映画というより映像による詩だ!「赤い風船」


ドイツ映画やイギリス映画が好きな私だけど、「一番好きな映画は何?」「一番好きな監督は誰?」と訊かれたら、どちらもフランスなのだ。”我が生涯のベスト10”を何度組み替えても、それらは常に上位にいて動かない。

それはアルベール・ラモリス監督(1922~1970)と、その作品たちだ。代表作「赤い風船」(1956年)を映画館で観たことはない。テレビで観た者の心にも、その感動は鮮やかに刻み込まれた、ということだ。  かつて、映画とは一期一会だったけれど、今ではDVDのお陰で、昔見た映画と再会できたり、生まれる前の作品だって、繰り返し観ることができる。何という幸福だろう!! 映画館の暗闇に座って上映のベルを待ち、カーテンがスルスルと開いていくときの鳥肌感は、茶の間では得られないにしても、だ。

「赤い風船」は上映時間36分の映像詩。パリ。石畳、石段、家並み・・・どこをとっても絵になる街。蒼ざめた色調の中に、大きくて、真っ赤な風船が眼を射る。

風船を見つけて、しっかり握った少年は6歳のパスカル。学校にも連れていきたいし、雨には濡らしたくないし。パスカル少年の奮闘がほほえましくて可愛い。

このおもしろさは何だろう。セリフがほとんどないので、観客が自由に観て、考えて、セリフを作っていってもいいし・・・。まるで絵本をめくっていくようなワクワク感。風船が意思を持ったように動き、パスカルと友情を結ぶ。少年と風船が案内してくれるパリ。路地も雑踏も素敵。音楽も洒脱。

ラモリス監督の作風は独特で、「白い馬」でも「フィフィ大空をゆく」でも、要らぬ説明なしに、映像そのもので語りかけてくる。一言で表すなら、”ファンタジック・セミドキュメンタリー”とでも言えばいいかしらん。驚くべきは、今見ても全く古さを感じさせないこと。

Wikipediaによると、「赤い風船」は世界中の多くのアーティストに影響を与え、その中には画家のいわさきちひろもいる。風船をいっぱい付けた桶に乗って飛んで行ったまま行方不明になったおじさんもいたらしい。もし私が当時、映画館で「赤い風船」を体験していたら、私の人生は変わっていたかもしれない。

心の中にずっとしまっておきたい、宝石のような作品です!!


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