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会話の記録6

「やっぱり、悲しいは美しいものとされてるんだよね」
「ほう」
「悲しい物語が人気になったり、需要があったりするのは、その悲しみの中に人が美しさを見出してるからで」
「うん」
「それで、そういう物語の悲しいシーンでは音楽だったりセリフの言い回しで美しく演出もされるわけ」
「うん」
「でも実際に自分が悲しいときってさ、その悲しみに美しさは見出せないじゃん」
「そうだね」
「だから悲しいは本当は美しくないんだよ」
「はい」
「だけどずっと悲しんでちゃいけないらしいんだよ」
「なんで?」
「ずっと悲しいままだと時間が止まってしまうから」
「うん」
「それで、そのことを誰が気にするかって言ったら周りが気にするんだよね」
「たしかにね」
「だから悲しい人は励まされるし、悲しい人は誰かから手を引っ張られて悲しみの中から取り出そうとしてもらえる対象になる」
「うん」
「だけど違うんだよ」
「違う?」
「悲しいは悲しいでしかないんだよ」
「何が違うの?」
「悲しい気持ちにさ、絶対なるじゃん。みんな悲しくなったことってあるじゃん。それにこれから先、悲しい気持ちになる瞬間がくるであろうことも予想してる」
「そうだね」
「でも時間が止まっちゃいけないでしょ?」
「なんで?」
「置いてかれちゃうから」
「そっか」
「だから悲しみを受け入れたり乗り越えたりしなくちゃいけないらしいんだよ」
「うん」
「そのための一つの方法として、悲しみを美しいものとする。そして主人公になる」
「主人公になる?」
「主人公になることは悲しみを受け入れるための一つの方法なの」
「なるほどね」
「そしてこの悲しみには意味があったんだというふうに思い込む」
「うん」
「そんなこんなで、悲しいは美しいとされるようになったのかもしれない」
「うん」
「だけど、そういうどうしようもない気持ちをどうにかしようともがいているのはたしかに美しいかもしれない…とも思う…」
「確かに、本当だね」

「大人になってしまったのか、君は」
「何ででしょうか」
「君は、自分が世界の中心だと信じて疑わない人じゃなかったっけ」
「いや、どちらかといえば今もそっち側だけどね」
「そうなんだ。でもそうじゃないかもしれないとも思いはじめたということ?」
「うん。そうじゃなかったときの絶望ったらないけどね」
「ふーん」
「君はどう思うの?」
「私は…私以外にも世界には存在してるとは思ってるけど、見えてないものとか知らないものは無いに等しいと思い込んでもいいんじゃないかとは思ってるかも」
「なるほどね。無いに等しい…そうなんだ。…と思ってる、だけなんだ」
「無いに等しいと思ってる、ってことは、本当はあるけど…って思ってるかどうかってこと?」
「そういうこと」
「んーでもなんか、わからないっていうだけで、歩けば歩くほど知らない世界はあるのかもしれないとは予想はしている」
「そうだよね」

「独り言ってさ、なんで変なの」
「…発する必要がない。頭の中で話せばいいから?」
「発する必要がない?でも発しても別に悪くはないよね」
「悪くはない。でも一人で考えてることを下界に出すのが…」
「恥ずかしい?」
「その意味が矛盾しちゃうからじゃない?独り言って、一人で考えて話すってことなのに、世に向かって話してるからじゃない?」
「なるほど…。まってそもそも独り言って…なに?一人でいるときに口に出していることも独り言になるよね」
「うん。それも独り言じゃない?」
「そうだよね。君も独り言言うでしょ?一人でいるときの独り言」
「言うね」
「だから、人は普通は独り言を言うんだよ。でもそれをわざわざ…」
「人前にいると独り言は独り言じゃないの?また違う独り言になるってこと?」
「独り言は独り言なんだけど…いや、独り言は悪くないんだよ」
「うん」
「悪くないし、誰もいないときに独り言を言っちゃうってことは、独り言を言うのは自然なことなんだよ」
「うん」
「だけど他人がいると独り言を言わないのは、わざわざ自然なものを我慢してるってことになってる」
「みんながみんな独り言って話すの?」
「わかんない」
「独り言…まずさ、頭の中で考えるじゃん。それを出したら独り言になるわけでしょ?」
「うん」
「言葉にして出すってことは、何か意味があるから口に出してるんだよね?口に出すってことは、例えば伝えるとか…自分に伝えるのじゃダメか」
「うーん」
「口に出すってことが人に向かってるからじゃないの?」
「人に向かってはないんじゃない?ただその場にいるだけでしょ?聞こえちゃっただけ」
「口に出すっていうことが本来、みんなの共通認識では人に向かって何か伝えるからじゃないの?…っていうことが口に出すっていう言葉の意味だから」
「一人きりならそれを自分に伝えているっていうのをさっき言ってたのか」
「そうそう。それが可能なのか。でも普通じゃないから。本当は別に頭で考えてればできるじゃん。口に出さなくても。」
「うん」
「だから独り言はおかしいんじゃない?自分に言っていたとしても、自分の頭の中で解決できることだから」
「聞こえるのが変ってことか…うーん」
「自分の外側に出す必要がないから」

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