見出し画像

世界一長いハーフマラソンで3位になった話

ハーフマラソンというのはフルマラソンのハーフなので、42.195kmの半分ということは、21.0975kmを走る競技である。

これは世にも奇妙なハーフマラソンの話である。

私は日本の食品を海外の飲食店へ流通させる仕事の関係で3ヶ月に一度タイに訪れている。2015年も5月、8月と訪れていたので、次は11月に訪タイする予定で日程を考えていた。

すると毎年11月にタイの首都バンコクで国際マラソン大会「スタンダードオーチャードバンコク国際マラソン」が行われているではないか。国際と名をつけるだけあって、参加者は3万人近く(東京マラソンが3.6万人)、海外からの参加者もいる。

せっかくなので、出張と合わせてバンコク国際マラソンを走ろうと思い、ハーフマラソンにエントリーをすることにした。

国際大会はこれまで東京、ソウル、ダナンと参加してきたがどれも思い出深いレースだった。とは言え、「ココはタイ」。日本のようなきっちりした大会運営をされているとも思えないので、多少のルーズは想定していた。それもまた良いネタになるだろう、、とむしろワクワクしていた。

レースのスタート時間はフルマラソンが2時で、ハーフマラソンが4時だった。日中ではない朝である。いや深夜と言った方が適切な気もする。昼間の暑さの中を走るのは自殺行為なので、スタート時間はまだ太陽があがる前なのである。ちなみに上位者の予想タイムだとゴール時間もまだ太陽があがる前になる計算である。

前日にゼッケンなどを受け取り、早朝(?)4時のスタートに備えて早く休むことにした。スタート2時間前の2時には起きて準備しようと思っていたので、寝坊しないかと気が気でなかったため、夜中に何度も目が覚めたような気がする。

2時に起きて、なぜか日本から持って行ったインスタントのしじみ汁と豆大福を胃に納める。「普段からこの組み合わせ?」って思う人もいると思うので言っておくが、成瀬史上初のコラボである。何となく、日本を発つ時に「あっ!」と思い立って空港のコンビニで買ったのである。タイのスープとかタイのパンとかだと走る気が削がれる気がして・・・。

3時過ぎにホテルを出て2km先のスタート地点まではウォーミングアップを兼ねて走って向かう。真っ暗の中でも走るとジワッと汗が出てくる。

スタート地点について、いつものごとくスルスルっとスタート最前列まで進む。「俺、速いけど、前行くの文句ないよね」というオーラを出しつつも、少し申し訳無さそうに人をかき分けるのがポイントである。

スタートの号砲が鳴り、一斉に走りだす。僕もポン!と飛び出しいつも通り先頭へ。いつも通り先頭と言っても先頭を走るのは最初の数十メートルの話である。そう、僕はいつも先頭に一度出ることにしている。というかそういう癖がついてしまっている。「なぜ?」、それは翌年のパンフレットの表紙の写真に写りたいから・・・。

さて、レースの方は1km行かないうちに後ろからスゥーーーっとケニア人たちが僕を抜いていき、それを追うようにエリートランナーたちが飛ばしていくのでアッという間に20位前後まで順位を落とす。

まぁ、暑いし、これまでのレースで脱水症状で死にかけた嫌な思いもあるので、ムリしないで走ろうとマイペースで走る。

初めの数キロは高速道路を走る。8kmくらいからエンジンがかかってきて前を徐々に抜いていけるようになる。おそらく10位くらいまで来ただろうか。年代別で6位に入れば入賞で賞金が出る。頭を賞金がチラつく(額は知れているが)。

距離表示の看板をみると「HALF 10」という表記。「ん?10?」と一瞬思ったがすぐにカラクリに気付いた。「そうか、mile(マイル)表記だ」。以前ホノルルでトライアスロンに出場した時はマイル表記だったので、すぐにわかった。1マイルは約1.6kmなので、ハーフマラソンは13マイルと少し。あと「3」と思うと気が楽になった。

そして、「HALF 13」の看板。「もうゴールは目前!」のはずだが、ゴールらしい気配は全くない。

どうすることもできないのでそのまま走り続ける。すると今度は「HALF 14」の看板。「14!?」ちょっと待って!これはさすがにオカシイ!!

ふとGPS付き腕時計のGARMINに目を向けると走行距離は「20km」を超えている。やっぱりゴールは目前なはずだ。「ちょっと頭の弱い運営者が看板を置き間違えたのだと」自分に言い聞かせつつ、ラストスパートの準備に入る。

しかし、どう考えてもゴールらしいものはない。カーブを曲がる度にその先にゴールがあることを祈る。曲がる、祈る、、、無い。曲がる、祈る、、、無い。「どうしてないんだよ〜〜〜〜〜〜!!」自転車で伴走してくれているタイ人スタッフにこの気持ちをぶつけたいがどうやら英語も伝わらないらしい!目が合う旅に「too Long!」と言ってみたが「?」みたいな顔しかされなかった。

遂に看板は「HALF 15」。そして、GPS付き腕時計GARMIN Athlete225は「22km」の通過を告げる。さすがに長過ぎる・・・。

「あ、やっぱりこれkmだわ。今、俺はどういうわけか15km地点にいるんだ。ゴールまであと6kmあるんだ・・・」

ポキっ

心折れました。21kmだと思って走ってきたレースをゴール後におかわりで6km以上走るのはさすがに嫌がらせにもほどがありますよ。

きっとどこかで道を間違えたんだろう。そう思うと、入賞も賞金もないわけで、ただただバンコクで残念過ぎる記録と、疲労と、ネタを残すことになったのである。

「もうレースやめてやる!」

と思ったが、今どこにいるのか正直わからない。ホテルはゴールの近くなので、結局ゴールまでは行くしかない。練習だと割りきって渋々ゴールに向かう。

そして、念願のゴール。何と走行距離は27.6km。ゴールで待っているスタッフたちはハーフマラソン(21.0975km)を走ってきたと思っているんだろう・・・。

ゴール後、すぐに結果も出ないので、自分の順位もわからない。「もうホテルに帰ってシャワー浴びて寝たい!」と思ったが、何となくスタートからの経過時間がたっている割にはゴールしている人が少ない。

もしかして自分だけが間違ったのではなく、みんなコースを間違えたのか?本当に距離がおかしいのか?と色々な可能性を考えだす。

しばらくして、日本人の完走者「TANAKAくん」と出会う。国際大会だけあって全員のゼッケンに国旗と名前が印字されているのである。田中くんに話しかけると第一声は「長くなかったですか?」だった。「うん、長かった!いや、長すぎた。これ!」と言って、時計に表示された「27.6km」を見せる。

この後、田中くん以外の日本人、英語が話せる欧米人とも「長いよね!」「too Longだよね」を確認し合う。

大会HPには「入賞したかもしれないと思う人はゴール後残っていてください」と表記があるため迂闊に帰ることもできない。とりあえず、結果が出るまで残って待つことにした。

待つこと1時間以上。外はもう完全に明るい朝になっている。遂に結果が張り出される・・・。

30代の部は・・・「3rd TAKUYA NARUSE」!!キターーー!!

入賞だ。「27.6km走ったけど、入賞出来てよかった〜!」もう体力も残っていなかったが、残りの力が振り絞って本部へ行く。

本部のスタッフに自分がTAKUYA NARUSEだと伝える。すると「ID(パスポート)を出せ」と言うのだ。パスポートを持って走るやつはさすがにいない。全てホテルにある。それにゼッケンにはゼッケンNoと「TAKUYA NARUSE」が印字されている。俺がTAKUYA NARUSEじゃなかったら誰なんだよ!!と思ったが全く聞き耳を持たない。

距離は適当なのに、本人確認は厳密。しかも表彰式が始まるから急げとのこと。マヂで何なんだよ・・・(´・ω・`)と思いつつも、促されるまま、ホテルに走ってパスポートを取りに向かう。。。

追加で往復4km。既に炎天下。戻ってきた時にはもう半分グロッキー状態。

ということですったもんだ色々とありましたが無事に3位入賞ということで、トロフィーと賞金をもらうことができました。めでたしめでたし、、、ではないけど、まぁネタにはなったしコレで良かったということにしよう。それになにげにスポーツで賞金稼いだの人生初だし、本当にいい経験だったわ。

ちゃんちゃん。

P.S.翌日、BCCニュースはバンコクで「世界一長いハーフマラソンが行われた」ことを報じ、Twitterなどネット上では軽く炎上する騒ぎとなっていた。

大会側はハーフマラソンの部の折り返し地点を間違え27.6kmあったことを正式に認めて、謝罪とそのお詫びの印に「27.6km Finisher」と書かれた記念Tシャツをプレゼントを完走者全員に送る旨を発表した。

発表から2ヶ月が経ったが、日本の我が家にTシャツが届く気配はまだない・・・。


サポートいただいた分は今後の創作活動や関わってくれた人への還元に使わせていただきます!