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2010年ドラマ『蛇のひと』観賞

※ネタバレを含みます。

ドラマ冒頭。口笛を吹く三辺(永作博美さん)に「夜、口笛を吹くと蛇出るで」と注意する今西由紀夫(西島秀俊さん)

2010年ドラマ(一週間劇場公開された)「蛇のひと」(森淳一監督)観賞。ある日の朝、OLの三辺(永作博美さん)が出勤すると会社の部長が自殺をして会社内が大騒ぎになっていた。更に同日、三辺の上司、今西由紀夫課長(西島さん)が失踪。今西には一億円横領の疑いがかかっており、三辺は部下として今西の行方を捜すよう命じられる。渋々、小さな手がかりを元に今西を知る人物に話を聞いて行くと、彼と関わった皆の現在は、それぞれ少しづつ歪になっていた。更に調べようとした所、自殺した部長の妻が一億円の入った鞄を持って会社にやって来る。彼女は「すべて夫がやったことです」と詫びる。今西は横領なんてしておらず、何なら部長の罪を被ろうとしていた。なぜそこまでするのか。三辺は単身、今西の生まれ故郷である大阪へと向かい、彼の幼馴染(板尾創路さん)から今西のすべての元凶である痛々しい出生を聴かされる。

この映画での西島さんは関西弁を話し、他人に良い提案を勧めているにも拘らず冷めた目つきをしたり、反対に涙ぐむような情に厚いような表情を代わるがわる見せ、そこが謎めいていて、ふっと姿を現した時、恐怖感が倍増する。
事件が起こるずっと前、社内で口笛を吹く三辺に「夜に口笛吹くと蛇出るで。」と話した。この話は今西の幼少時代に彼自身が、義理の兄となる人物に聞かされた話だ。「蛇」の読みは邪悪の「邪」。今西は名高い義太夫の師範の下で妾の子として育ち、冷遇されていた。しかし血の繋がりを超える才能で周囲を圧倒し、師範もろとも破滅に追い込んだ。幼いながら生きるため「邪」を身に着けてしまった今西は心に巣食う「邪」を口車に乗せるという方法で生きて来た。三辺は思う。もしも今西が次に口車に乗せようとする相手が自分だとしたら……。

「邪」が顔を出す前の内面を、唯一垣間見せた生きた存在が幼馴染役の板尾創路さんだった。わずかに音程が外れたような西島さんと板尾さんの発声や眉間に皴を寄せるような仏頂面は不思議と似ていた。

三辺(永作博美さん)と幼馴染み、なおちゃん役の板尾創路さん

行方不明になり、駐車場に置いたままになっている今西の愛車は真っ赤なアルファロメオ。こんな派手な車に乗っているなんて意外だと三辺は思う。その赤は幼い頃、父親に買ってもらい大切にしていたおもちゃの万華鏡の色だった。やっかみから奪われたその瞬間、今西の中に静かに眠る蛇は邪になってしまった。
「これで見たら何もかもがきれいに見える。」
そう話すほど大切にしていた赤い万華鏡の煌めきは、彼の魂そのもののようだった。

ラスト、今西の姿はない。どこに行ってしまったのか生死も判らない。けれど蛇を表すような螺旋階段や道路、寒色から浮かび上がる赤の鮮やかなディテールは、今西がそこにいなくてもずっと画面を覆っているようで、恐怖と共に哀しみを感じた。色々考えさせられる素晴らしい作品でした。

『蛇のひと』DVDジャケット

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