見出し画像

五煎かけて変化を感じる「手もみ茶」の飲み方 中島毅さん

日本茶の畑や淹れ手の方に取材して書くコーナーです ↓ 第一弾


今回訪れたのは狭山茶の名産地、埼玉県入間市。「金子台」と呼ばれる丘に茶畑が密集している。東京ドームでいえば86個分ほどの広さのある、東京から最も近いお茶どころだ。このエリアの名産である「深蒸し狭山茶」はまろやかな甘みがあり、濃い緑色がでる特徴がある。

金子台の一角にある農道から撮影

ここには手作業で茶葉を加工する「手もみ」技術を競う全国手もみ茶品評会で8度、日本一になり「永世茶聖」と呼ばれる方がいる。大西園製茶工場の14代目、中島毅さんだ。原料となる茶畑も中島さんが管理している。

茶摘みから、加工まで手作業で行う手揉み茶とは一体どんなお茶なのだろう。「普通に急須で淹れても、良さを引き出すのはなかなか難しい」とのことで、今回中島さんに淹れていただきました。

「しまり」具合は良い茶のポイント

永世茶聖 究極の一品 狭山純手もみ茶 3g

手もみ茶はこちら、針のように細長い。一般的な茶葉はより細かいものが多いが、なぜこんな形なのだろう。

「普段飲むような煎茶では、茶葉を蒸す工程が100秒以上です。そうすると茶葉が細かくなりますが、このお茶は10秒くらいしか蒸していません」。それを技術のある人が「揉む」ことで、細くまるめられるのだ。

「揉む」とは…まず煎茶の加工工程を簡単に説明すると、茶葉は収穫されたのちに蒸される。それによって茶葉が痛む(発酵)ことを止めている。その後は、熱を加え水分を抜きつつ、茶葉を転がしたりほぐしたりすることで形をつくる。これを「揉む」と呼んでいる。

「僕はお茶の芸術性っていうものを意識しています。葉っぱがなるべくちぎれないように摘んだ葉っぱの形に丸めていく作り方の技が、手もみ茶の技法です」と中島さん。

(ここでは紹介できませんが、ぜひ手もみの場面はインターネットで検索してみてください)

ちなみにこの手もみ茶の価格はおよそ2人前の3gで3000円。その希少性から、高級デパートでも販売ができないほどだという。「今は大型機械でオートメーション化されて、摘んだ茶葉を茶葉の状態にするのも大量生産ができますが、手もみ茶は一日フルで頑張っても300g限界の量です」。

機械で茶葉を加工する場合は1日に何トン、という量を生産することもできる。比べてみると驚きの差がある。

さて、いったいどんなお茶なのだろうと楽しみにしていると、これを淹れるため中島さんが取り出したのは「絞り出し急須」と呼ばれる急須だった。一般的な急須には取っ手や、茶葉を漉すための網が付いているのに対し、平らな茶碗に蓋がしてあるような形だ。

「急須のR(底の丸みの角度)がきついとなかなか茶葉にお湯が浸らないんですが、この形だとまんべんなく茶葉を開くことができます」

全体にお湯がかかるように、少量ずつ回し注ぐ

一煎目は50度くらいに冷ました低温のお湯を注ぐ。低温で淹れると茶葉から抽出されるのに時間はかかるが、それでこそ茶葉の本領が発揮されるのだという。

「よくお茶を『しめる』って僕らは言うんですが、お湯をさしたときにパアッととすぐに開いてしまうお茶ってよくない。しっかりしめられているお茶っていうのは、お湯を注いだ時に、ゆっくり広がるんです。ですので例えば番茶のように安いお茶はすぐに開きますね」

うまみが凝縮されている最後の一滴まで、なるべく絞り切る

3分後、中島さんは小ぶりな茶碗にお茶を注いだ。茶葉から渋み苦みが出てしまうので、なるべく急須の中の茶葉を揺らさないようやさしく。

茶葉がほとんど動いていないので
蓋を開けても茶葉は一方向にならんでいる

透明なのに濃厚

茶碗の底が白色なのでお茶の水色が透明に近いことがよく分かる

舌先に載せるようなイメージで少しだけ口に含むと、一瞬にしてうまみを感じた。生命力が濃縮されたエキスという感じ。ひんやりとするくらいの温度で、とろみもあるのでやっぱり普段飲んでいるお茶とは全然違う。

これがお茶が本来持っているうまみです」と中島さん。栽培方法、加工方法によってそれを作りだした。

よく見るとお茶の水面には、白い繊維のようなものが浮いているが、これは「もうじ」と呼ばれる、若い芽の裏側にだけ生えているものだ。若い芽は柔らかく、苦みや渋みの成分が少ないという。

最後はポン酢で食べてみて

中島さんはその後、5回急須にお湯を注ぎ、5煎目まで淹れてくださった。温度も毎回少しずつ上げるので、抽出される成分が変わっていくのだという。1、2煎目はうまみやあまみが特に強かったが、5煎目にかけてお茶の色もエメラルドがかり、葉っぱの青みある香りを感じるようになった

はじめの一杯から最後にかけての劇的な変化に驚く。

煎を重ねるごとに、茶葉っぱが水分を吸ってほどけていく

最後の一杯を淹れた後、中島さんは箸を差し出した。「茶葉をぜひ食べてみてください」。

通常茶葉は機械で刈り取られることが多いが、手もみ茶用の茶葉は機械ではなく手で摘む。
新芽のうち特に柔らかい部分のみ、「まぐろでいうと大トロの部分しか摘んでいない」から食べてもおいしいのだという。

ゆでたての葉野菜のような、鮮やかな緑色をしていた
一枚取り出してみると、葉っぱの巻きがほどけてもとの葉の形に戻せそうだった

茶葉はぎゅむぎゅむ、ハリのある歯応えがあった。一度乾燥させているためか、茹でた生野菜のシャキシャキとも違う。一年前収穫された葉っぱが、お湯で戻されてこんな風においしく食べられるなんて、不思議だ。

「えぐみがほとんどないのでポン酢、わさび醤油で食べるのもお勧め」なのだそう。あっという間に食べてしまった。

特別な日のお茶、日常のお茶

中島さんは20cc弱の茶碗に5煎に分けて淹れていたが、淹れ方の正解があるわけではなく「自分好みの淹れ方で淹れてもらえれば」と話す。「僕の場合は一煎目だけでは表情の変化がでないので勿体ないと思い、5煎まで。一煎目は3分ほどで淹れましたが、低温で5分くらいの方もいますしね」

✳︎「自分なりの淹れ方で」と中島さんはおっしゃるけども、ご本人に淹れていただいて良かったです。始めから終わりまで驚きでした。

「ただ、これを毎日食後や休憩の時に飲めるかと言うと、くどすぎるかもしれませんね。僕らは高級フランス料理を朝昼晩食べれるかと言うと、難しいですよね。表現が極端かもしれないけど、こういうのは特別な日に飲んでいただいて、お茶ってこんな魅力もあるのか、と知ってほしいです」

淹れる時間をとること自体も、毎日は難しいかもしれないけど、またいつか飲んでみたい。

大西園さんでは、手もみ茶をつくるための茶葉収穫作業も申込制で行っているそうです。

取材日 2023.04.11


訪れた場所
大西園製茶工場
住所 〒358-0034 埼玉県入間市根岸259
HP   http://oonishien.jp/
instagram https://www.instagram.com/oonishien.jp/ 

※ 詳細はHP等ご欄ください。

茶葉販売の店舗のすぐそばに茶畑、製茶工場もある


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?