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化学物質管理の法改正対応について

こんにちは。ぷらいむです。

昨年(2022年)に改正された安全衛生法(安衛則)。
この改正により、化学物質管理のコンセプトが、法律で決められたルールを守る「ハザード管理」から自律的に管理する「リスク管理」へと変わりました。

改正されたルールも多いですが、順次、基準やガイドラインが出てくるので混乱しがち。

今回の note では、人事や総務など安全衛生を総括する部門の実務担当者が何をしておかないといけないのか整理してみました。


安全衛生法改正の背景

世の中にある化学物質は数多く、全世界では約1億200万種類、日本で使用されているものでも約7万種類ほどあると言われています。安全衛生法ではその中から特に人体に有害な影響を及ぼす化学物質を特定し、使用に関して規制をかけてきました。

一方で、化学物質の取扱いによって生じた休業4日以上の労働災害(労災)のうち8割が法による規制がかかっていない物質が原因であることが課題視されています。

こうした流れを受けたこと、そして、欧米ではすでに化学物質の自律的な管理が行われておりグローバルな流れに合わせることから、法改正に至りました。

何を対応しなくてはいけないのか

今回の法改正で注意が必要なのは、2024年4月1日までに色んなルールが段階的に施行されていくこと。
厚生労働省のリーフレットでまとめてくれています。

出典:労働安全衛生法の新たな化学物質規制(厚生労働省)

ただ、実務者としては、どうやって自社のルールやプロセスに落とし込んでいくか?と考えた時に、これらの規制項目がどれが、どこと、どうつながっているのかを読み解いていく方が分かりやすいかもしれません。

ですので、以下に実務者視点で対応することをお伝えしていきます。

1.対象物質の把握

まずは、ラベルの表示やSDS(安全データシート)の交付対象、リスクアセスメントの実施対象となる化学物質があるのか把握するところがスタート。

今回の法改正では「GHS分類で危険性・有害性が確認されたすべての物質を対象とする」となったことから、対象物質が現在の674種類から約2,900種類に拡大されていきます。

また、「リスクアセスメント対象物質」に統一し、リストにあがった化学物質は、ラベルの表示、SDSの交付も含めて実施を義務化されています。

出典:化学物質による労働災害防止のための新たな規制について(厚生労働省)

対象物質の拡大にあたっては一気に増やすのではなく、毎年追加。
厚生労働省HP「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」の「対象物質の一覧」に掲載されているので、該当する物質があるか確認していきます。

すでに2026(令和8)年度施行までの対象物質は公開されているので、もし、該当する物質がある場合は以降にお伝えするSDSの取り寄せやラベルの貼り換え、リスクアセスメントの実施など、事前に計画的に実施しておくことをおすすめします。

施行期日と拡大される化学物質 ※2023年10月1日時点
2024(令和6)年度施行 → 234物質
2025(令和7)年度施行 → 1,504物質
2026(令和8)年度施行 → 779物質
以降、毎年50~100物質を追加 → 改正後施行までの期間は2年程度

2.SDSの確認とラベルの貼付・貼り換え

SDS(安全データシート)やラベルは、化学物質を取り扱う人が事故に遭わないように情報を伝達する重要なツールです。

単に「知らせる」だけでなく「理解する」ことに重きをおくという考え方。
これにより、SDSの通知事項の追加や定期的な見直し、ラベルの表示内容の追加や小分けして使用する場合の規制が加わりました。

なお、ラベル表示についてはできていない場合には罰則(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が設けられていますので、確実に対処しておきたいところです。

SDSには罰則はないですが、法違反には変わりないので行政指導の対象となります。
SDSは、提供する側と提供を受ける立場の両方がある場合があり、たとえば、商社等も提供する側として法規制の対象となります。
ここのルールについてはしっかりとキャッチアップしておきたいところです。

施行期日
2022年5月31日
 ・SDSの通知方法を電子メール送信やHP閲覧など柔軟化

2023年4月1日
 ・SDSの通知事項「人体に及ぼす作用」を5年以内ごとに変更がないか
  確認。変更がある場合は確認後1年以内に更新して通知先に変更内容
  を通知
 ・ラベル表示対象物を他の容器に移し替えて保管する場合、その容器にも
  内容物の名称や危険性・有害性を伝達する

2024年4月1日
 ・SDSの通知事項に「(譲渡提供時に)想定される用途及び当該用途に
  おける使用上の注意」を追加
 ・SDSの通知事項の「成分含有量」を「重量%」で記載するように変更

3.リスクアセスメントとばく露低減措置

自律的な管理の基本は、取り扱う化学物質のリスクアセスメントとその結果に基づくばく露低減措置にあります。

これまでもリスクアセスメントの実施は義務だったので、使用前や変更がある時といった実施のタイミングには変更はありませんが、

  • 使用するツールの変更(Create Simple)

  • リスクアセスメントの結果の記録作成と保管(最低3年)

  • 安全衛生委員会でばく露低減措置に関する報告・審議

といったことが加わっています。

また、ばく露低減措置で検討するのは以下のこと。

  1. 代替物等を使用する

  2. 発散源を密閉する設備、局所換気装置または全体換気装置を設置し、稼働する

  3. 作業方法を改善する

  4. 有効な呼吸用保護具を使用する

まずは曝さないようにすることが優先され、保護具の使用は一番最後にくるところがポイントです。
保護具を使用する場合は、特に皮膚や目に関連する化学物質を直接接触しないよう有害性に応じた保護具を使用することが求められています。

リスクアセスメント対象物質を多くばく露した場合、ばく露上限値を超えてばく露した場合には健康診断を実施し、記録を(5年間。がん原性物質については30年間)保存します。

なお、労災の発生またはおそれのある事業場について、労働基準監督署長から化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると判断された場合は、改善の指示が入るよう強化されました。

施行期日
2023年4月1日
 ・リスクアセスメント対象物質のばく露低減措置
 ・ばく露の状況や措置に関する労働者の意見聴取
 ・皮膚や目へ障害を起こす化学物質への直接接触の防止 ※努力義務
 ・衛生委員会の付議事項の追加(意見聴取関係)
 ・リスクアセスメント結果等に関する記録の作成と保存

2024年4月1日
 ・ばく露上限値が設定されているリスクアセスメント対象物質を
  基準値以下に抑えること
 ・ばく露の状況や措置に関する労働者の意見聴取(ばく露上限値関係)
 ・皮膚や目へ障害を起こす化学物質への直接接触の防止 ※義務化
 ・衛生委員会の付議事項の追加(ばく露濃度基準、健康診断関係)
 ・化学物質による労災発生事業場等への労働基準監督署長による指示


4.がん把握の強化

化学物質の中でもばく露することで、将来のがん発症の原因となりうる危険度の高いもの(がん原性物質)があります。

化学物質の管理は「使用前」の予防に力点をおいていますが、がん原性物質については日常の作業記録を残すことが求められています。

作業記録の保管期限は30年。
長期にわたるものなので、どこの組織で持つのか?どんな形(紙・データ)で保管するのか?考えておくことがポイントとなります。

なお、同じ事業場内で1年に複数の労働者が同種のがんにり患した事実があった時、医師の意見を聴いて業務起因性が疑われる場合には所轄の労働局に報告します。

把握にあたっては、本人からの申し出や休職情報などから把握し、プライバシーも配慮します。

施行期日
2023年4月1日

5.化学物質管理者、保護具着用管理責任者の養成

実施体制を確立するためにも化学物質管理者、保護具着用管理責任者を選任することが義務化されました。

この化学物質管理者、もともとは衛生管理者から指示を受けて活動する立場としていました。
今回の法改正で化学物質管理者に権限を持たせて管理体制の強化をねらっています。

施行期日
2024年4月1日

6.安全衛生教育の内容拡充

法定の雇入れ時教育や新任の職長や作業者を監督する人に実施する職長教育について、拡充されました。

雇入れ時教育については、業種によって認められていた省略項目が廃止。
すべての業種ですべての指定項目を教育します。

職長教育については、食料品製造業、新聞業、出版業、制本業、印刷物加工業の業種が対象に追加されました。

施行期日
2023年4月1日
 ・職長等に対する安全衛生教育が必要となる業種の拡大

2024年4月1日
 ・雇入れ時教育の拡充

特別規則関係の改正について

今回の安全衛生法(安衛則)の改正にあわせて、特別規則(特化則、有機則、鉛則、粉じん則)も改正されました。

ポイントは作業環境測定。
作業環境測定の結果が悪ければ(第三管理区分に区分)外部の専門家の意見を聴き、呼吸用保護具によるばく露低減措置について強化されました。

一方で作業環境管理やばく露防止対策等が適切に実施されていると認められる場合は特殊健康診断の頻度を緩和してもよいとなりました。
健診の頻度の緩和については労働者の受診希望(健康不安)や化学物質以外の特殊健康診断の頻度もあるので、自社のルールやプロセスを決める時には総合的に判断すると良いと思います。

これらの特別規則は、改正法施行後5年を目安に廃止も検討されていますので、今後の動きに注視しておくと良いです。

施行期日
2023年4月1日
 ・管理水準が良好な事業場の特別規則等適用除外
 ・特殊健康診断の実施頻度の緩和

2024年4月1日
 ・作業環境測定結果の第三管理区分事業場の措置強化

まとめ

化学物質管理のルール見直しは、化学製造メーカーをはじめとする特定の業種の話でなく、化学物質に関わるすべての業種に関わってくるものとなりました。

例えば、SDSの通知は提供元と提供先がルールについて共通認識をもたないと機能しないと思います。
時間がかかるかもしれませんが、少しずつでも定着していけるといいですね。

※法改正の最新情報は、
 「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について(厚生労働省)
 から確認できます。

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