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34.ヤマメとサクラマスの哲学的生き様

 ヤマメ、川魚でも随一の優美さを誇り、渓流の女王とも言われています。
 体長は15cm~ほどで点や帯のような模様が特徴的です、一生を川ですごします。高級魚とも知られており、絶品の塩焼きを食べた人も多いのではないでしょうか。私もまた食べたくなってきました。食べたいです。

 対してサクラマス。
 体長は70cm~ほどにもなり、産卵前には鮮やかな桜色になることで有名です。川で生まれ海へ降りて豊富な栄養を摂り大きくなって帰ってきます。(生物学上ではサケとマスの明確な違いはあまりないそうですが)サクラマスのいくらは黄金いくらとしてブランディングされ高級食材としても出回っております。

 このヤマメとサクラマスは体格も生態も大きく違いますが同じ魚なのです。この違いは稚魚での食事量で決まります。
 (幼少から競争社会で生きる…、人間同様ヤマメも大変ですね…。)

 ◎ヤマメ(勝ち組)
  幼少から多くのエサを食べられたグループで、川に残ります。
 ◎サクラマス(負け組)
  比較的エサを食べられなかったグループで、降海します。

 勝ち組負け組という不名誉極まりない分け方をしてしまいましたが一番わかりやすいので、サクラマスにはご理解いただきたいと思いつつ、
 グループ分けの仕組みを下記いたします。
 川では流れが一方方向に流れていますので、エサが落ちると下流にながれます。(当たり前ですね。)そうなると当然、エサにありつける確率が増えるのは前を泳ぐ魚になるわけで、一番前を泳ぐ魚が一番強く体力もあり勝ち組になれるわけです。

 サクラマスはエサにありつけず、追い出され同然に川を降りたというわけになります。サクラマス達には幼少での競争に負けてしまったので惨めな魚生を送る事が決定してしまったのでしょうか…。実はそうではありません。
 前述しておりますがサクラマスはとにかくでかい。ヤマメと同じ魚とは思えないサイズに成長して帰ってきます。海で大量の捕食者によってさらに過酷な生存競争にさらされますが、その反面川とは比べ物にならないほど豊富な栄養量があります。井の中の蛙大海を知らず、と言いますが、川のヤマメも大海を知らなかったわけです。
 こうしてサクラマスは過酷な生存競争を勝ち抜き(文字通り)見違えるほどの姿となって地元に帰ってきます。なんという逆転劇でしょう!
 この後待ち受ける魚生の集大成イベントが待ち受けています。生殖です。

 メスは自分で卵を産みますので自分の遺伝子が残ることが確定しています。が、それに精子をかけるオス達は必死です。自分の遺伝子を残すには自らの精子でどうにかこうにか受精を果たさなければなりません。
 そんな折、見違えるようなバルクを手に入れたサクラマスは当然、そのバチバチのバルクを駆使して他のオスを追い払います。これは俄然有利かと思いきや、産卵しいざ精子をかけるタイミングで小柄で素早いヤマメが割り込みササっとかけ逃げていくのです。嗚呼、無常。もはやNTRです。ヤマメは人類が生まれる前からNTRの世界でいきていたのです。

 ただ、メス視点から見てみたらどうでしょう。
 サクラマスの余りある体格で他のオスを追い払う姿は大変魅力的に見えるのでしょうか…?そうです、サクラマスがなぜ大きな体格になったかというと海に降りたから、ひいては川から追い出されたからなのです。
 メスの目にはあの大きな体はまさに幼少に負けに負け川から降りなければならなかった弱さの証として映っているのではないでしょうか。
 同じオスとして涙を禁じえません。

 さて、サクラマスは栄養豊富な海へ出ることで大きな体を手に入れました。人間でも同じ場所に留まっていては大きな人物にはなれません。やはり冒険は危険と隣り合わせですが学びや経験は段違いです。(というか川では物質量的に大きな体格になるのは無理なのです。)大きな成果を得るためには大きなリスクと経験がある環境に身を置くことでしか成長の可能性はありません。

 そして重要なのが、川に残ったヤマメも過酷という事です。海の栄養に注目しておりましたが当然、川の栄養は相対的に少ないです。というかかなり少ないです。海のようにゴロゴロ栄養が転がっているわけではりません。他者を蹴落としてまで自分でつかみ取るしか生きる道はないのです。美味しいものは待ってくれません、すぐに誰かの口の中なのです。

 双方違った生活史を送りますが、どちらも大変でありどちらも魅力的なのです。
 人間の生き方も人それぞれ様々ありますが、そこに良し悪しという価値観はないのかもしれません。
 あるのは「どうなりたいか」

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