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あなたの思い出買いますから(仮)フランスアンティーク③

日中は、まだまだ日差しが強く、汗がじわじわと滲んでくるが、ふと吹く風や日陰に入るとサラッとした感触の空気を感じる。秋がゆっくりとやってきているんだなと、開けた窓から入る風で感じながら作業を続けていた。

普段使いの食器や、カトラリー、台所周りの調理器具をワレモノ 、金属、燃えるものなどに分けていき手早く袋やカゴに分けていき、有名なメーカーの食器などは「イカシ」ボックスに丁寧に入れていく作業を繰り返し行う。こんな家にはかなりの量があるから本当にぱっぱとやらないと、いつまでたっても終わらない。いらないものは、投げるくらいの作業を繰り返してやっている。

古い家や、裕福そうな家には必ずあるブランドの食器や、陶器を見極めるのが大事で、その裏の刻印はひと目見てわかるようになっていないとこの商売に、儲けはない。

柿右衛門などのあまりにも高価なものは、一応聞いてみるが大抵は、「あ、もう要りません。」って言われ、「やった!はい、○万円ゲット!」などとこころの中で思いながら顔色一つ変えないで作業を続けるのだ。
依頼人がいないことが多いので、ほぼこちらの思うような段取りと処分の仕方でことが進んでいく。
今回もそんな感じでスムーズに片づけが進んでいった。

大きな食器棚が終わった時には、箱やカゴがかなり出ていたが、助っ人さんたちの働きっぷりで次々と運ばれていってかなりスッキリした感じになっていた。
今回は、ウェッジウッドや、ジノリといった銘品のカップや皿が、けっこうあったので社長も喜ぶだろうなどと思いながら吊り戸棚の片づけに移ろうと扉を開けた。

箱に入って明らかに結婚式の引き出物で使ってないような食器の箱が重ねてあったが、二つ目の扉を開けてみると、古いバスケットのようなカゴがった。

少し持ち上げるとかなりズッシリとしていたので中に食器があると思い慎重に引き出した。
バスケットは、長四角で両側からパタパタと開くやつで日本のものではないとひと目でわかった。
台所の気化した油が染み付いたのだろう、うっすら茶色くなったドット柄のリボンが結んであり、英国の映画に出てくるようなピクニックにぴったりのモノだった。
僕は片方の蓋を開けて中身を確かめてみた。古い家特有の匂いと一緒にかすかに紅茶の香りが鼻をかすった。

#小説 #骨董品 #ヴィンテージ #骨董屋 #ウェッジウッド #柿右衛門 #ジノリ

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