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【短編小説】 羽


前略 ご無沙汰しております。わたしがあなた様に最後にお会いしたのは春の初めのことだったと思います。まったく、暖かくなってきたと思いきや、急に寒さがぶり返してきたりなどして油断ならないシーズンでした。あなた様は半袖でやってきて「寒い、寒い」とずっと仰言っていましたね。わたしが羽織っていたカーディガンを貸しましょうか、と申し立てましたが、あなた様は頑なに断り続けましたね。「風邪をひいてしまってはいけませんから」とわたしは言いました。「またはやってきていますから」と。すると、「そうだよな」とあなた様は仰言って、礼を述べて、わたしのカーディガンを肩に掛けました。

その日はたしか、予報では、夏日になる予定だったのですが、時計が12時をまわった頃、分厚い雲が急に空を覆い始めました。そして、その雲たちがしとしとと、春らしい雨を降らせたのです。気温は下がっていく一方で、最高気温の予報よりも10度も下まわったわけです。わたしは寒いのが大の苦手ですし、用心深い性格ですから、長袖のワンピースを着てきたのです。ですから、あなた様が半袖1枚で待ちあわせの場所にいらしたときには、なんて勇猛果敢なお人でしょう、とわたしはひとりでに思ったくらいでした。あなたは今、わたしのカーディガンを申しわけなさそうに肩に掛けているあなた様を見て、わたしは微笑みたくなるくらいでした。まるでわたしがあなた様を温めているような気がしたからでした。

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