コドモノミクスは現在進行中(だが人件費はケチられる)

どうも「シルバーデモクラシーの日本では高齢者向けの社会保障給付が優先されるために、子供向けにはかね が回ってこない(→出生率が低くなる)」と思い込んでいる人が少なくないようだが、そうではない。

地方公共団体(以下、地方)の歳出は1990年代後半から削減・抑制が続いているが、児童福祉費は聖域扱いされている。

総務省「地方財政状況調査」
総務省「地方財政状況調査」

これ👇は令和3年版地方財政白書から2009年度と2019年度を比較した記述。

市町村においては、児童福祉費が1.7倍、社会福祉費が1.4倍、老人福祉費が1.3倍、生活保護費が1.2倍となっている。これは、幼児教育・保育の無償化の実施、児童手当制度の拡充、自立支援給付費の増加等を背景に、児童福祉費及び社会福祉費に係る扶助費が、また後期高齢者医療事業会計や介護保険事業会計への繰出金の増加等を背景に、老人福祉費に係る繰出金が、それぞれ増加していること等によるものである。

総務省「令和3年版地方財政白書」
太字は引用者

そのため、児童福祉費の歳出合計に占める割合と対GDP比は1990年代後半から急上昇している。

総務省「地方財政状況調査」
総務省「地方財政状況調査」,内閣府

既に日本の児童・家族関係給付費の対GDP比はOECD平均に近づいている。つまり、コドモノミクスは未実現ではなく現在進行中ということである。現状から児童福祉費を倍増させるためには約10兆円が必要で、実現すれば北欧諸国を軽く超えてしまう。

では、現在進行中のコドモノミクスのこれまでの成果だが、出生率を高めた形跡はない。「児童福祉費を増やしていなければもっと低下していた」「明石市の水準まで増やすと効果が出る」という解釈も可能だが、海外の研究などを踏まえると、出生率を引き上げる効果は無視できるというのが妥当である。

厚生労働省
国立社会保障・人口問題研究所
横軸は女の出生年、縦軸は各出生年の女の各年齢までの平均出生数

この間の経済動向を振り返れば、コドモノミクスは「経済にプラス」と言うほどのものではなかったことも確実である(マイナスではないが)。

一点注目されるのは、児童福祉費の大幅増額は主として扶助費に充てられ、人件費は減らされていたことである(「適正化」とされていた)。

総務省「地方財政状況調査」

1999年度を100とした2019年度の値は以下の通り。

  • 名目GDP:105

  • 地方の歳出:98

  • 児童福祉費:236

  • うち扶助費:352

  • うち人件費:87

子育て世帯への経済支援は充実した反面、サービス提供者は我慢を強いられたようだが、このような対人サービスの賃金が抑制され続けたことの経済への悪影響は小さくないように思われる。


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