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アメリカでK-popに惹かれる若者たち

 アメリカに暮らして20年になるが、私が初めて関心を持った海外は朝鮮半島で、大学では語学や歴史を学んだ。1980年代終わりから90年代初頭の韓国は、隣国でありながら、まだまだ遠い国だった。当時としては画期的だったが、大学の授業でも韓国ドラマを扱い、リスニングやディクテーションをした記憶がある。しかし、勉強の域を超えて、韓国ドラマを見ようとまでは思わなかった。そこまで簡単にビデオが入手できなかったこともある。だから今日、韓流ドラマが一つのジャンルとして確立し、不動の地位を占めているのを見ると、隔世の感がある。さらにK-popの存在感も年々増して、圧倒される。
 

 時代を経て私は現在、アメリカの公立高校で臨時教師をし、複数の高校で仕事をしているが、昨年、生徒から、放課後にミーティングをするので、教室に鍵をかけないでくれと言われた。どんなミーティングをするのか興味を持って訊ねたところ、K-popミーティングをすると言うではないか。アメリカの高校で、非アジア系生徒の口からK-popという言葉が出てくるとは思わず、とても驚いた。以来、K-popファンの動きを気にするようになった。

 そして6月20日、トランプ大統領がオクラホマ州で開いた選挙集会の参加者が予想よりかなり少なかったのは、K-popファンたちが絡んでいると聞き、驚くと同時に、なるほどと合点したのだ。選挙集会のチケットは無料で、オンラインによる登録制となっていた。当初、100万人の参加者を見込み、1万9000人収容のアリーナに入りきれない人のため、屋外での演説も予定していた。コロナ禍の下、大統領自らが大勢の人を集めて選挙集会を開催すること自体が信じられず、私は冷ややかに見ていた。しかし、当日、6000人程度の参加者しかおらず空席も目立ったが、CNNやBBCによれば、その原因が、なんと集会に参加する意思のなかった全米各地のTik Tok利用者とK-popファンによるものだったと言うのだ。

 ここでK-popが出てくるとは思わなかった。しかし、冷静に考えてみると、高校生が普通に「K-pop音楽はCool!だよね」「BTSって格好いいよね」と話し、歌に合わせて踊りの真似をし、それをTikTokで仲間とシェアする。そうした今どきの若者が、トランプ大統領に疑問を感じて、ネットの力を使って意思表示をする。いかにも10代の若者がやりそうなことだ。

 さらに深く掘り下げて考える機会を与えてくれたのが、7月14日、ワシントンDCに本部を置く韓国経済研究所(Korea Economic Institute of America; KEI)による30分間のオンライン・イベントである。「K-popファンの政治動員」("Political Mobilization of the K-Pop Fandom: A Conversation with CedarBough Saeji.")と題して米国インディアナ大学のSaeji氏が、K-popについて分析をしてくれたのだ。Saeji氏によると、アメリカのK-popファンの年齢層は、韓国と比べて10代から20代と高めで、アフリカン・アメリカン、ラティーノ、LGBTQなど、人種や性別などの枠を超えて構成されているのが特徴である。そして、既存の価値観に違和感を持ち、偏見のない開かれた心を持つ若者が、K-popファンになるのだと言っていた。これはアメリカにおけるマンガやアニメ、コスプレファンも似たような傾向にある。保守的な考えを持つ白人系の若者は、K-popやマンガなどに興味を持たない。

 他方、K-popグループは、イメージ作りの一環としても社会貢献が大切で、自然災害時の活動やお年寄りに寄り添う活動など、地元に根差した社会活動を行ってきた。しかし、音楽が国際的に受け入れられ、世界中にサポーターがつくことで、社会活動もグローバル化し、たとえば発展途上国での井戸作りや、難民の食糧支援など開発支援も行うようになってきている。そして、K-popグループはファンサービスが手厚く、コミュニケーションが密なのが特徴で、こうした社会活動をする中で、ファンと一体化が生まれているのだそうだ。

 私が思うに、K-popファンは、SNSの普及で団結力や拡散力が増すことで、熱烈なファンとして、音楽に対してリスペクトするだけでなく、社会や政治に関心を持ち、積極的に活動を行っているのではないだろうか。一緒に行動を起こすことで社会を変革しよう、それがトランプ大統領の選挙集会への抗議であり、Black Lives Matter活動(BTSファンによって、24時間で100万ドルの寄付金を集めた)にもつながっているように見える。つまり、K-pop音楽のファンになることで、好きになった音楽グループが行う韓国型の社会・政治活動を学び、その結果、アメリカでもマイノリティに属する若者たちが活性化され、これまでアメリカでは見られなかったやり方で政治動員(Political Mobilization)が巻き起こる可能性を秘めているということではないだろうか。ソーシャルメディアの新たな活用を生み出せる若者がこの先、国境や文化の枠を超えて変えていくのだろう。

参考文献
Julia Hollingsworth, “K-pop fans are being credited with helping disrupt Trump's rally. Here's why that shouldn't be a surprise” (June 22, 2020, CNN)
https://www.cnn.com/2020/06/22/asia/k-pop-fandom-activism-intl-hnk/index.html

BBC NEWS「トランプ陣営、Kポップ・ファンによる「偽予約」否定 支持者集会の空席めぐり」(2020年6月22日付)
https://www.bbc.com/japanese/53133052

Korea Economic Institute of America, “Political Mobilization of the K-Pop Fandom: A Conversation with CedarBough Saeji” (July 14, 2020)
https://www.youtube.com/watch?v=DQ5VWl-o5b4

CedarBough Saeji, “The K-pop revolution and what it means for American politics” (June 24, 2020, The Washington Post)
https://www.washingtonpost.com/outlook/2020/06/24/what-is-k-pop-how-did-its-fans-humiliate-president-trump/

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