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恐竜を描くポイントは、リアルさとキャラクター性の両立にあり! 絵本『きょうりゅうゆうえんち』を作者・やましたこうへいが語る

もしも恐竜たちとなかよく遊べる遊園地があったら……。

そんな夢のような場所に、招待状を受け取った一人の少年が迷いこむ絵本『きょうりゅうゆうえんち』が2023年7月に発売となりました。スピノサウルスのウォータースライダーに、ディプロドクスの観覧車…etc. 
恐竜たちがおりなす楽しいアトラクションが次から次に出てくる本作は、お話もさることながら、細かなところまで描きこまれた見ごたえある絵が特徴です。こんな絵本が、なぜ、どのようにして生まれたのか、担当編集者が作者のやましたこうへいさんに改めて伺いました!

(聞き手:ポプラ社編集部 原田哲郎)

『きょうりゅうゆうえんち』(作・絵 やましたこうへい)

やましたこうへい
デザイナー・絵本作家。1971 年生まれ、神戸育ち。大阪芸術大学美術学科卒業。主な絵本・児童書に『かえるくんとけらくん』(福音館書店)、「ばななせんせい」シリーズ(童心社)、『さがそう!マイゴノサウルス』(偕成社)、「ちびクワくん」シリーズ(ほるぷ出版)、「ファーブル先生の昆虫教室」シリーズ(ポプラ社)、『まんが星の王子さま』(小学館)などがある。2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の公式キャラクター「ミャクミャク」の作者でもある。

【あらすじ】
内気な少年「りゅう」は、恐竜が大好き。ある日、家の窓辺に不思議な手紙を見つけます。そこに書いてあったのは、「きょうりゅうゆうえんちへのしょうたいじょう」。「だれかのいたずらかな…?」と疑っていましたが、その夜、ほんとうにプテラノドンがりゅうを迎えにきます。おそるおそるプテラノドンの背中にのり、夜の静寂を飛び続けると、ある小さな島にたどり着きました。はたして、「きょうりゅうゆうえんち」とは、どんな場所なのでしょう……? 


こだわったのは、リアルさとキャラクター性の両立

――改めて、校了おつかれさまでした。出来上がった絵本を手にされて、いかがでしょうか?感想をお願いします。

(やました)大好きな恐竜が描けて楽しかったですけど、大変な作業ではありましたね。なにせ、恐竜がたくさん出てくる絵本なので…(笑)。
 
――それぞれの恐竜の特徴を正確におさえつつ、キャラクターとしても生き生きと描かれているところが、すごいなと感じています。

(やました)これまでにも恐竜の紙芝居や絵本をつくってきた経験があったし、日ごろから新しい本や学説が出るたびに情報を仕入れたりしていたので、そうした蓄積が大きかった気がしますね。それぞれの恐竜について、化石や最新研究にもとづく「リアルさ」は意識しつつ、キャラクターとしても魅力的になるように描きかたを工夫しました。

やましたさんのオフィスにて。恐竜に関する本が平積みになっていた。

――具体的にはどういった工夫ですか?

(やました)たとえば、顔は多少デフォルメしました。わかりやすいのは目ですね。人間の目のように黒目・白目をつけました。ほかにも、少し笑って見えるよう口角を上げたり、眉毛みたいなしわをつけたりとか。

画面左、肉食恐竜のメガロサウルスもやさしい表情で描かれている。

――たしかに、どの見開きも恐竜たちの感情が絵から読み取れますね。あと、恐竜と人間の大きさの比率がすべての絵で正確に描かれていますよね。そのうえで絵として見ごたえある構図に整えていくというのは、私にはとても難しいことのように思えます。

(やました)2015年に『さがそう!マイゴノサウルス』(偕成社)という、図鑑とさがし絵を融合したような絵本をつくったときに、恐竜の縮尺を一つ一つ調べて絵におこしました。その経験があったので、それほど難しさは感じなかったですね。逆に、その経験なしにいきなり『きょうりゅうゆうえんち』をつくろうと思ったら、それはほんとうに大変だと思いますけど。

紙の本ならではの臨場感を楽しんで欲しい

――なるほど、すでにご経験の蓄積があったのですね。お話づくりのほうはどうでしたか?

(やました)絵よりも作の部分での苦労のほうが大きかったですね。初期のラフを見返すと、恐竜の遊園地のシーンは出来上がりの絵とあんまり変わっていないんですよ。この絵本は最初、「スピノサウルスのウォータースライダー」や「ディプロドクスの観覧車」といったアイデアから着想したので、絵本の核といえる部分は、企画当初からぶれていないんです。でも、絵本の冒頭部分、現実世界から遊園地に飛びだすまでのストーリーや絵の見せ方は、けっこう悩みましたね。何度も描きなおしました。最終的には、コマ割りの絵で見せていくことで、うまくお話の流れをつくることができたかなと思います。

完成イラスト。スピノサウルスのウォータースライダーのシーン。 


ウォータースライダー初期のラフ。細かい部分に変更はあるものの、あまり変わっていない。
『きょうりゅうゆうえんち』冒頭のシーン。コマ割りで表現。
冒頭のシーン初期のラフ。見開きでシンプルな表現だった。ここから何度もリテイクを重ねていった。

――前半のストーリーで印象的なのは「招待状」のページですね。このアイデアは絵本の構想段階からあったものですか?

(やました)はい、最初からありましたね。むしろ「招待状」はこの絵本の中心となるコンセプトとして捉えていました。そもそもはじめは『きょうりゅうゆうえんちへのしょうたいじょう』というタイトルでしたから。「本物の招待状が本に挟みこまれているような仕様にできるとおもしろいな、でもコストがかかるから無理だろうな…」と思っていたら、ほんとうにできたので、ありがたいなと思っています。こうした「紙の本ならではの臨場感」を読者さんが楽しんでくれたらうれしいですね。

招待状のページ。本文用紙とは質感・サイズの違う紙が挟み込まれている仕様。

――このページ、まるで本物の招待状を手にしたような感覚になりますよね。こうしたリアリティがあるからこそ、読者がファンタジーの世界に入り込めるということかもしれません。

好きなことを恥ずかしがらず。幼少期の体験も創作のヒント

――やましたさんは、昔からファンタジーが好きだったんですか?

(やました)そうですね。ファンタジーやSFが好きで、小学生のころはとりわけE.T.が大好きでした。主人公のエリオットが他人とは思えなくて…。「僕もE.T.を助けて友達になりたい」と強く思っていましたね。それで、小6のときに「E.T.を守る会」をつくったぐらいですから。
 
――なんですか、それは(笑)。どんな会なんですか?

(やました)その名のとおり、「E.T.が地球に来たときに僕らで守ろう!」という会です(笑)。アニメや漫画好きの仲間が数人集まっただけの会だったんですけど、会員証まで手づくりしました。まあ、実際の活動は、近所の山での妄想遊びでしたけどね。
 
――幼いころのやましたさんは、どんな子だったんですか?

(やました)まさにこの絵本の主人公りゅうくんみたいな少年でしたね。
幼少時代は転校続きで、友達づくりは苦手なほうでした。絵本の冒頭で、りゅうくんが友達の輪に入れずにとぼとぼと帰宅して一人コツコツと絵を描くというシーンがあります。僕も小さいころ、まさにああいう感じでしたね。学校でも仲のいい友達はほとんどいないけど絵を描くのが好きだし得意でした。で、教室の隅っこのほうで絵を描いてると、絵の好きな子が話しかけてくれて、だんだんと仲よくなるということが実際あったんです。

そんな友達の一人とは、今でも仲よくしています。自分の好きなことをやっていれば、だれかがそれを見てくれてて、好きな者どうしで仲よくなるなんてことはよくあるんですよね。べつにコミュニケーション能力が高くなくても友達はできるし、無理して友達をつくろうとしなくてもいいのかなと思います。でも、自分の好きなことは恥ずかしがらずに他人に知ってもらうことも大事かなと思いますね。そうすれば自然と友達ってできるんじゃないかなと思います。

『きょうりゅうゆうえんち』では主人公りゅうくんの心の成長も描かれている。

 ――アニメや絵にくわえて恐竜も好きだったんですか? 

(やました)そうですね、恐竜、それから虫は大好きでした。小学生のとき、百貨店でやっていた恐竜展に連れていってもらったのをよく覚えています。今もその図録は大切に持っていますよ。

 ――そうした幼少期の体験がこの絵本のベースになっているんですね。

(やました)そうかもしれません。あと、この絵本の創作の源ともいえる経験としては、2004年ごろ、僕がまだ30代のころに、内モンゴルの化石発掘の現場に行ったことですね。その土地で感じたこと、壮大な風景がより恐竜を好きにさせてくれた気がします。

作・絵・デザイン一人三役がやりやすい

 ――本書は作・絵だけではなく装丁・デザインもやましたさんご自身が手がけられています。作・絵・デザインと一人三役。大変ではなかったですか?

(やました)いえ、そんなことはなくて、むしろそのほうが進めやすいんです。絵と文字のバランスを考えながら、デザイナーの視点で絵を調整していくことができるので、自分にとっては一人三役がいちばんやりやすいです。 

――デザイナーとしては、キャラクターデザイン、遊具や学習教材など、さまざまなジャンルを手がけられていますね。そうしたお仕事が絵本に生かされている部分はあるのでしょうか?

(やました)以前にゾウやカバなど大きな動物の形をした遊具をデザインしたことがあったのですが、そのとき「原寸大の恐竜の形をした遊具ができたら楽しいだろうな」と考えたことがあったんです。結局、恐竜の遊具の企画は実現しなかったんですけど。でもそのときのアイデアが、今回の『きょうりゅうゆうえんち』の着想のタネになっているような気がします。やっぱり「大きな生きものに乗る」っていうのは、いつの時代も変わらぬ子どもの夢だと思うんですよね。

――マルチな活躍をされているやましたさんですが、2025大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」を生んだのも、じつはやましたさんなんですよね!

(やました)じつはそうなんです。あんまり気づかれてないかもしれないんですけど(笑)。ミャクミャクの絵は僕のふだんの絵本の絵とちがうねって言われることもあります。たしかにミャクミャクは面で描いているのに対し、『きょうりゅうゆうえんち』をはじめ僕の多くの絵本では輪郭線をつけて描いています。絵のタッチがちがうといえばちがうのかもしれませんが、仕上げのやりかたがちがうだけで、自分の中でほとんど変わらないんです。以前はミャクミャクのような描きかたで絵本をつくったこともあります。でもここ何年もやってないので、またやりたいですね。

――これから、どんな絵本をつくりたいですか? 何か構想があれば…言える範囲でお願いします。

(やました)アイデアはいろいろあるし、やりたいことはたくさんあります。あえて一つ挙げるなら、キャラクターを生かした絵本をつくりたいですね。『ファーブル先生の昆虫教室』シリーズ(ポプラ社)や「ちびクワくん」シリーズ(ほるぷ出版)をはじめ、ここ数年は自然科学系の作品をやらせてもらうことが多く、それはそれで大好きです。
ただ、もともとキャラクターデザインは自分の得意とするところでもありますし、ミャクミャクをきっかけに、キャラクターを考える楽しさを再認識したので、こんどは絵本の中でキャラクターを動かしたい気持ちが、ここ最近高まっていますね。

――やましたさんのキャラクター絵本見たいです! 
(やました)ありがとうございます。あ、もちろん『きょうりゅうゆうえんち』の続編?も、ぜひ(笑)。
 
――はい、どちらも楽しみですね。今日は貴重なお話、ありがとうございました!

(文・担当編集 原田哲郎)