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ミステリーはお好き?(5)フライドポテトしか食べない

英国製ミステリー『マクドナルド&ドッズ 窓際刑事ドッズの捜査手帳』の舞台はロンドンの西、約150キロの古都バース。「風呂」の語源となったバースだ。紀元前から温泉があり、18世紀には上流階級の保養地となった。
主人公は地味顔の初老の巡査部長ドッズ。頭も薄く、眼鏡をストラップで首から下げている様はとても刑事には見えない。古びた手帳を取り出しては、
いつも何やら書き込んでいる。
大都会ロンドンから警部としてやって来たマクドナルドには、ドッズは冴えない、使えない、ドジなオジサンにしか見えなかった。
しかし、ドッズは英国屈指の推理力の持ち主なのだ。二人が組んだ最初の事件で、マクドナルド警部は散々バカにしていた男が名探偵であることを知る。
警部と巡査部長というバディ物だが、この作品では二人の違いをことさら強調しているようだ。ぼやっとして自身無げなドッズと、いつも強気で上昇志向の強いマクドナルド。二人は正反対。
ドッズもマクドナルドも住居は出てこないが、二人共独身だ。ドッズには何も告げずに出て行ったままウン十年の妻がいて、長いこと離婚調停中。マクドナルドには恋人がいて、話には出るが姿は見せない。
回を追うごとに二人の距離は縮まっていく。お互いを理解し合い、信頼し合い、名コンビとなっていく。

このシリーズの楽しみの一つは、犯人が完全犯罪をやってのける頭脳の持ち主だということだ。コミカルな展開をし、くすりとさせられる場面もあるが、事件は本格推理物なので見応えがある。
もう一つの楽しみは世界遺産の街、古都バースの美しさ。ジョージ王朝時代(18世紀)の優美な街並み、ローマ浴場、バース修道院などが目を楽しませてくれる。とりわけ、三日月型に湾曲した集合住宅「ロイヤル・クレセント」は美しい。
ドッズのキャラクターも面白い。
ドッズといえばフライドポテト。マクドナルドが運転する車の助手席でも公園のベンチでも、彼は常にフライドポテトを食べている。バターをたっぷりディップして頬張る。それ以外の食事シーンは皆無。警部は「体に悪いから、せめてマーガリンにしたら。」と助言するが、彼は聞かない。
もう一つ。ドッズといえば図書館。機械に弱いのでコンピュータは使えない。調べ物はいつも図書館だ。古い新聞や雑誌、専門書籍を丹念に調べる。彼が捜査本部にいないとき、「きっと図書館だわ。誰か呼んできて!」と警部の声が飛ぶ。

最後に、私のお気に入りのシーンを。
マクドナルド(タラ・グヴェイア):「私は正義を貫くわ。悪は絶対に許さない!」
ドッズ(ジェイソン・ワトキンス):「あー、だから神様はあなたに疑り深い顔をお与えになったのですね。」
ジョークとも本気ともつかないポーカーフェイスのドッズに、マクドナルドは絶句する。

 


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