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こわいおもいで

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一部創作のホラー短編集です。 供養のためにときどき書いてます。
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呼ばれるひと

幽霊なんていない。
多くの人がそう言う。そんなものは気のせいだ、錯覚だ、幻想だ、と。
私もそう思っていた。

あんなことに遭うまでは。

大学時代、私は1歳年上のハルという女性と特に仲が良かった。
彼女は金髪のバンギャで、耳や顔にいくつもピアスを開けている上にパンクなメイク。すらっとした長身から伸びる細い四肢と目の下の隈がどこか狂気を感じさせて、ぱっと見ただけだとかなり近寄りがたい印象だったと思う

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二度と行けない神社

二度と行けない神社

暑い夏の日だった。

私が9歳だったあの夏、人生で一番不思議な出来事に出会った。
誰にも信じてもらえない話だけれど、間違いなく本当にあった出来事。

あの夏、私は神様に出逢った。

* * * * * *

夏休みの自由を持て余していた9歳の私は、当時祖母の家に住んでいた。祖母の家は山のすぐ近くで、田舎だったこともあって遊び場と言えば山か海しかない。でも、私は山も海も大好きでよく遊びに行っていた。

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『トンネル』―帰りしな

『トンネル』―帰りしな

「…さっきのじーさん、何やってん……」

止まった車のなかで、サトシがつぶやく。みんな思っていることだったが、誰も応えられるはずもない。放心状態だった。

しばらく沈黙が続いた。やがて、ハルが涙声でつぶやく。

「あのトンネル…なんかわからへんけど…やばい気配がいっぱいしてた…トンネル入ったときから、ずっと見られてた……車のなかに入ろうとしてて…」

それ以上は言葉にならないのか、ハルは押し黙って

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『トンネル』―行きし

『トンネル』―行きし

この季節になるといつも思い出す。
私が大学3年生だったころ、バイトのみんなで行った肝試しのことを。

当時のバイト先で、男女六人で仲が良かった。
私、バンギャのハル、かわいい系のユミ、インテリのケン、野球好きのユウ、お調子者のサトシの六人で過ごすことが多かった。春には花見に行き、夏にはビアガーデン、秋はフットサル、冬はスノボに行くのが恒例。
それ以外にも、仕事終わりにはしょっちゅう飲みに行って、大

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『閉め忘れ』

『閉め忘れ』

しつけに厳しかった母から言いつけられていたことのひとつに、「部屋の戸を閉めて寝ること」というのがあった。
よくわからないルールだったが、そういうものなのだろうと律儀に従っていた。私としても、狭い家のなかで戸を一枚隔てるだけでも、自分の空間が守られるような気がして、都合がよかった。

ある日、母が夜勤に出ることになり、私はひとりで夜を過ごすことになった。小学2、3年生のころだったと思う。当時からどこ

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『カーナビ』

『カーナビ』

私が3歳か4歳だったころ、曾祖母が亡くなった。
遺影で初めて顔を見た(たぶん覚えていないだけで、曾祖母に会ったことくらいはあっただろう)曾祖母の死を理解できていなかった私は、通夜の早々に眠ってしまい、母は眠る私を車に乗せ帰宅することにした。
ここからは、後になって母から聞いた話だ。

曾祖母の家は自宅から遠い内陸部にあり、行くにも帰るにも山をいくつか越えなくてはならない。
方向音痴な母は、カーナビ

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