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会話の記録3

 感覚の話をするのが、とても好き。わたしの輪郭が溶かされて、目に見えないものとして存在できる気がするから。

この日のつづき

「何か今ここの気温湿度不快な感じだ」
「エアコンしてないの?」
「エアコンしてるから、寒くなってきたってこと」
「愚かだね」
「愚かなんだよ。私ほんと愚かなんだよ。ちょうどいいってないよね、どこにも」
「ちょうどいいないの?ちょうどいいっていうのは、何も感じてない時なんじゃない?不快とも良いとも思ってない時じゃないの?」
「そうだね。そうかもしれないけど、でもそれは記憶にないから、不快な記憶しかないね」
「それは記憶にないから…」
「何も感じてない は 記憶に残ってないから」
「なるほどね」
「うん。ちょうどいいは存在しなかったんだ」
「そうだね」

「虚無感を覚えたりしますか?最近」
「虚無感がわからないんだよ、ってことが分かったんだよ、最近」
「心がザワザワすることはありますか?」
「ないね」
「心がザワザワしたことはありますか?」
「ザワザワって何?」
「ザワザワするんだよ」
「ザワザワすることあるの?」
「めっちゃある」
「どういうとき?」
「わからない。離人感かもしれない」
「人といるとき?」
「人といるときもそうだし、一人でいるときもそうだし。」

「昨日の夜は何食べたか覚えてる?」
「覚えて………る」
「覚えてるんだ」
「思い出した。思い出せないかと思ったら降りてきた、記憶が」
「5分前に何考えてたか覚えてる?」
「覚えてない!」
「5分前が分からない?」
「そう。今それ思った。」
「そうなんだよ。これ、何が違うの?」
「昨日の方が広いよね。違うか…」
「5分前は瞬間的すぎる?」
「分からない。それも考えるけど、先に今思いついたこと話していい?」
「はい。」
「今日ってさ…、今にも過去にも未来にもなるよね」
「まあね」
「それだけです。」
「え?今日って、昨日からみたら…とかそういうこと?」
「違う。『昨日さ』って言ったら、過去の話でしかないでしょ?『明日さ』って言ったら、未来の話でしかないでしょ?『今日さ』って言ったら、過去の話をするのか未来の話をするのか今の話をするのかその後まで聞かないと分からないんだよ。」
「なるほどね。それは面白い。それはいい話だ。」
「それで今何の話だっけ?あー5分前と昨日の夜は何が違うのか、か。」
「うん」
「んー何か時間の範囲が広いよね。昨日の夜の方が」
「うんうん。そうだね。あと、何食べてたかと何考えてたかでは違う話か」
「そうだね。」

「夢の中で考えたことは、考えたことになる?」
「夢の中では考えられないからね」
「考えられるんだって。夢の中で思うことがあってさ、起きてメモをすることがあるでしょ?」
「ないんだよ。それは起きたその瞬間に考えたことなんだよ」
「いやいやいや。わかんない?この感覚」
「全然わかんない。」
「夢の中で考えることないの?」
「ない」
「明晰夢みたことないの?」
「ない」
「夢の中だなって思いながら、自分の意思で動ける夢だよ?」
「夢の中だなと思わない」
「一回もない?これしようと思ってできる夢」
「ない」
「悲しいね」
「悲しい…?」
「悲しいよ」
「私夢好きじゃないんだよ」
「なんで?」
「いやな夢はいやな夢だし、良い夢は起きたときに絶望しちゃうし」
「なんでそんなに悲劇のヒロインなの?」
「だってそうなんだもん」
「そうなんだ」
「どちらかといえばね」
「いい夢だったなってことないの?面白い夢楽しい夢ないの?」
「ない」
「それは感情を全部今にもっていってるからじゃないの?」

「思わず考えているような気もするし、考えたくて考えているような気もするし、考えたくないけど考えているような気もするし、考えたくないことを考えないために考えなくてもいいことをわざわざ考えているような気もする」
「誰の言葉?」
「私です」
「だよね。そんな気がした。このくどい感じが」
「そう、それ自分でも思っててさ。もうちょっと分かりやすく文章を書いた方がいいんじゃないかって」
「いやいいんじゃない?くどいのがいいんだよ」
「意味わかんないことを、意味わかんなく書くのも好きなんだよね。でも伝わらないんだよね、君くらいにしか」
「なんか読んでてさ、そこいいなって思うときって、やっぱり全部を語ってない感じがするときなんだよね」
「うん」
「いや違うな。えーっとね、これはこう…分かんないんだよ、これ説明できないな。そこいいなって思うのはさ、そのみるときみるときによって良さが違うんだよ。それは多分、くどい感じの言葉でしか出ないと思う。」
「ポエジーだね」
「みる人によっても違うし。そういうのにしかないよさがある」
「そうなんだよね。説明することじゃないこともあるんだよね」
「そう。野暮だよね。…野暮って言葉最近好きなんだよね」
「そういうの面白いよね」
「そういうの面白い?好きな言葉があるのが?」
「私もあるもん。」
「野暮…風雅な心に欠けていること。また広く、洗練されていないこと。そういう人。」
「私この間君が使ってた 寸分違わず って言葉好きだったよ」
「なんで?」
「なんか、かっこいいじゃん」
「大人っぽいって言ってたね。違わず っていうのがいいんでしょ?」
「そうだね。違わずってだって、ちがわずって書いて、たがわずって読むんでしょ?すごくない?」
「いや、まー分かるけど。確かにあのとき、ちょっとかっこつけて言った気もするし。」

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