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(恋)人A。


(08.09:この感情もまたいずれ忘れてしまうのだろうかと、恋の終焉を考える。)


夏の煙に巻かれて


これは恋か


想い返す頃にはもう手遅れで

私は喫茶店で途方に暮れていた

もう少し早く出逢えばよかった

もう少し早く出逢っていれば

もし君がもう少し早くに

もしあの時すれ違っていれば

理想だったのかもしれない


あたしたちは今2人きりになれない2人ぽっちだ

1人と1人が隣にいて、偶然2人になっているだけの2人ぽっち


緩やかな傾斜で日が落ちていく。





空が青い

悠々と過ぎてゆく夏の雲

眺めても遠くへ遠ざかる

今日みたいに息もできないほど

あつかった


身体中が火照る昼間
コーヒーを片手に泣いていた。


自覚してしまえば終わりだと
釘を打たれたばかりなのに、
私はその釘を謝って足で踏んでしまったのだ。

そしたら、血が止まらなくて、止まらなくて、溢れた心が好きだと声を荒らげた。

それはそれは、よく晴れた日だった。

貴方の過去を知らないことが許せなくなった夏の日。
コップの水滴と手汗の境目がわからない。
店内の音楽よりも自分の鼓動の方が大きく、
店の中にいながら汗をかいていた。
おしぼりをいじってごまかした。
これは恋ではない、恋ではないのだと。
そんな頃にはもう、遅かったのかもしれない。

4時を指す時計が夜になった頃
僅かな眠気とわびしさの狭間で横たわる。
静かで生ぬるいシーツに乗っている。

ケータイを閉じては開き通知で起きる

まだかまだかと返信を待つのはいつぶりか。
あれはまだ上京をする前のことだろう。
彼が今何をしているかもう何も知らない。


いつかは思い出として昇華されるのかもしれない。いつかはそんなこともあったねと昔話になっているかもしれない。

その時に、笑い合える私たちだったら、いいのかもしれない。そのことを想像して、やっぱり笑えないよって困った顔をしてしまう私たちの方が愛おしいのかな、とも、未だ思ったりする。




堕ちるならばいっそのこと、一緒に落ちてしまえばよかったのに。



もっと早く出会っていれば


私たちはひとつになれたのだろうか、


ただそんな気がしているだけか。



私たちは関係性ゆえの恋人では無い、とおもう。ただただ恋しあっている。

早まる手を鼓動が掴めば、私を暗い奥の茂みへ誘い込んでゆく。奥の方へ奥の方へと。

いけないよ、そこまでいっちゃあ、
どうなるのか、わかっているでしょう。
ずるさ、痛さ、切なさ、甘さがギュッと混ざって、苦しさになった向こうに、いったい何があるというの───────?また自分の手で苦しめて泣いても、誰も助けちゃくれないよ。


会えば苦しく、会えない日はもっと、想うほどに苦しい


これを恋と言わずしてなんというか


胸の中で眠る時、感じた痛み。

私が彼の温度を受け取るのと同時、彼は私の温度をどう受け取っているのだろう。

溶ける瞼の裏で見つけた睡蓮の花。

深い森の小さな湖の畔で煌々と光る紫。

その花弁に肌を沿わせると、とてもいい香りがして。


蕩けそうになる。


確かに速まる鼓動が彼の肋を伝ってゆくのだ。




これを恋と言わずしてなんというか。



愛と言わずして恋という

彼と言わずして恋という



恋人A




友達と言わずして野良猫という


私の中に棲みついた緩やかなまつ毛の先

撫でてはゴロゴロと鳴いている










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