?”褌はあまくまでも研究を進めるための手段である”ということを忘れてはいけないと思います。他人の褌を使っても、目的を達成できる人の方が社会の役に立っています。他人の手柄をかすめ取るような行為は良くありませんが、自身が取得していないオープンデータを使ったアプローチや、メタ解析は否定されるべきではありません。

③独自性の高い研究=自分の褌ではない
 これも重要なポイントです。褌の所有権とアプローチの独自性を同一視してはいけません。自分の褌に拘り、自分らしい相撲の取り方(アプローチの独自性)が欠如してしまい、結果として、ありきたりのものまねの相撲ばかりしていては、本末転倒です。逆に、人の褌を使っても、独自性の高いアプローチで自分らしい相撲を取れるのであれば、そちらの方が重要ではないでしょうか?教授や上司に言われるがままに実験をしているだけでは、”自分の褌をはいた操り人形”でしかありません。つまり、褌の出所より、どう相撲をとるかの戦術(自分の頭で考えること)の方が重要であると考えます。

④仮説生成型の研究には、オープンデータの活用が不可欠
 従来から多く行われている仮説検証型の検討に対して、網羅的な情報から仮説を生成するタイプの研究が普及してきています。バイオ分野におけるトランスクリプトームなどのオミックス研究は、そうした仮説生成型の研究と相性が良いです。また、巷では、オープンサイエンスという考え方が普及してきています。定義が曖昧ですが、”デジタル時代が加速する、従来よりもオープンな研究活動の側面”を総称しており、多くの研究者が取得した大量のオープンデータをどのように活用するかが重要な局面に入っています。つまり、仮説生成型の研究では、自分の褌を公開し、他人の褌を取得し、その横断的な褌の比較解析により(笑)、新しい知見を探索する時代なのです。人の褌に興味がなく、自分の褌を脱ぎ捨てない研究者は、少し時代遅れな感じがします。
 また、実際の実験が何よりも大切だという価値観も少し古いと思います。最終的には実験による検証は不可欠な物であることは間違いありませんが、パソコン上でデータを解析することと、ピペットマンを動かして実験することは、手段の違いであって、なんら優劣があるものではありません。

まとめ

褌は手段です。褌の所有権よりも、目的を達成できるか、独自性のある戦術を自分で考えて実施しているかの方が遙かに大切だと思います。


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