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「肖像権」と「NPO広報」の関係/オンライン会議ツール「ZEP」を使ってランチ会(2023年9月)

毎月最終水曜日のお昼にNPOの広報関係者がゆるやかに集うオンラインランチ会。9月も世話人同士でおおいに雑談していました。
今回もいろいろお話ししたのですが、この記事では「肖像権」についてお話ししたことをご紹介したいと思います。


広報担当者が「肖像権」を知っておく重要性

肖像権とは、人が写真を撮られたり、撮られた写真を世間に公表、利用されない権利です。そういう法律があるわけではないですが、過去の裁判の判例で認められてきた権利です。

事例:子どもの写真使用は、保護者の許諾が必要なのに…

子どもが活動するある団体では、入会時に「お子さんの写真を広報に使ってよいですか?」という確認を書面で取っており、掲載NGの子どもの写真は広報に使わない運用をとっていました。
しかしある年の広報誌をつくる際、入職して間もない担当者が肖像権に関する注意事項を意識せず、「写真の使用NG」としていた子どもの写真を広報誌の表紙として、広報担当者に提出してしまいました。

後から「写真使用NGの子どもだった」と気づいた担当者が、「使用NGでしたが、とてもいい写真なので広報誌に使わせてもらえませんか」と保護者に打診してみたものの、保護者の回答はやはり「NG」。
「いい写真をいい文脈で使用」で、「改めてお願いすれば」OKをもらえると思っていた担当者は半泣きになったそう…。
なぜならすでに広報誌は何千部と印刷済で、配布も開始していたのです…。(聞いただけで胃が痛くなる話です…)

今度は担当者は「本当に申し訳ありません。実は…すでに何千部も刷ってしまって1カ月前から配り始めているのです…。でも、とってもよく撮れているので、現物を見て判断してくださいませんか」と保護者に相談したそう。(あぁぁ…)
この提案に、保護者は「裁判沙汰にもなりうることを、担当者レベルで嘘をついてごまかそうとしたのか」「こちらに瑕疵がないことなのに “刷り直しをしてください” とこちらから依頼させるのか」と怒ってしまったそうです。

顔の写った写真が公表されると、どんなリスクが?

上記の例の担当者は、「よい写真・よい文脈なら、使用許諾がもらえるのでは…」という認識でしたが、肖像権に関する考え方は人それぞれです。子どもも含め、顔写真の利用について気にする人は、例えばこんなリスクを懸念しています。

  1.  他の保護者などとのトラブル:
    今回のように子どもが関わる活動の場合、他の保護者から「ひいきだ」と言われトラブルになったり、団体とのトラブルなどで批判的になった人たちが、あらゆる角度から攻撃するポイントを見つけ暴言をネット上に書き込んだり、別のWebサイトへ転載し誹謗中傷の的にしたり、ということも起こらないとは限りません。

  2. 不正使用:
    子どもの写真が他のウェブサイトやSNSにおいて無許可で転載・使用され、意図せぬ文脈で共有される可能性があります。
    例えば、子どもを性的な対象とする第三者が児童ポルノサイトへ掲載したり、アイコラの素材にされてしまうこともありえます。

  3. 身元特定やストーキングされるリスク:
    団体の広報誌に使うということは、「この団体に出入りしている子ども」ということがわかる状態=つまり悪意のある個人が、子どもの安全を脅かすリスクがあります。
    たとえば「〇〇に通ってる子だよね」などと話しかけることで子どもの警戒心が薄れてしまい、危ない目にあう確率も上がってしまいます。
    また、オンラインストーカーによる追跡や嫌がらせのリスクが高まります。

  4. 詐欺:
    子どもの写真が利用され、犯罪目的で使用されることがあります。例えば、詐欺の一部として、SNSなどで被害者をだますために子どもの写真が悪用されることがあります。

  5. なりすまし: 
    子どもの写真を盗用して、別のウェブサイトやアカウントを作成し、そのアカウントを本物の子どものアカウントとして偽装することもできます。悪意を持った人が、その写真を使ったアカウントで、ひどい言動を行って注目を集めてしまったら…。

  6. 事件や事故に巻き込まれたときに晒されるリスク:
    事件や事故に家族や本人、団体が巻き込まれたときに報道などに使われ、それをもとに心無い批評をされるリスクがあります。

こういった考えでリスクを回避している保護者に「よく撮れているので…」を根拠にゴリ押しするのは逆効果です。
結局刷ってしまった広報誌は回収となり、別のデザインで刷り直しすることになったのだそう。
お金の問題だけでなく、保護者の信頼も失ってしまうため、このような事態に陥る前に、スタッフ全員がコンプライアンスの研修を受講しておくことが重要だと思います。

「one of themで映り込む」、ならいいの?

「メインの被写体じゃなくて、その他大勢として映り込むならいいよね…?」など、迷う場合もあると思います。

デジタルアーカイブジャパンが、「公人かどうか」「どんなシチュエーションか」などを数値化し、合計した数がこのくらいなら「公開OK」「限定公開とすべき」といった肖像権ガイドラインを用意しているのを見つけたので、こちらを参考にしてもいいかもしれません。

デジタルアーカイブ
http://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2021/04/Shozokenguideline-20210419.pdf

関連の参考記事

NPOで配慮が必要な被写体

NPOの場合、利用者や受益者の声を紹介するのに当事者の写真を使いたいと思うシーンは多々あると思います。しかし、当事者=特に配慮が必要な被写体 であることもしばしばです。
書面での許諾確認や、顔のわかる写真を使わない判断も時には必要でしょう。

  • マイノリティや貧困当事者の場合
    写真がスティグマとなり、いじめや差別を助長してしまうおそれがあります。

  • 難民や特定の国からの研修生受け入れ
    国によっては、命にもかかわる事案です。

NPOのための頼れる弁護士さんたち

NPOのために、勉強会、法律相談、講師などをされている弁護士の皆さんがいらっしゃいます。何か起こってしまう前に、また何かあったら覗いてみてください!

・NPOのための弁護士ネットワーク
https://npolawnet.com/

・BLPネットワーク
https://www.blp-network.com/

※NPO広報友の会の世話人は弁護士資格等はありませんが、NPOの広報制作物などの知見を基にしたNPOの広報担当者のコンプライアンス研修の講師経験があります。お気軽にお問い合わせください。

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NPO広報友の会とは?
NPOの広報力を高めたい人・NPO広報に関わる人たちのサードプレイス。ゆるやかなつながりと切磋琢磨の場をつくり、ありたい未来に近づける力をチャージする集まりを目指しています。会のご紹介はこちら

世話人について
林田全弘(株式会社ガハハ デザイナー):Twitter
槇野吉晃(認定NPO法人サービスグラント関西事務局/はしのまち映画会 代表):Facebook
マキノスミヨ(ビッグイシュー・オンライン 共同編集長):Twitter

世話人のイベント登壇予定
*林田全弘
月2回実施している、Youtubeライブ。
最近は、Canvaのデザインフィードバックをライブしています。
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*槇野吉晃・マキノスミヨ
10月28日 まちづくり団体運営力向上セミナー広報講座(和歌山県橋本市)
https://www.city.hashimoto.lg.jp/material/files/group/68/chiikisiennpo.pdf


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