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あなたの思い出買いますから(仮)

第1話 フランスアンティーク

遠くで事務所の電話が鳴った。察するに仕事の依頼のコール音だった。
僕がいる作業場は、離れた事務所に電話はあるが、社長の携帯と連動しているから携帯と固定電話の両方が鳴るようになっていて、フリーダイヤルと普通の電話でコール音が違うので仕事の依頼かどうかすぐわかるようになっていたのだ。

「はい。便利屋です。どのようなご依頼でしょうか?」社長の声が聞こえた。

僕がお世話になっているのは、昔から名前はよくある便利屋さん。
ずいぶん昔、なんかのテレビで役所の中に配置された、”なんでもやる課”とか”すぐやる課”とかいうのを見たことがあって、お年寄りが頼んだ庭掃除をやったり、電球変えたりとかしていたが、便利屋は、それとはちょっと違っていて、いわゆる廃品回収や、遺品整理といった片付け屋さんといった仕事が一般的になっていた。
最近は随分増えてきて、悪徳業者も中にはいて、無料廃品回収と回りながら、いざトラックにモノを乗せると難癖を付け、お年寄りから金を無理やりもらうという輩も増えてきたようだが、うちはいたって良心的で、消費税も込みで明瞭会計になっている。
それ故、季節ごとの決まった時期になると依頼してくる数年来の固定客もいて信頼のある便利屋だった。

買取もやっていて、古い物や珍しいものを主に買い取っている。たまに、いらないから幾らかにならないかという持ち込み買取の客も来るが大抵はゴミみたいなモノを持ち込んで来るので、「奥さん。こんなの売れませんよ。ゴミですよ。」と心の中でつぶやかせる客がほとんどだった。
捨てるには忍びない、幾らかにかならないかと思うのだから、その人にとってよほど思い出があるものなのか、高価だったのかもしれないが、僕から見たらほとんどいらないものだった。
たまにだが中には、すごいと思うモノもやってくる。

片づけて出てきたり、買い付けたものは、ネットオークションに直行なので、モノの相場をいかに知っているかで、儲かるかそうでないか随分と違ってくる。僕は、そのネットの作業を任されているのだ。

社長の目利きの物や僕が気になったもの、ネットでとりあえず過去の相場を調べて高そうな物をネットに出す。

掃除をして、見栄えを良くし、動くべきものは動作確認して、なるべくアングルよく写真を撮りアップしていく。
骨董品や、絵画、アンティークなガラス、古いおもちゃ、雑誌の切り抜き、レコードなどなどありとあらゆるモノがくるから楽しみながらやっている。

モノについては、ある程度下調べをしてその時期や作者、作品名、品番など調べるから結構時間と手間がかかるが、調べたものが、それなりにうっすらだが頭に残ってくるので、自分の知識に積み重ねられていく。

骨董品などはまさにそれで、モノに触れるほど、謂わゆる「目利き」ができるようになるのだ。

この仕事を始めてまだ4年の僕は、まだまだでやはり、社長に言われてそのままをネットに上げている。

ただ僕の好きな分野もあり、それに関しては、社長より僕の方が詳しくなってきたみたいで社長もそれに関しては僕に聞いてきたり、すぐに渡して任せてくれたりするようになってきた。

僕は西洋アンティークの食器や、ガラスが大好きで、自分でも、とびっきりのやつは、社長にお願いして譲ってもらったりして家に飾っている。
あまり物を増やすと、それはそれで職場と家との区別がつかなくなりそうで居心地が悪くなるから、今の数だけで止めているが、やはりどうしてもというものもたまにやって来る。

今日きたヤツもかなり悩んでしまうがなんせ高値が付きそうなので出品の準備をしている。

西洋アンティークでフランスのGIENのプレート。古いものだが珍しく「にゅう」もあまりなく美品。因みに「にゅう」というのは、ヒビではないが、陶器の性質で高温で焼き上げる時に釉薬が、その温度差でひび割れして細かい線がいっぱい入ること。それはそれで味になっている。

僕は、そのプレートを手にすると裏返して烙印を見てGIENのそれを確かめた。表に返してその美しい柄にうっとりしてしまう。

草色の色絵は、日本のモノとは違って細い面相筆で描かれたように繊細で美しい。まるでキャンバスに描かれた絵画のようだ。
白い陶器に描かれた草花や鳥たちは、本当に美しい。
うちに連れて帰りたい!
久しぶりにそう思って、社長に聞いてみた。
電話中の社長に身振り手振りと口の動かしで意思を伝えると、面倒くさそうに社長は、手で払う格好をしてOKの返しをしてくれた。

やった!電話中をねらってラッキー。

さあ、これで何を食べようか?
いや、飾り皿として皿立てに飾っておくか?
僕は、一枚の皿にいろんな可能性を見いだして、仕事どころじゃなくなってきた。

うちに連れて帰えるからには、この皿に何も付いてないか見定めなければならない。
汚れやシミ、キズの類ではなく、歴代の前の持ち主の念というか、曰くというか、アンティークというからには100年くらいはザラに過ぎている代物だからどんな歴史を経て僕のところへやって来たか見極めなければならない。

これから一緒に過ごすんだから厄介なヤツは御免被る。

僕は、感じるのだ。
僕は、見えるのだった。

#小説 #アンティーク #昭和レトロ #骨董屋 #骨董品

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