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アメリカの高校生はYouTuberから学ぶ

アメリカでは、秋に大学受験が本格化し、多くの大学での最初の出願締め切りが11月1日にあるため、12年生(高校三年生)は目の色を変えて大学出願準備をしています。アメリカにも授業や大学受験をサポートしてくれる補習塾や予備校はありますが、日本のように皆が塾や予備校に通うような現象は起きていません。科目別、単元別、志望校別に授業を細かく提供してくれないからでしょうか。塾があっても100時間分の授業料を一括納入しなければならないとよく聞いていて、そうなるとかなり高額になり、気軽に通い始めるわけにはいきません。私が暮らしている地域では、こうした予備校は中国系または韓国系アメリカ人が経営していることが多いのが特徴として挙げられます。

では、アメリカの高校生はどうやって勉強しているのでしょうか。ずばり、YouTubeを見て勉強しています。私の知る限り、多くの高校生は、次の2つのYouTubeを活用していると言ってもいいでしょう。

一つに「クラッシュ・コース(Crash Course)」です。
https://thecrashcourse.com/

このYouTubeは、2011年にグリーン兄弟が開始。兄弟で文系と理系担当に分けているそうです。一つの動画が10~20分間の長さにまとめられていて、1科目あたり50前後の動画からなっています。実写やアニメ、効果音や小ネタを散りばめ、ユーモアとジョークに富んで、テンポよく飽きない構成になっています。TED Talkのような感じです。内容も細かすぎず、かと言って大ざっぱすぎず、ちょうどよくできています。アニメやマンガは、カナダ・トロントの会社が担当しているからか、かわいい絵柄で日本人にも受け入れやすいです。図解がとても分かりやすいのも特徴として挙げられます。学習の導入部分として適していると言えるでしょう。

二つに「カーン・アカデミー(Khan Academy)」です。
https://www.khanacademy.org/

これは、一部の教科は日本語字幕も付くようになっていて、馴染みのある人もいるかもしれません。世界のどこでも無料で教育を受けられることを使命にしたNPO組織で、2006年にヘッジファンドのアナリストをやっていたカーン氏が始めました。離れたところに暮らす親戚の子どもの家庭教師をするのに、YouTubeを使ってみたところ好評だったため、一般公開したところ、アクセス数やコメントがどんどん増えていき、社会的価値に目覚めたそうです。その結果、金融業界を辞めて、本格的に教育教材を作り始め、カーン・アカデミーを設立したそうです。クラッシュ・コースと異なり、板書が多いオンライン講義になっています。

これら二つのYouTubeは、日本の通信講座や予備校のオンライン授業と明らかに違います。カーン・アカデミーは、クラッシュ・コースよりは日本に近いオンライン講義かもしれません。しかし、板書する際の色の使い方や講師のプレゼン能力が明らかに違うのです。日本の場合、学校や塾の授業をそのまま録画してアップロードしているものが多いですが、それでは無機質で全く面白くありません。見続ける生徒の立場になって欲しいと思います。

そうした中、NHKのEテレ「歴史にドキリ」は、興味を集中させて勉強できる番組として、中村獅童が歌って踊りながら、小学6年生の社会の教科書にでてくる歴史を教えています。
http://www.nhk.or.jp/syakai/dokiri/origin/bangumi/

これまでの日本の教育番組の常識を打ち破って、頼もしいと思います。ただ、内容を考えた場合、暗記にはよいかもしれませんが、深く理解したり、考えたりするのには、不十分のような気がします。

日本には、伝記や歴史マンガが昔からあります。私は、自身が高校で世界史を学んでいた頃、友だちと池田理代子の「ベルサイユのばら」を回し読みし、フランス革命を理解したものです。最近では、細胞の擬人化アニメ「はたらく細胞」も人気のようですが、これは教育に役立つ娯楽のようです。ボーカロイド曲で覚える中学参考書もあり、画期的だと思いますが、教科の学習内容全てをカバーしているものではありません。

つまり、日本には、教科の学習内容全体を網羅している高校生向け学習教材がありません。日本は、世界に誇るポップカルチャーがあり、ビジュアルに訴えることが得意だと思います。そうした文化や技術を駆使すれば、今までにない、良質な教育ビデオをこの世に送り出すことも可能なのではないでしょうか。各教科の学習内容を、図解に落とし込んで整理することもできると思うのです。

その際、暗記に特化し、目先の大学受験合格だけを目的にしたテクニカルな動画に終始するのではなく、視聴者である生徒の理解を深め、問いかけ、考えさせる内容にして行って欲しいと心から願います。そうして行かなければ、長い目で見た時、グローバル社会に打ち勝つ人間は育成されないと思うからです。

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