貴女の好きな味

あなたがいなくなった家で
今日も食べる味噌汁

わかめと豆腐と油揚げ。
出汁は昨晩からとったいりこを使って。

あなたがうまいと言ってくれた白飯は
炊く前の吸水時から入れた昆布が隠し味。

少し塩辛い卵も好きだと言ってくれた。
本当は甘い卵焼きの味に
慣れているのに

あなたが食べてくれるから、
苦手な料理も頑張った。
最初は焦がしたり、味が薄かったりして
食べられたもんじゃなかったのに
君は
「お前の作る料理が好きだ」
と言ってくれた。

ねえ、私、料理こんなに美味くなったよ。

冷たくなったあなたの口に
末期の水を含ませたのはわたし。

私は誰のためにご飯を作ればいい?

あの時より腕が上がって
人に振る舞えるくらいにはなったけど
食べてくれるひとはもういない。

仏前にはあなたの好きな黒霧と
明太子の入ったポテトサラダを供えて
あなた、この組み合わせが好きだったでしょ。

あなたのいなくなった家で
あなたが好きだったご飯をつくる。

あなたを偲びながら
お迎えを待つ。

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