ChatGPT(汎用型AI)の時代に生き残る方法―求められる「知識観」の転換

 ChatGPT(https://openai.com/)の発展が凄まじい。「シンギュラリティはもうすぐ」という声が聞こえる一方、「どうすればよいかわからない」というのが一般的な感想ではないだろうか。2023年から汎用型人工知能の時代に入った。私たちが生き残るためには「知識観」を変えなければならない。

 インターネット登場以前の1995年までの知識観は、日本では、「伝統的知識観」であった。「伝統的知識観」とは、知識は固定的であり、正しくて、客観的に存在するという考え方である。したがって、たくさん知識を持っている(覚えている)人が偉いと思われていた。【暗記主義、習得主義、総量主義の教育】

 このような「伝統的知識観」は今も残っているが、1995年以降、特に2000年代以降、「社会構成主義」の知識観に変わった。「社会構成主義」とは、知識の客観性を前提とするのではなく、人間同士の相互作用によって意味や知識が構成され、人間が活動するという考え方である。現在、Googleの検索によって、知識を入手し、その意味について交流していることは、「社会構成主義的知識観」の現れである。【生きる力、探究学習、協働的な学びの重視】

 ところが、2023年に入り、汎用型人工知能(ChatGPT)の一般的利用が可能になった。ここで登場したのが「コネクティビズムの知識観(結合主義知識観)」である。コネクティビズムとは、インターネット上や各組織に知識のネットワークがあり、その多様な連結によって知識が構成されるのである。このような「コネクティビズム的知識観」は以前から指摘されていたが、ChatGPTの登場によって人々に明確に認識されるだろう。というのも、もはや、知識は人間の外にあり、AIが自立的に知識を連結できるからである。汎用型のAIは、多様な知識と意味を、人間との相互作用(例:ChatGPTにおける会話)を公開で形成する。【総合的・学際的・横断的立場からの汎用型AIとの対話と知識の連結、問いと意味の協働的な形成】

 人間はどうすればよいだろうか。専門職はAIに仕事を奪われるのだろうか。生き残るためにはどうすればよいのか。答えは簡単である。全員が仕事を奪われるわけではない。生き残る方の専門職になればよいのである。ではそのためのコツは何か。

 答えは、知識観を変容することである。分かりやすく言えば、人間がAIと会話する時は、「コネクティビズムの知識観」を活用し、人間同士で会話するときは、「社会構成主義の知識観」を活用することである。

 重要な点は、私たちが、AIとの会話において「コネクティビズムの知識観」を活用することである。自分の視点、問い、仮説を明確に持ち、そこから、専門的な部分、専門分化(細分化)された領域だけではなく、総合的に知識を把握(体系化)することである。もちろん、自分の仕事(専門性)が軸になるが、従来のように、細分化するだけでは十分ではない。より広く捉える必要があるだろう。
 
 例えば、カウンセラーなら、自分の臨床の技法や流派(細かいケース)に特化して知識を収集してきたであろうが、それだけでは十分ではない。AIのアシストを得て、哲学、思想、社会情勢など、関連する広い知識を得て、新しい視点、問い、仮説を創造することが求められる。単に知識を総合化するのではなく、自分の専門との関わりで知識を結合し体系化することが必要である。

 いずれ、「AIとの対話が上手」で「人間同士の意味形成」も得意な人が高く評価されるようになるだろう。例えば、原稿の作成が半ば「自動化」された時、その原稿にどのような「意味」「視点」「問い」を付けられるだろうか。本当は、これらの点について、今から、学校や大学で教える必要がある。

 つまり、視野を広くし、AIによる自立的な知識のネットワーク形成、連結、多様性(公開性)を看取し、対話、活用することがこれからの方途である。「自動化」社会における「自分にとっての”働くコツ”は何か」を意識し、追究するべきである。

 もう一つ参考に述べると、汎用型AIの登場によって、「『知識の遍在性』がどのように解消または変容したのか」、「『知識と権力』の関係がどのように変化したのか(階層的になったのか、フラットになったのか)」についても考えるとおもしろいと思う。

 2022年まで、知識、学問的知識、学術の体系は細分化の一途をたどってきた。今後、学問の領域構成が維持されたとしても、その内実は、横断的、学際的、総合的になっていくと思われる。専門職の職場や学会で、「社会構成主義」だけでなく、「コネクティビズム」が用いられていくだろう。そのことに、いち早く気が付いた人が、汎用型人工知能の時代に、生き残るだろう。

                     (©Dr Hiroshi Sato 2023)

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