見出し画像

3spoons vol.10 ー吹くーthe 1st spoon_UNI

文芸ユニットるるるるんによるツイッター400字小説 3spoons

いつものミントさん


いつものカフェのカウンターにいつものミントさんがだらしなく座っている。気づかないふりをして、すこし離れた席に着く。鰈を美女にしたらきっと彼女の姿容だ。色素の薄い顔にそばかすを散らし、ふわ、とまつ毛に彩られた目元。ココアを、とマスターに頼むと、ほほえみながらミントさんがこちらに伸びてくる。泡のたつ透明のグラスを右手に握りしめていて、いつものことだ、なにを飲んでいるかはわからないが酒だろう。
「またつまらないもの頼んでるね」
私は見つけてもらった嬉しさをこぼさないように鼻で笑い、出されたココアをふうと吹く。
ミントさんの美しい唇を想像しながら、10 時のほうにスツールをまわす。背をむけるとこちらに興味を示す猫のように、彼女の気配が一歩近づいてくるのを右半身で感じる。グラスのミントを口に放り込んで数度噛み、私の右耳にふふと吹きこむ。目を閉じ、そのミント味の声が静脈にまわるまでをしばらく味わう。ふ。ふふ。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?