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人生の交換 超短編

 大野博士はある装置の開発に成功した。

 大野博士の成功を間もなくして博士の下に串木野と言う男が訪ねて来た。


「大野博士、この装置さえあれば大儲けできますよ。是非私に協力させてもらえませんか?」

 串木野は大野博士にそう話を持ち掛けた。

 初めのうちは大野博士も串木野の申し出に首を縦に振らなかったが串木野の猛烈なアピールにより遂に博士は同意した。

 そうと決まれば串木野は早速広告を作り大々的に宣伝した。

 そして串木野の言った通りに商売は大当たりし、2人はあっという間に大金を手にした。

 串木野の作った広告の内容はこういうものだった。

『あなたの人生交換してみませんか?』

『大野博士の長年の研究の結晶がここに!この装置で体ごと入れ替わってみませんか?全く新しい明日を提供致します!他人と人生を交換出来るのは世界中でここだけ!!今ならたった50万円で叶えます!』

 少し眉唾臭い気もしたが、思いの外この広告には最初から反響があった。

 作業の内容は説明すると至って単純だった。

 まず応募してきた人を串木野が入念に面接し、その人のデータを作り上げる。
 そしてそのデータを基にリストを作成する。イメージするなら結婚相談所のリストに近いかもしれない。

 そして、そのリストの中から交換したい人生を選んでもらう。
 選ばれた相手が交換に応じれば成立するといったものだ。

 値段の50万円は少し安すぎる気もするが、そこにも串木野の思惑があった。まずは門戸を広くする必要があった。

 客層は様々だった、一番多かったのが金持ちの老人。

 若者相手と交換してもらい人生をもう一度やり直したいというものだった。

 だが、これは逆に若者側の需要が少なく成立しなかった。

 他には転職したい人や、性転換したい人、人生に単純に飽きた人、色々訪れたがそう簡単には成立しなかった。

 やはり他人と人生の交換をするにあたっては、相手を選ぶ敷居は高くなりがちになる。

 串木野はだからこそ入り口の値段を下げて少しでも応募が来るよう画策したのだ。

 成立し易かったのは、いわゆる普通の人物だった。

 お互いに普通なので需要と供給がマッチし易かったのだ。

 なぜ普通の人物がわざわざ人生を交換したがるのかと言うとそれは主に失恋などの失敗だった。

 同じ様な条件で心機一転やり直したいという事なのだろう。


 串木野は契約書にサインしてもらう前に丁寧に注意事項の説明をした。

「不要なことかもしれませんが万が一、交換後に元の人生に戻りたいと思ったとしても、その時に相手が戻りたくないと言えば成立致しません。
仮に成立したとしても装置の使用量の料金は一切返済出来ません。
更に再度交換の場合は装置の使用量が追加で500万円かかります。
つまり元の自分に戻る場合には別途500万円が発生するという事です。

まぁ無い心配だとは思いますが、、それら全てを承諾頂けたならここにサインをお願い致します。」

 ここまでが串木野の仕事で、後は大野博士が装置を起動させ互いの人生を交換させるだけだ。


 だが、大体の人が1カ月、長くても3カ月もすれば元の体に、元の人生に戻して欲しいと言いに来る。

 結果、串木野と大野博士は全ての人から550万円を徴収する事が出来た。


「大野博士、私の言ったとおりになったでしょう?濡れ手に粟とはこの事ですよ。」串木野は札束を数えながら言った。

「確かに。私が本来創った装置はただリアルなバーチャル世界を体現する機械なのに、、いやそうは言っても現実世界とは区別が付かなくなる優れた物だが。」

「だからこそですよ、せっかくの装置だから私の研究してきた心理学を活かしてみたかった。
 私たちは人体を交換するなんて大それた装置など何一つ用意せずに。シュミレーションで人生を往復させるだけで良い訳です。

 人間と言うのは大体が隣の芝の方が青く見えるものですが、大体の人が飽きやすいし、ホームシックにかかる生き物なのですよ。」


「なるほど。だから、みんな結局自分の元に帰りたがる。そして自分自身の人生を500万円で買い戻す訳だ。そう考えれば自分自身の人生の素晴らしさに気付けたのだから安い買い物だろう。」

二人の博士は実験の成功の証明に祝杯を上げた。

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