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書いたPOPは5000枚以上!「POP王」直伝、人を惹きつけるPOPはこうつくる!

皆さん、はじめまして。POP王こと内田剛と申します。
まず簡単に自己紹介しましょう。

内田さんPOP_01

僕は2020年の1月まで約30年間、書店に勤務して本屋大賞の設立にも関わりました。現在は1日1冊以上の本を読みながら、フリーの立場で本の面白さを伝える仕事をしています。例えば学校や図書館などにお伺いして、本屋大賞の話やPOPのワークショップを行うなど。いわば「歩くPOP」のようなものです。これまでに書いたPOPの数は正確に数えたことはありませんが5000枚以上。『POP王の本!』(新風舎)という著作もあります。

誤解のないようにあらかじめお伝えしておきますが僕は自ら「POP王」を名乗った訳ではありません。10年ほど前に「web本の雑誌」で1日1枚のPOP連載をしていた「店頭POP製作所」というコーナーの責任者として「POP王」と名付けてもらいました。

ともあれ無類のPOP好き書店員として活動をしていたご縁があり、ポプラ社全国学校図書館POPコンテストには第一回目からアドバイザーとして関わらせていただいています。
僕の夢はPOP甲子園を開催すること。
POPを通じて皆さんやたくさんの方たちと出会って、もっともっと読書の喜びを分かち合いたいと思っています。

① POPとは?

まずはPOPとは何ぞや、から始めましょう。

内田さんPOP_09POPにはなにが書いてある?


書店の店頭や図書館などで実物を見かけたことのある方もきっといるでしょう。
POPは店頭で商品紹介をする広告媒体のことで店頭の購買時点「point of purchase」の略ですが、小難しい理屈は抜きにしてポップコーンの「ポップ」、つまりは「はじけること、飛び出ること」と思ってください。
書店でも図書館でも本が多すぎて探せなくなっていますが、そんなとき「この本、面白いよ。読んでみて」と本のそばにあるメッセージカードに誘われることがあります。オススメの言葉がはじけたそのカードのことを「ポップ」と呼びます。
本を探すとき、選ぶときの道標ですね。
本の著者も書店員も皆さんも人ですが、本そのものもPOPも個性のある人です。良いところがあれば、もうちょっと頑張らなければという弱点もあります。POPはそうした本の長所を伸ばして、短所を補うことが役割です。人との付き合いとまったく同じです。

内田さんPOP_06POPの役割

②POPの好事例


これはなかなか言葉では伝わりにくいですね。百聞は一見にしかず。実物を画像で見てみましょう。素晴らしい実例として2020年全国学校図書館POPコンテストの「POP王賞」に選んだ4作品を以下にご紹介します。

2020結果発表|全国学校図書館POPコンテスト_01|ポプラ社

『マッチ箱日記』
これは一目惚れのPOPでした。賞を選ぶ基準として「いちばんその本を読みたくなった」点を重視していますが、まさに心を惹きつけられました。画面の真ん中には開いたマッチ箱。不安をかき立てるような破れた手紙のデザインからもスリリングな物語の様子が伝わってきて素晴らしい。アンバランスさが奏功しましたね。

2020結果発表|全国学校図書館POPコンテスト_02|ポプラ社

『人間失格』
何よりもイラストのうまさが抜群。でも上手なだけではないのです。赤と黒の鮮やかなコントラストに劇場感も巧妙。さらに好感が持てるのはイラストとコメントどちらもオリジナリティがあることです。作品の良さをすべて自分の言葉で表現すること。出来そうで実はとても難しいのですが、これは完璧な出来栄えです。

2020結果発表|全国学校図書館POPコンテスト03|ポプラ社

『愛をみつけたうさぎ』
まずはデザインセンスが頭抜けています。赤とピンクと白の色づかいとフレームの使い方の勝利ですね。字も読みやすくうさぎの姿も可愛らしくてとても良いのですが最大の評価ポイントは、はみ出るようなハートからも伝わるような圧倒的な作品に対する愛情です。むき出しのこの愛を全面的に支持します。

2020結果発表|全国学校図書館POPコンテスト04_02|ポプラ社

『きみの友だち』
清々しいまでの大胆さ、斬新さ。これは鮮烈な印象を放つ作品です。カメラそのものと手の質感が極めてリアルで思わず触ってしまいました。変化に満ちた青春の1ページ、その瞬間をものの見事に切り取ってすごいテクニックと思います。そのまま店頭でも使える即戦力POPですね。何度見ても唸らされました。


③POPの意義

POPの実例を見てもらいましたが皆さんはそれぞれの自己流でチャレンジしてみてください。
実践に入る前にに大事な話をひとつしておきましょう。
いま書こうとしているPOPは本当に必要ですか?という問いかけです。
POPは万能ではありません。POPを付けさえすれば売れると誤解されやすいですが、周りの本を見えにくくしてしまうし、POPスタンドで本を痛めることもある。
さらに棚の美観を損なう場合もあるので、逆に無い方がいいケースも多くあります。
あくまでも主役は本で、POPはサポーター役に過ぎないのです。
なぜその本にPOPを書くのか、その理由を明快にさせてからスタートしましょう。決して「書かされたから」ではないはずです。


④準備運動をしてみよう

何事にも準備運動が必要です。
POPを描くにあたって大切なイメージは50音の「あ行」と「は行」にまとめることができます。試験に出るわけではありませんので気楽に読んでください。

内田さんPOP_03ア

「あ行」
 (あ)=あっといわせる→思わず見てしまいます
 (い)=いっしょにやる→皆んなで取り組むと楽しい
 (う)=うっとうならせる→感心させることもできます
 (え)=えっとたちどまらせる→立ち止まらないと見てもらえません
 (お)=おっとおどろかせる→意表を突くサプライズも大事です

内田さんPOP_04ハ

「は行」
 (は)=はっとさせる→ドキッとさせてください
 (ひ)=ひっとさせる→心にヒットさせてください
 (ふ)=ふっとわらわせる→親しみやすさも必要です
 (へ)=ヘーっといわせる→学びの要素があるといいです
 (ほ)=ほっとさせる→なごみの中には愛があります

以上です。いかがでしょうか。だいぶ温まってきたでしょうか。気持ちが軽くなって「描けそう」な気分になれば最高です。


⑤POP作成の流れ

さてかなり前置きが長くなってしまいました。
いよいよPOP作成の始まりです。流れを覚えやすくするために「あいうえお作文」を用意しました。それは「良い絵描きは立ち止まらせる」です。ゴッホなら「ひまわり」、ピカソなら「ゲルニカ」、ミレーなら「落穂拾い」。教科書にも出てくるような名画は思わず足が止まりますね。そう優れた画家は引力があるのです。説明を加えましょう。

内田さんPOP_05POPの流れ

(よ)=「読む」
(い)=「イメージする」
(え)=「選ぶ」
(か)=「書く」「描く」
(き)=「切る」
(は)=「貼る」

(たちどまらせる)=「立ち止まらせる」そのままです。このあと⑦でご説明します。
 
まずしっかりと本を読むこと。
「POPは読まないと書けませんか?」という質問を受けますが、はいその通りです。
必ず読んでください。
「読んで良かった!→誰かに伝えたい!→POPを作ろう!」となるのです。
頭の中にあるメッセージをそのまま書きましょう。
次にデザインをイメージして考えること。そして色を選びます。
フレーム(絵画でいえば額縁の部分)が決まればPOPは半分くらいできたも同然。頭に浮かんできた印象や表紙デザインと真逆のデザインで作ると目立つPOPに近づくことが多いです。そのPOPの間近に実物の本があるのですから極力違うアプローチをすべきでしょう。
好きなカタチに「切る、貼る」はもう工作の時間ですね。
この手法は必ずやらなければならない手順ではなく「POP王流」とお考えください。これまでに5000枚以上POPを描き続けたひとつの結論です。色画用紙を切り貼りすると比較的「早くキレイに」POPが作れるのです。

⑥POP作成のポイント

学校や図書館でPOPのワークショップをする際に、必ず伝える五つの言葉があります。POP作成のポイントはこれに尽きるかもしれません。

1. アクセント(accent)・・・強調する
2. インパクト(Impact)・・・印象を与える
3. ウェルカム(welcome)・・・作品に寄り添う
4. エンジョイ(Enjoy)・・・楽しむ
5. オリジナル(original)・・・自分の言葉で書く

内田さんPOP_02アイウエオ


①〜⑤ひとまとめにして勝手ながら「POP作成のアイウエオ」と呼んでいます。どれも重要なのですが、一番大事なことは最初の二文字。①と②の頭文字をとってアイ=愛、つまりこの本の良さをどうしても伝えたいという愛情がもっとも大切なのです。よく「POPを書きたいのですが、うまく書けないのです。どうしたらいいでしょうか?」という質問を受けますが上手い下手よりもいかに気持ちがこもっているかが重要。それが使えるPOPかどうかの分かれ道。熱意さえあればその想いは必ず伝わります。

⑦立ち止まらせるテクニック

具体的なテクニックを学ぶ方法としては先ほど取り上げたような優秀POPから技を盗むことが近道です。しかしPOPに正解はありません。 ひとそれぞれの個性の勝負。人の数だけPOPの書き方がありますので、いかに自己流を見出すかがポイントです。

内田さんPOP_07人の数だけ


POPはある程度サイズが決まって(基本的にははがき大、B6サイズが標準)いますから、一枚の紙で出来ることには限りがあります。
色、カタチ、デザイン、キャッチコピー、コメントなど、ここはぜひ皆さんの得意技を活かしてください。手書きを推奨しますが手書き以外にも方法はあります。カラフルなデザインも目立ちますが白黒でも目立つPOPはあります。
文章の部分は自分で浮かばなくとも本の中に書いてあることが多いです。その際にページ数を書いておけば、読者の気を引く「立ち読みポイント」ともなります。
コメントの言葉選びにはリズムも意識してみてください。五七五語調など語感がよいと印象に残りやすいです。
出版社が作成したPOPは光らせる、めくらせる、触らせるなど五感に訴えるPOPも増えてきましたが、いかに読者を立ち止まらせることがPOPの第一目的。ちょっとした立体やはみ出しなど個性的な工夫を凝らしてみてください。
ここで注意しなければならないのは、たくさんの情報をPOPに盛りこみ過ぎないことです。読みどころが多いほどぎっしりと描いてしまいがちですが。ごちゃごちゃしていると読みにくいですよね。
いちばん伝えたいメッセージを軸に極力シンプルに仕上げることを心がけてください。

⑧上達のコツ

千本ノックならぬ千枚ポップではありませんが、とにかく数を書いてみることをお勧めします。書こうと思えば一冊の本にも何枚のPOPが書けます。気分次第で出来映えも変化します。その違いも楽しみましょう。要注意はたくさんのPOPを書くのは良いですが同じ場所に並べ過ぎないこと。どれが本当のオススメか焦点がぼやけてしまいますので厳選してください。また本と同様にPOPも生き物ですから鮮度があります。疲れる前に定期的に取り替えましょう。売れ方が良くなればそのデザインが正解です。

最後に一言。
とにかく楽しんでPOPにチャレンジしてください。書かされたPOPは一発で読者に分かります。キレイ過ぎるPOPもスルーされがちで、多少のアンバランスさはご愛嬌。むしろポジティブな勢いとなって、楽しんでいる気持ちはきっと伝わります。POPを通じて本の面白さを広げていきましょう!

※POP王直伝! 学校・図書館に役立つPOP術②
「百聞は一見にしかず。過去のPOP作品を見てアイディアやテクニックを吸収しよう!」もぜひご一読ください!(2022/08/18追記)

内田剛(うちだ・たけし)
ポプラ社全国学校図書館POPコンテストアドバイザー
1969年生まれ。ブックジャーナリスト。約30年の書店員勤務を経て2020年よりフリーに。アルパカの日に「オフィスアルパカ」設立。文芸書ジャンルを中心に各種媒体でのレビューや学校図書館などで講演やPOPワークショップを実施。NPO本屋大賞実行委員会理事で設立メンバーのひとり。これまでに作成したPOPは5000枚以上。著書に『POP王の本!』(新風舎)がある。

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