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3spoons vol.11ー鍵盤ハーモニカーthe 1st spoon_かとうひろみ

文芸ユニットるるるるんによるツイッター400字小説 3spoons

アメリへの道

『アメリ』に憧れたお姉ちゃんが、前髪ぱっつんのボブにして、窓ガラスに逆さ文字を猛スピードで書く練習をして、鍵盤ハーモニカを買ってきた。でもお姉ちゃんは楽器が弾けなかったし、逆さ文字を書く練習で忙しかったので、鍵盤ハーモニカの BGM は私の役目になった。毎日二人でアメリの世界を作ることに血道を上げたが、お姉ちゃんが逆さ文字を書いているのはカフェの窓ガラスじゃなくて町の片隅に放置された廃病院の窓だったし、前髪ぱっつんのボブのお姉ちゃんはアメリというよりどう見てもワカメちゃんだ。私は嫌気がさして、鍵盤ハーモニカと家出することにした。ずいぶん歩いてあるお店の前で座り込み、途方にくれて《ブビー》と鍵盤ハーモニカを鳴らすと、ちょうど通りがかった中年の女性がぎょっとした顔をして財布を取り出し、100 円くれた。もう一度《ブビー》と鳴らすと、今度は顔色の悪い青年が憐れみ丸出しの顔で 500 円くれた。鍵盤ハーモニカには哀れと施しを誘う力があるのだった。《ブビー・ブビー・ブビー》。私はブビブビと演奏しながらちょっとした小銭を稼ぎ、一息ついて振り返るとそこは大きなガラス窓のあるカフェだった。カフェには求人の貼り紙がしてあった。明日、私は美容院に行って前髪ぱっつんボブにする。

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