水の声が聞こえない(朗読詩)

あの頃、君はずっと
流れる川を見つめていたね
白い水飛沫が跳ねるたび
怯えながら覗き込んでいた

気まぐれに沈む木の葉に
きっと君は嫉妬してた
せせらぎの音に
耳を澄ましては
泡沫に憧れていたんだね

いつだったか、君は
川の水面を指差して
口癖のように、呟いていたね
本当に怖かったんだ
本当に、本当に

石を探すふりをしていた僕も
本当は透明な水になりたかった
月を映す鏡のような
形のないものになりたかった

だけど僕には水の声が聞こえない
水道の蛇口を捻っても
金属の軋む音が鳴るだけ
上から下へ落ちる
重力の音を聞いているだけ

水の声が僕にはまるで聞こえない

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