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高尾歳時記 2024年3月23日

高尾山では、タカオスミレが開花しています。

タカオスミレ

タカオスミレは、1928年植物学者中井猛之進博士が高尾山で発見し、ヒカゲスミレの変種として発表。そののち、変種ではなくヒカゲスミレの一品種、すなわち同種の色違いであると再分類されたものです(学名:Viola yezoensis var. yozoensis f.discolor (Nakai) Hiyama ex F. Maek = 「Nakai」は中井猛之進博士、「Hiyama」は桧山庫三氏)。

ヒカゲスミレは、その葉に鮮やかな緑色から茶褐色ないしは黒紫色までかかる色違いがあり、また、葉の両面とも濃い色のものや、表側だけ濃いものなど様々な個体が存在します。このうち、葉の両面ともに色の濃いものをタカオスミレと呼びます。高尾山で発見されたり、高尾山の名を冠した植物は様々ありますが、そのうちのひとつです。

最新の植物分類学ではヒカゲスミレと同種の色違いという結論ですが、大切な高尾の宝物として大事にしたいと思います。なお、高尾山では本種の標準とされるヒカゲスミレも観察できます。

発見当初は、高尾における特有の地理的変異と認識されたのでしょうか。また、もしかしたら高尾の固有種ではないか、という期待が込められたのでしょうか。事実としては、その後同様の色違いが日本各所で発見され、現在は単なるヒカゲスミレの葉っぱの色違いという結論となっています。

ヒカゲスミレは葉の色合いにバリエーションが多く、全体が緑色のものをヒカゲスミレ、葉の表面が茶褐色で裏が緑色のものをハグロスミレ、葉の両面共に黒紫色のものをタカオスミレと呼び分ける向きもあるようですが、実際はこれらの中間的な色合いのものがあったり、同じ株からヒカゲスミレとハグロスミレの特徴を持つ葉が出ていたり、最初は濃かった葉の色が時間の経過とともに徐々に抜けて緑色になったりと、厳密にどれがどれ、と識別できない個体が多く存在します。したがって、それら全てをヒカゲスミレと呼んでもさしつかえありません。高尾では上述のさまざまなバリエーションの全てを観察できます。

タカオスミレはごく限られたところにしか咲いていませんが、咲いているところでは集団を作ります。

固有種の夢は叶わないとしても、そこらじゅうに咲いているわけではなく、見つけるにはそれなりの知識が必要です。希少な高尾の宝物として大切にしたいと思います。

高尾ではほかのスミレも次々に開花しています。本日見かけたのは、アオイスミレ、タチツボスミレ、ナガバノスミレサイシン、ヒナスミレならびにエイザンスミレ。

この中でも特に好きなのがエイザンスミレ。高尾の山でエイザンスミレを初めて見た時、その力強さと美しさに衝撃を受けました。ひとつひとつの株は大きく、花の大きさはスミレの中でも最大級。その大きな花が、本種の最大の特徴である大きく切れ込みの入った葉を従えた姿は凛々しくそして優美。

アオイスミレ。高尾で咲くスミレのなかでは、春真っ先に開花します。麓や里山のみならず、山中も含め、高尾ではあちらこちら、広範囲で観察できます。山中ではポツポツとまばらに咲いていますが、里山ではしばしば巨大なクラスターを作ります。
タチツボスミレ。
同じくタチツボスミレ。アオイスミレと同じぐらい、高尾ではもっとも一般的なスミレです。麓や里山のみならず、山中でも広範囲で観察できます。個体数も極めて多い。
ナガバノスミレサイシン
同じくナガバノスミレサイシン。こちらも麓や里山から山中にわたって、広範囲で観察できます。ですが、アオイスミレやタチツボスミレに比べると個体数は少なく、また、姿形や色に様々なバリエーションがあり、同定が比較的難しいスミレです。正確に同定するには、花や葉、そして葉が完全に開く前に開花するなど、その生態も含めて検討する必要があります。ですが、慣れてくると花を見るだけですぐに識別できるようになります。
ヒナスミレ。花が完全に開ききる前の姿。
同じくヒナスミレ。ヒナスミレは、麓や里山で見かけることはほぼなく、山中で観察できます。わかりやすい特徴はその葉で、基部が葉の付け根に丸く囲われて、葉脈が太くはっきりしています。
慣れてくると、可愛いお雛様のようなその佇まいを見るだけですぐに識別できるようになります。
エイザンスミレ
同じくエイザンスミレ。エイザンスミレは切れ込みの深い葉がいちばんの特徴で、同定は比較的容易です。また、エイザンスミレはスミレのなかでもひときわ大きな花を咲かせることも特徴のひとつです。桃色の花が可愛いのですが、ほかのスミレと比べるとその凛々しさが際立ちます。

東京の桜の開花発表はまだですが、高尾ではひと足先に、大光寺の江戸彼岸桜が開花しています。

樹齢200年を超えるという大光寺の江戸彼岸桜。開花しています。京王線高尾駅のプラットフォームより。
江戸彼岸桜は開花時に葉が開かない特徴があり、全身が花の淡い桜色に染まる姿は白眉です。この特徴は、江戸彼岸桜と大島桜を交雑したソメイヨシノにも受け継がれています。
同じく大光寺の境内には枝垂れ桜もあります。こちらも開花していました。
江戸彼岸桜も枝垂れ桜も、おそらく向こう一週間ほどで見頃を迎えると思います。

満開の大光寺の江戸彼岸桜は、それはそれは見事です。ソメイヨシノの見頃が待てない方は、ぜひお運びください。

今日は春の寒の戻りで、早朝の出発時点の高尾山口駅前の気温は2℃。空は厚い雲に覆われて、日中の日差しはほとんどありませんでした。午前中はときおりぱらっと雨が降ってきましたが、稜線上は雪だかあられだかわからないぐらいの硬めの白い粒がパラパラ降ってきて、午前10時時点の高尾山山頂の気温は4℃。寒い一日でした。

ですが、高尾の春は着実に進んできています。お花の多いところを巡ってきました。

早朝の高尾山口駅前。今日は一日中曇り空でした。
小仏川の河原では、ヒメオドリコソウがいっぱい咲いていました。
あっ!キバナノアマナが咲いていますね。今年は早めのお目覚めです。
なんと、ヤマエンゴサクも開花していました。こちらも、例年よりお早い目覚めです。
アズマイチゲはピークを迎えています。
こちらはキクザキイチゲ。陽のあたる暖かいところでは開花が進んでいますが、日陰では葉っぱが出たばかりで、もう少し先でも楽しめそうです。
ユリワサビはあちこちでお花を咲かせたその姿を観察することができます。
ヨゴレネコノメ。この時期、高尾の山中ではあちこちで観察できます。
山の斜面にはこのように、地面に染み込んだ雨水が流れ出る場所があちこちにあり、そこでは常に水が供給されます。この時期、流れ出た水がたまるくぼみから「ケロケロ」となく声が聞こえてきます。タゴガエルのオスの、求愛の調べです。タゴガエルはこのようなくぼみに潜んでいて、その姿を見かけることはほとんどありませんが、メスは歌声がお気に召すとくぼみに入って、ふたりは結ばれるのだとか。
カントウミヤマカタバミがもう花をつけています。開花直近ですね。例年よりかなり早いです。
ニリンソウは次々に開花しています。
高尾には、日影沢と西山峠にニリンソウの大群落があります。今年も楽しみです。
高尾山山頂に到着。空は厚い雲に覆われて、富士山はお預け。
同じく高尾山山頂から、丹沢主脈方面。こちらも眺望は限定的。
(小仏)城山山頂の梅の花はピークを過ぎていますが、まだ見頃です。
一丁平の桜の開花はもうちょっと先。
シュンラン。個体数は比較的多い。
高尾山6号路ではヤマルリソウが元気に咲いています。
高尾山6号路のハナネコノメはまさに見頃のピークでした。
高尾山ケーブルカー麓駅(清滝駅)の桜の蕾は開花直前。秒読みです。

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