サラットナさん 第一章

万勝神社には、大きなイチョウの木がある。
おかげで参道も何かも黄金の葉で染まっている。
銀杏の実もごろごろしているから、踏まないように気をつけなくちゃ。臭くなるもの。

貝塚さーん、今、落ち葉の量を見て途方にくれてたでしょ。

うわっ、出た。

何よ!私はお化けじゃないわ。だって貝塚さんが身につけてるお塩、平気だもの。

はい、サラットナさん、それは以前に聞きました。あれ以来おかげで塩が欠かせません。

そう、あれは御霊祭の次の日、神社境内をはじめ、近隣をまわってのゴミ拾いの時のこと。

前日は厳粛な御霊祭が終わると、すぐそばの駐車場でご先祖供養のための盆踊りが開かれ、日がすっかり暮れると奉納の花火の打ち上げもあった。

屋台も立ち並び、大きな花火が間近で観れることもあって、おおぜいの人たちが集まってきていた。

昨晩の花火から落ちた小さな燃えかす。屋台での飲食後の忘れ物。皆、花火に夢中で参道や駐車場に置き忘れたのだろうか?
まだゴミを拾い始めて数分しか経たないのに、すでにゴミ袋が重い。こりゃ大変だわ。

何とか参道のゴミを拾い集め、今度は少し離れた駐車場へと向かう。あそこはとても広いから頑張らないと。

あれ?誰か先にいる。巫女さんじゃないわね。
派手な三角巾をかぶっているし、白の上下着てないし。そもそも神主さんから、すまないけど貝塚さん一人で、一日かけて近隣までしっかりとゴミ拾いにまわってと指示受けたし。

サラサラサラサラ、サラットナ、サラットナ、サラサラットナ、ウフフ、ウフフ、ウフフ。
サラサラサラサラ、サラットナ、サラットナ、
サラサラットナ♪

なんかつぶやいている。こわっ、でもゴミ拾ってくれているから、挨拶しよう。

と気がつけば、すぐ横に派手な三角巾をかぶったその人が立っていた。かなりの小柄だ。

お、おばけ?

違います!と少しこわい顔でピシャリ。

あなた、御霊祭のお塩、持ったままでしょ。
わたし、お塩平気、だからお化けじゃない。

とっさに白衣のポケットを探る。返し忘れたお清めの塩が入っていた。

御霊祭がいよいよ始まる時、参加者全員に巫女さんからお塩が配られた。持ってないと危ないらしい。
私は少し怖くなって真剣に祝詞をあげた。宮司様、神主様たちと共に何度も何度も唱えた。目には見えないけれど、さまよえる霊が無事に天に戻れるように祈り続けた。

そうねぇ、妖精に近いかしら、小人ほど小さくは無いし。

何言ってるの?この派手派手三角巾。
あっ、もしかして巫女さんが言ってた小人?
お塩持ったままで良かったぁ。わざわざ、お塩大丈夫なんて言うのだから本当は苦手なのかも?

まぁ、これからよろしくね。ともかく早く片付けましょ日が暮れるわよ。サラサラサラサラ、サラットナ、サラットナ、サラサラットナ♪

派手な三角巾をかぶったその人は、駐車場をなめるかのように右へ左へ、また右へ左へ。

私も真似てゴミを探す。右へ左へ、右へ左へ。

今度は近隣の家の前のゴミ拾いだ。

うわ、飲みかけの缶が捨ててある、あっちはプラ皿に何かの棒。なんだかイライラしてきた。

あなた、ゴミを捨てていく不届き者、切り捨ててやると思ってない?それは駄目よ。来年はゴミが減るようにイメージしなくちゃ。と派手派手三角巾にさとされた。

確かに次の年、ゴミの量がかなり減った。
ちっぽけな私のイメージのおかげである訳はないが、幸せに楽しく盆踊りと花火の時間を過ごすことで、ご先祖さまも喜び、もちろんゴミはそれぞれが持ち帰ることを祈ったのだ。

気がつけば、相変わらず清掃が下手くそねぇ〜。とサラットナさんが呆れ顔で私を見つめている。

だって、こんなに沢山のイチョウの葉っぱだもの仕方ないじゃない。あっ、名前は私が勝手につけました。派手派手三角巾さんの口ぐせから、サラットナって。

砂利の上を掃く時は、ほうきを少し持ち上げるのよ。そうすれば、石を動かさずに葉っぱだけ掃いていけるわ。とサラットナさんが境内をどんどん美しく掃き清めていく。

でも私は次の瞬間、バケツにたっぷりの銀杏の実を思い出していた。今はクチャイだけの実だけれど、皮むき処理が終わったら分けてくれるって神主さん言ってたわね。楽しみだわぁ。

こら、清掃奉仕をなんと心得る
集中しなさい!!

私を叱りながらも、サラットナさんは確実に境内を綺麗にしているのだった。ずっと何だかサラットナさんが怖かったけど(それでずっと塩を持ち歩いているけれど) 私も慣れたものね。

今日はサラットナさんが現れてくれて良かったわあ。試しにほうきを浮かせて、落ち葉を掃いてみる私だった。ん?いけるかも。

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