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アメリカの社会科教育

 私が高校生だった頃、社会科の試験というと、いかに暗記するかにかかっていました。大学受験でも同じでした。重箱の隅を突くような、トリビアクイズ的な問題が苦手でした。大学に入り、学士論文を書く段階で初めて、論文を書く作法を学んだ記憶があります。

 自分で仮説を立てて、それが正しいか否かを検証する。

 これは社会科学も自然科学分野も変わらぬ学問の基本姿勢ですが、私はそんなことに気づくのに長い年月がかかってしまったのです。十分な訓練ができていなかったので、いまだに、論理立てて物事を説明したり、説得力ある文章を書いたりするのに時間がかかります。

 それに比べ、私の回りにはなぜ論理の展開がうまいアメリカ人が多いのでしょう。はっきり言って悔しいです。でも、娘をアメリカの学校に通わせる中で、その理由がわかって来るようになりました。彼らは小学生の頃から訓練されているのです。

 具体的にどのように学校でトレーニングされているのか。ある高校のアメリカ史の授業で出された「工業化と移民が都市の生活に与えたインパクト」に関する課題について取り上げて考えてみます。「工業化ないしは移民流入(どちらか一つ選択)は都市部の生活にもたらした功罪を分析せよ。」というエッセイ提出が宿題に出ています。これは厳しく採点され、成績に大きく反映されます。

 採点基準も、以下の4つのカテゴリーに分けて明示されています。
(1) 序論、分析的論文(20%)
序論部分には関係する背景情報を入れ、自分の論を支持する根拠を最低2つ提示し、議論すること。
(2) 証拠と理由(40%)
最低2つの資料を提示し、どのように自分の論を支持しているか説明すること。また、最低1つの対峙する論を挙げること。
(3) 資料分析(30%)
資料の出典を明らかにし、その資料の解釈と資料が持つ限界について述べること。
クロース・リーディング(Close Reading)をすること。すなわち、資料を詳細に解釈し、強みと弱み、もたらす影響について分析し、信憑性について評価すること。
(4) 文章(10%)
論理的な構成になっているか。序論、本論、結論があるか。適切なボキャブラリーが使われているか。

 生徒は提出する際に剽窃チェックのシステムを通すことになっていて、インターネットから安易なコピー・ペーストができないようになっています。アメリカのある高校の例を挙げましたが、こうしたエッセイの課題が社会科や国語のクラスで、年に4,5回程度出され、厳しく採点されて返却されます。何となく採点されるのとちがい、その採点根拠をあらかじめ明確に示すことで、生徒も教師もその採点基準に沿って作業することができるような仕組みができているのです。

 このような教科課題を前にして、暗記中心の学校教育を受けてきた私は、大人になってからどんなに訓練しても、論文を書く作法を厳しく指導されてきた彼らには太刀打ちできないものを感じます。教育の大切さ、影響力の大きさを、身をもって痛感する今日この頃です。

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