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アウター100着試着したら過去と未来と近未来の自分に会えた話

あれは7月半ばのこと。この冬は、本気でコートを探してみようと思い立った。こちとら自問自答1年生、しかも冬服苦手班(気温調整めちゃ苦手、冬は常に気温に対して1枚足りないもしくは多い)。もしかして、ここはあれじゃない? 100着試着するやつじゃない?

…というわけで、アウター(コートに限らずジャケット等も含む)100着試着してみた記録です。すんごく色々考えたしめっちゃ楽しかったので、よろしければどうぞお付き合いください!

今回も、特に印象に残った服は画像を貼らせていただきました。全て公式サイトからお借りしています。


【1-10】Yohji Yamamoto・Y's・Mackintosh・chaos・MARNI

盛夏のなお手前にコートを探すだなんて、40年以上生きてきて初めてのこと。張り切ってはみたものの、どこをどう探せばよいのやら。まずは日頃の行動範囲でアウターっぽいものを見かけたらとりあえず羽織ってみた。解像度ゼロ。

印象に残ったのは、NEW HUMBIEの受注会をしていたMackintosh。キリッとしつつも力の抜けた感じが気に入り複数試着。この時点では何色がいいかもわからず、コートを主役にしたいのか、インナーは何を着るのかなど何一つイメージが湧いていない。単純にコート単体で一番かわいいなと思ったのはこれ。

ハウンドトゥースにゴールドボタン
襟立てられるのかわいい〜

【11-20】YOKO CHAN・Max Mara・マメクロゴウチ・マディソンブルー・CO・chaos(再)

ロング、好きかも。ブラック、いいかも。朧げながら、ブラックのロングコートがいいかなと思い始める。ただし、身頃がスッキリしたコートはかなり吟味しないとのっぺりしがち。袖をたくし上げるとか、何かしら上半身の印象を強めればバランスが取れそうだけど、冬用コートで袖捲りってあんまりやらないし。

よく覚えているのはMax Mara。

ブラックどこ行った。てか身頃究極シンプルやん。

いや、長年憧れてたんですわ、上質生地のキャメルのコート。いい女って感じで。自問自答前の昨シーズン、当時常連だったECサイトでたまたまキャメルカラーのピーコートを見つけて即購入したものの、届いてみたらなんか違った。そういえばそもそも私、イメージする「いい女コート」の実物には一度も触れたことがない。だったら着てみようじゃない。

本物はすごかった。軽くてしなやかでツヤツヤで美しくて上品であったかかった。(おそらく骨格的に)相性イマイチなシンプルコートなのに、上質生地の光沢感のおかげなのか、そこそこ様になって見えた。

だけど、鏡の中にいたのはミラノマダムの亜種だった。

憧れのキャメルコート、着てみたらこうなるのか。うーん、別に私、ミラノマダム(もどき)になりたかったわけじゃないな。そう思いながらそそくさと脱いだ。長い間漠然と「いい女」に憧れていた過去の私に、一区切りをつけた感じがした。

【21-30】The Row・トゥモローランド・SANYO

びっくり試着はSANYOのベージュトレンチ。ガンフラップ・エポレット等、細部がきっちり作り込まれている上に、濃いボタンの色がアクセントになってくれて、上半身ののっぺり感が消えたおかげか引くほど似合った。これまた本物の威力。

トゥモローランドで様々な形を試した結果、昨今よく見かけるコクーンは似合うけど気分じゃないことと、スポーティダウンは唸るほどオバみが出ることに気づく。

【31-40】コムデギャルソン・ノワールケイニノミヤ・ドリスヴァンノッテン・sacai・CABaN

かいりさんasさんとの試着旅で、表参道おしゃれエリアに初潜入。

憧れのドリスでジャケットを試着。ドリスの手にかかると、オーバーサイズがめちゃくちゃ上品に仕上がるのが不思議でたまらない。生地の上質さや仕上げの丁寧さのなせる技だろうか。襟の裏の密かな遊び心もたまらない。

ノワールケイニノミヤのジャケットは衝撃だった。正面から見るとクラシックなダブル、背中は丈が短くてコルセットみたいなレースアップ仕様。そこに店員さんがフリル&チュールのボリュームスカートを持ってきてくださった。

試着室から出た瞬間、asさんに「何かのダンサーっぽい!」と言われ、調子に乗ってくるくる回る私。チュールのスカートがふわっと広がるのがいい感じ。自分でもこれはちょっと色っぽいかもな、と思っていたら、後日かいりさんから「あの時はびっくりしすぎて言葉が出なかったけど…」とDMで絶賛いただいて、めちゃくちゃ嬉しかった。

このタイミングで自問自答ファッション教室に参加(キーワード「色気」が抽出されて伏線回収)。あきやさんから「冬コーデのセオリーは基本ワントーン。インナーとアウターの色は揃えて小物で差し色がおすすめ」と伝授いただいき、ブラックのコートを探そうと焦点が定まった。

【41-45】Y's(再)・sacai(再)・アンスリード

決意新たに大好きなY'sでブラックアウターを散々試着するも、なぜかどれもピンとこない。

sacaiではこの記事で悶絶していたトレンチコートを試着。23AWで一目惚れして、早々に入荷連絡をお願いしていた品だ。

……これじゃない。

着てみた瞬間そう思った自分にびっくり。えーーーー嘘ーーーー?!

デザインはイメージ通りで本当に素敵。ファスナーやボタンの位置もちゃんと計算されていて着やすそう。似合っていないわけでもない。なのに、「ふーん」以上の感想が持てない。店員さんも私の無反応に相当面食らっていたと思う。

ここへ来て何を着ればいいのか完全にわからなくなってしまい、意気消沈。今考えると混乱の原因は、この時期店頭に多いライトアウターばかり見ていたことかと思われる(詳しくは後述)。

【46-47】DIOR

リセットしよう、とアウター試着旅を一旦ストップ。ところが、バッグを試着しに初めて入ったDIORで、思いがけず出会ってしまった。

羽織った瞬間、音が消えた。鏡から目を離せない。脳裏に映像が浮かぶ。コートを着た私が立っているのは、迎賓館めいた瀟洒な建物。しんしんと雪の降る濃紺の屋外に、室内の暖かなオレンジ色の光がぼんやりと浮かび上がる。人々のざわめきの余韻。パーティか何かの帰り際だろうか。

言葉が出なかった。

しかしてお値段、はちじゅうろくまんえん。どれだけ惚れ抜こうが、私には手も足も出ない。ちなみに色違いのブラックはカシミヤ100%、ひゃくななじゅうごまんえん。Oh…

このコートの残像は、いまだに脳裏に焼き付いている。そのくらいの衝撃だった。

【48-50】CHANEL

勢いづいてシャネルにも突撃し、初のプレタポルテゾーンへ。シンプルな黒いコートを探すも、意外にも作りがないとのこと。でもせっかくだからと、店頭に出ていた黒っぽいアウターをいくつか試着させてもらった。

ツイードジャケットを羽織った瞬間、またしても全ての語彙が消失した。

ビーズをたっぷり使っているのに、軽くてしなやか。生地の継ぎ目の柄合わせは一糸乱れぬ完璧さで、遠目に見ると一枚の布にしか見えない。ジュエリーのような存在感を放つゴールドボタン。裏地の下端につけられたチェーンは裾が捲れないための仕様らしいが、これまたどうしてエレガント。当然、授業参観みは一切ない。

気品、風格、洗練、新しさ、たおやかさ、色気。その全てがふわりと軽やかに立ち上る様を見て、とてつもなく感動してしまった。年齢なんか、軽く超えられそうだった。この服を着こなす60歳になりたい、と不意に強く思った。

私、シャネルのこと何にも知らなかった。クラシカルなイメージが強かったけど、めちゃくちゃ新鮮じゃん。小粋じゃん。私、シャネルの色気めちゃくちゃ好きだ。

あきやさんが「100着試着すると未来の自分が着たい服がわかりますよ」って言ってたのは、これか。試着って、てっきり今着る服を探すものだと思っていたけど、いつかは着こなしたい、着られるかもしれない服にも出会えるんだね。

【51-60】sacai(再々)・CFCL・MM6・サンローラン・ルネ

気を取り直して、活動再開。サンローランとルネはこちらの試着旅にて。

それ以外で試したのは全てライトアウター。バーニーズ(見やすい!)であれこれ試した中では、sacaiのブルゾンパーカーとCFCLのニットコートが良かった。だけど散々着た結果、ライトアウターを今年買うのはやめよう、と決意した。

秋から冬にかけて徐々に気温が下がっていく時期の体温調節は難しい。それを反映して、ライトアウターには無限に種類が存在する。その中から納得の一着を選ぶには、自分が毎年その時期の何に不都合を感じ、何があったら便利だと思っているかを掴む必要がある。だけど、去年の記憶はまるでない。

だったら今年は手持ちで乗り切って、記録に徹しよう。ひたすら試着して世の中にどんな品があるのかを知り、冬が来るまで気温と体感を記録して照らし合わせ、来季に備えよう。そう決めたことで、一つ肩の荷が降りた。

【61-75】egg・miumiu・CFCL・チカキサダ・th products・FETICO・セリーヌ・ジルサンダー

突然取れた平日休み、表参道で一気に駆け巡った(別途note書きたい)。

ギャルソン青山で紹介されたeggのキルティングロングコートは神がかっていた。ライトアウターは買わないと決めたのに、DIORに負けず劣らずの唯一無二なシルエットにぐらぐらと心が揺れた。

続けて、ザ トウキョウで出会ったth productsのライトコートに悶絶。ジレみたいなロングジャケットみたいな、どこか宝塚の男役めいた純度100%のかっこよさ。これが自分でも驚くくらい似合って、店員さんの方が興奮していた。

そしてセリーヌで、ようやく自分の好みをはっきり自覚。スタンドカラー、ウエストシェイプ、裾に向かって広がる形、上半身になんらかのデザイン性。なるほどそうか、DIORはまさに私の好みの究極形だったと気がついた

【76】Yohji Yamamoto(再)

密かに、8月から大本命だったコートがある。まだ写真すらなかった時点で、店員さんの説明とラフ画で完全に心を掴まれていたもの。10月初旬、その素材違いが先行で入荷したと連絡を受け、勢いこんで店頭に赴いた。

ウエストが極限まで絞り込まれることで腰のカーブが強調され、続けてなだらかに裾に向かって落ちるライン。肩から背に向けて垂れ下がったフラシと、右の前半身に大きく下がった切りっぱなしの生地が歩くたびに揺れる。随所に「らしさ」が光っていて、遠目に見てもヨウジヤマモトだとすぐわかりそうなコート。

素晴らしかった。似合いもした。けれど、同時に打ちのめされた。

ウエストの絞り具合が尋常ではないのだ。想像していた3倍キツい。夏用のシャツ一枚でボタンがギリギリ留まるレベルで、冬用のインナーはとてもじゃないが着られそうにない。サイズを上げれば多少のゆとりは出そうだが、それだときっと袖と裾が長すぎる。私の身長だとこのサイズが多分、ジャスト。

お直しをして、ボタン位置を少しずらす手もあるだろう。だけどそれでは、完璧に構築された世界観が崩れてしまうような気がした。店員さんはそんなこと一言も言わなかったけれど、ミリ単位で計算し尽くされた究極の美はこのまま着てこそ成立する…そんな気がしてならなかった。

コートから、マエストロの気迫が立ち上ってくるようだった。彼はこの服に魂を込め、命を賭けて美を築き上げている。そこに一切の妥協はない。それはつまり、着る側にも同じだけの覚悟を求めているということだ。俺は地上で最も美しい服を作った。この服を、この世界観を纏いたいなら、お前も覚悟を決めろ。そう言われているような気がした。

これが、パリコレの世界か。

「日常着」を謳うY'sとヨウジヤマモトの違いがはっきりとわかった瞬間だった。へなへなと力が抜けた。私にそれだけの覚悟なんてなかった。服に打ちのめされるなんて、生まれて初めての経験だった。

【77-84】Max Mara(再)・theory luxe・Y's(再々)

大本命にあっさりと(勝手に)振られ、コート探しは振り出しに戻ってしまった。どうすべきかわからなくなり、しばらくぼんやりしていた。

ある日のこと、仕事帰りにたまたまMax Maraの前を通りかかった私は、何も考えずふらふらと入店した。名作・マニュエラを羽織らせてもらう。生地、仕立て、全てが最高峰。裏地までもが美しくて、まさにどこへでも行けるコートだと思った。

それからtheory luxeに入り、一枚仕立てのミドルコートに目が留まった。目の詰まった薄手の生地で初冬からすぐ羽織れそうだし、適度なゆとりがあって中も着込めそうだった。丈も短すぎず長すぎず、着る場面を選ばない。店員さんの「こういうのが結局一番着るんですよね」という言葉に、確かにそうだなと頷いた。

その帰り道、思った。

試着旅で私はずっと「最高のコート」を求めていた。だけど出会ってしまったDIORはとんでもない高嶺の花だし、憧れのヨウジには振られてしまった。この状態で今から探す「最高」って、どうしたってこの二着の下位互換にならないか?

それに、私の思う「最高」の条件は、あまりにも私の日常にそぐわない。裾を巻き込むのが怖くて自転車になんか乗れやしないし、近所を歩くにも職場に行くにも何かと大げさな気がして落ち着かない。もし仮にDIORを手に入れたとしても、着る機会はかなり限られてしまうだろう。

だったらここは頭を切り替えて、今の私がどこにでも行けるコートを買ったらいいんじゃないか?

マニュエラが連れて行ってくれるのは、きっと最上級の社交場。でも、今年の冬の私に必要なのは、そういうコートじゃない。娘を保育園に迎えに行く時、背筋を伸ばして仕事に行く時、休日に家族で遊びに行く時、たまに一人で都会に赴く時、そんな場面に寄り添ってくれる相棒だ。

なんだ、そっか。暫定1位でいいじゃない。自問自答1年目、しかも苦手な冬にいきなり100点取ろうだなんて、ちょっと張り切りすぎだよ。それに、暫定1位で実際に冬を過ごしてみたら、またきっと何かが見えてくる。それから「最高のコート」を考えたって別にいいじゃない?

今度こそ肩の荷がストン、と降りた。いつのまにか随分力が入っていたな、と気がついた。

【85-100】Tao・sacai(再々々)・コムデギャルソンコムデギャルソン・GUCCI・HERNO・YOKO CHAN(再)・ジルサンダー(再)・モンクレール・ヴィクトリアベッカム・ドリスヴァンノッテン(再)

そんなわけで、ラストは完全に経験値としての試着旅。たまたま銀座界隈でひょっこり自由時間ができた日に、ドーバーストリートマーケットとバーニーズニューヨークをハシゴして一気に100着まで完走した。

めちゃくちゃ楽しかった! ドーバーで着たコート全部最高。

特にTaoのチャイナ風キルティングコートがめちゃくちゃ良くて、ここまで見たライトアウターの中で一番使い勝手が良さそうだった。軽くて程よくロング、雨でも平気、畳んでもコンパクト。ただしナイロンだから静電気だけが気になるところ。

あとは、やっぱりGUCCI最高だな〜とか、本気のダウンを買う日が来たらHERNO行こ〜とか、ドリスの色気はなんだかお花みたいだな〜とか、今季のYOKO CHAN意外といけるかもな〜とか、気楽に好き勝手なことを思いながらいろんな服を着るのはひたすらに楽しかった。


***


結局買ったのは

試着100着を無事に終えたその足で、この冬の暫定1位をお迎えしてきました!

Mackintosh NEW HUMBIE LONG ブラックです。

暫定1位にしようと決めた時点で、ウエストシェイプと裾広がりは断念。でも、スタンドカラーと上半身のデザイン性は欲しい。そう考えたときに思い出したのだ、7月に試着していたHUMBIEを。

そういえばあれ、一見普通のステンカラーだったけど、襟立てられたよね? しかもボタンがちょっとだけ目立つから、のっぺりはしなかったような。

全体のシルエットも、正面から見るとコクーンっぽいけど、サイドから見るとふわりとゆる〜い裾広がり。憧れていたドレスライクさはないけれど、英国的なかっちり加減に程よくゆるさが加わって、他では見られない独特のかわいらしさ。

生地はもちろん高品質でしっかりしているから、ちゃんとした場面でも臆することなく着られそうだし(黒だし不祝儀でもいけそうなのも高ポイント)、形にどこかゆるさがあるからカジュアルにも振れそう。襟を立てたり抜いたり、ボタンを開けたり閉めたり、アレンジの仕方もきっと無限大。

改めて羽織ってみると予想通り、インナーダウンくらいは楽に仕込めそうなゆとりがあって、そこで閃いた。そうか、アウトドアブランドで薄くてあったかいダウン買っとけば真冬でもいけるし、秋口にダウン単体でも使えるじゃん! そうだ、それがいい。それで行こう。

そんな感じで、決めました。

私のアウター探しの旅は、これにて終了。キャメルコートに憧れていた過去の私、シャネルジャケットを着る未来の私、そしてNEW HUMBIEを着る近未来の私。そんな自分に出会えた3ヶ月間でした。

あなたはこの冬、何着る?


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