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記事一覧
【プリズンライターズ】連載・獄中小説・獄楽/そしてまた冬 Vol.6
獄中小説・獄楽/春 Vol.5 こちらから
「おいマサ、報知器を押せ」、、、報知器とは、職員に用件があるときに居室内からその旨を知らせるボタンを押し、巡回職員に立ち寄ってもらうためのものだ。マサが立ち上がり、扉の横にあるボタンを押した。
「もしかして、インフルじゃね?」とユウジが言った。確かに、他工場で何人か発症しているらしい。
5分後、職員がきた。「用件は?」と訊かれた俺は、「オヤジ、中田さ
【プリズンライターズ】連載・獄中小説・獄楽/そしてまた冬 Vol.5
獄中小説・獄楽 Vol.4 こちらから
1年が経つのは年々早く感じる。56歳の俺からすると56分の1、32歳のユウジからすると32分の1、ということで同じ1年でも俺の方が早く感じるのだとユウジは言う。確かに、15歳のときの1年とは比較にならないほど早く感じる。が、ユウジの言ってることは正しいのか?
月日が経つのが早く感じるのはいいような、悪いような、複雑な気持ちだ。
前回の6月にあった転室は上手
【プリズンライターズ】獄中小説・獄楽/番外編「自己紹介」
小説家を目指しているA348こと楠 友仁(くすのき ともひと)です。
私が「プリズンライターズ」に原稿を応募しようと思った動機を順を追ってお話させていただきたいと思います。
私が捕(パク)られたのは平成8年で、今から27年前となります。
末決では10年を過ごし、今のムショでは18年目を迎えました。
事件では被害者2名の命を奪う結果となりました。
私には他に共犯が3人いて、主犯は死刑判決で
【プリズンライターズ】連載・獄中小説・獄楽/春 Vol.4
獄中小説・獄楽/春 Vol.3こちらから
俺は2週間の考査期間を終えた。そして幹部職員から金属工場への配役を告げられた。工場へ向かう途中、中庭に、俺の〈初陣〉を祝うかのように桜の花が満開に咲き誇っていた。
「よし、見栄もプライドも捨ててバカになってやる」俺はその桜に向かってそう誓いを立てた。
1年ともたなかった。いや、半年も、、、。最初に入った共同室は問題なかった。が、転室後が酷かった。俺よ
【プリズンライターズ】連載・獄中小説・獄楽/春 Vol.3
獄中小説・獄楽 Vol.2こちらから
中庭の満開に花を咲かせた1本のソメイヨシノ。それを取り囲むように敷かれたゴザの上で、1人1個ずつ給与された10円饅頭を口の中に放り込む。
つぶ餡と、微かに感じる発酵の風味を逃すまいと、俺は、呼吸を、止めた。
そして少しずつ鼻から息を抜く。「ちくしょう、旨めぇなぁ」
年に一度のイベントは文字通り〈花より団子〉、、、俺たち懲役にとってこの観桜会は、今年はど
【プリズンライターズ】連載・獄中小説・獄楽 Vol.2
獄中小説・獄楽 Vol.1こちらから
「ユウジさん、ジンさん、すんません、、、話に入ってもいいっすか」
食堂のテーブルで休憩しているため、嫌でも隣の会話が耳に入る。横から勝手に「それ違うよ」などとうっかり口を挟んでしまうと、「おいコラッ、てめぇと話してるんじゃねぇんだよ」と喧嘩になる。
マサの断りはそのためのものだ。
「おう、どうしたマサ?」ユウジがまだ2年目のマサに先輩風を吹かす。
33歳の
【プリズンライターズ】連載・獄中小説・獄楽 Vol.1
これだけ生活環境が悪いというのに、俺はまったく苦痛を感じていない。
なぜなら、共同室の煩わしい人間関係から暫く解放されているからだ。
共同室なら今ごろ、〈NHKのど自慢〉のラジオを聴きながら、今週のチャンピオンを当てる賭けごとに付き合わされてすいるに違いない。
そういえば、俺はいつから〈共同室〉なんて言葉を、何の躊いもなく口にできるようになったのだろうか。
「どうせアレだろ、、、全国にあるこの