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3spoons vol.9 『入れ違い』the 3rd spoon_3月クララ

文芸ユニットるるるるんによるツイッター400字小説 3spoons

Passengers

–入れ違い-Aが出たあとすぐにBが入ること。AとBは同時に存在しない。

ひゅわん、すたん、ずざ。ひゅわん、すたん、ずざ。クラスメイトが次々としなう長縄を跳ぶ。8の軌道を描く連続写真ができあがる。
わたしはもう、何回跳んでいるのだろう。底の薄いピンクのズックは砂を浴びてすっかり白茶けてしまった。

黒田くんが「ゴゴゴ」と鼻を啜りながら走り抜ける。黒田君はちょっとだけ力むとき「ゴゴゴ」と鼻を鳴らすのが癖だ。音読を当てられたり、リコーダーのテストの前なんかに。

トイレの芳香剤みたいなにおいは岸川さん。ミランダ・カーと同じ柔軟剤が自慢。昨日の岸川さんのお弁当は、焼きそばとおにぎり。

背の高い松島くんは、誰よりも早く声変りをしてからあまり喋らなくなった。「はちじゅよん」と小声で数えた低い声は、男子ではなく男の人のそれだ。

ひゅわん、すたん、ずざ。ひゅわん、すたん、ずざ。縄をくぐり、風を織るクラスメイト。

ひゅわん、すたん、ずざ。ひゅわん、すたん、ずざ。跳ねたズックは新品のピンク色。

わたしはもう、何回跳んでいるのだろう。

ひゅわん、すたん、ひゅわん、すたん、ひゅわん。無限の交点で、次のターンを待ち続けている。



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