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つばきファクトリー『弱さじゃないよ、恋は』と『君と綴るうたかた』

つばきファクトリーが6月にリリースしたシングル曲は、やはり『アドレナリン・ダメ』が一番人気だと思うのだが、個人的に好きなのは『弱さじゃないよ、恋は』だったりする。

そんな『弱さじゃないよ、恋は』の作詞は安定の山崎あおいさん。そして作曲はShusui/Josef Melin、編曲Josef Melinという去年のハロプロ楽曲大賞'21で堂々の2位を獲得した『涙のヒロイン降板劇』の作家陣だ。

山崎あおいさんの詩の世界観は他のグループに提供する歌詞でもそうだが、今どきの女子の不安定な心境を見事に表現していて毎回良質な短編小説を読んでいるような気持ちになる。

今回の『弱さじゃないよ、恋は』も淡い恋心を描いた作品で、恋愛マンガがアニメ化された時に主題歌にしても良いんじゃないかと思うくらい切なさに溢れている。

なんだが、じゃあどんな作品に合うかと思って考えたのだけど、どうも普通のマンガとかでピンとくる作品が見つからない。なんかちょっと世界観が合わない。

雑踏の三番線 背中 追いついて
会いたかったよ だって 私らしくないな

冒頭の歌詞だ。朝の混雑している駅で相手を見つけて「会いたかったよ」って思わず言ってしって(私らしくないな)とちょっと自虐的になる主人公。ということは学生って感じはする。そして二人は年の差のない同級生っていうイメージも湧く。

往年の谷川史子作品のようなベタな青春っていうよりも、もっと今のドライな空気感がこのたった2行からでも感じられる。

線路ごし 蜃気楼 夏模様
気づいたら 街中 カラフル
「綺麗だね」って素敵ね

そして続くこの3行。線路ごしの向かいのホームが暑さで少し蜃気楼がかる中、行き交う人々の服や持ち物、看板やポスターが夏らしくカラフルで、そんな光景を「綺麗だね」ってさりげなく言う。

だが普通の男、特に中高生がこんなこと言わない。こんな詩的な感性の男はいない。あまりにリアルじゃないし、少女マンガのキャラとしても狙いすぎていて引いてしまう。

なんか男女カップルという設定に違和感を抱き始める。特にそれは2番以降の歌詞で顕著になる。サビの部分に注目したい。

代わりじゃないよ 君は
ずっと初恋みたく 純情
思うように うまく走れない
夢なのかな

ふつうじゃないよ 君は
どうして好きになってくれたの?
面倒なほどに 臆病な
私でしょう

とても自己肯定感の低い主人公だ。なにか負い目を感じて生きていて本当に「私なんて」が口癖なんだろうと思えるほど後ろ向きな子で、だからこんな自分を好きになってくれた相手にいまだ疑心暗鬼になっていて「思うようにうまく走れない(行動できない。喋れない)」ことが、悪夢のようにも感じてしまう。それくらい面倒で臆病な子なのだ。

なんだろう。こういう主人公って百合マンガとかによくいる。そうだ。あれだ、と思いついたのが『君と綴るうたかた』という作品だった。

「次にくるマンガ大賞2022」にもノミネートされていた現在4巻まで発売している連載中の作品で、内容としては過去に闇を抱えていて人と関わることを避けて高校生活を過ごしている主人公・雫が誰に見せるものでもなく書いていた小説をクラスメイトの夏織に見られてしまう。馬鹿にされると思って雫が身構えると夏織からは意外な反応が……それぞれに秘密を抱えた者同士が夏休みだけの「恋人ごっこ」を演じるなかで、少しずつお互いに寄り添いだしていくというシリアスでけっこう重い作品なんだけど、なんだか『弱さじゃないよ、恋は』の世界観がこのマンガの二人にバチンとハマるのだ。

行き先は わからない
傷つく未来 待ってても
でもね いいの 二度と忘れない

『君と綴るうたかた』最新4巻では、いろいろと進展したなかで明るい未来は見えない。必ず「傷つく未来が待っている」としか思えない状況だ。それでも二人は「いいの 二度と忘れない」という強い気持ちで繋がっている。

そんな百合として改めて歌詞を紐解くと、とてもしっくりくる。

線路ごし 蜃気楼 夏模様
気づいたら 街中 カラフル
「綺麗だね」って素敵ね

「綺麗だね」って詩的なことを言える少女、そんな彼女を見て「素敵だな」って思う主人公の女の子。とてもしっくりくる。

君だから ほどけた
歴戦の 頑なな
だから 今ね 聞いて 欲しくって

「君」と表現するのも文学的で百合っぽい。

そしてこの曲最大の見せ場である落ちサビ

人混みに よろけて
ぎゅっとした アーバンブルーのTシャツ

つばきファクトリーの新・落ちサビ女王となった河西結心ちゃんが切なさ全開で歌いきる「ぎゅっとした アーバンブルーのTシャツ」は、男子が着ているよりも女子がちょっとラフに着こなしている方が素敵だとは思わないだろうか。僕だけか?

『君と綴るうたかた』だと夏織ちゃんは着なさそうだし、雫ちゃんが人混みによろけてぎゅっとシャツを掴むというのは二人の身長差的にも無理はあるシチュエーションではあるが、なんかでも、よろけてシャツ掴んだだけで「幸せ預ける強さをくれたんだよ」なんて思えるって、とても百合的な表現だと僕は思うのだ。

結論。

『弱さじゃないよ、恋は』は百合。

ありがとうございました。


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