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スティグマの社会学1

年が明けると、新しいことを始めたくなる。お正月休みで体力が余っているからですね。「今年の目標」と掲げて、夢のリストをSNSに投稿している人もいます。

僕も2021年の目標を、ついさっき決めました。年明けの勢いで、無茶な理想を掲げるのも後で後悔するし(多くは忘れ去られますが)、達成できそうなハードルを並べるのも面白くない。

できそうだけど、頑張らないといけない。ちょうどいいところを狙った目標。この一年継続したいことを始めたいと思います。


2021年は、翻訳に挑戦します。
扱う本は、「スティグマの社会学:烙印を押されたアイデンティティ」(原題:STIGMA : notes on the Managememt of Spoiled Identity)。

この本の日本語訳を少しずつ、noteに載せていきたいと思います。投稿日時から分かるように、半年ほど前に始めようと思って始め損ねていました。

この本は、アメリカの社会学者であるアーヴィング・ゴフマンによって、1963年に書かれました。1970年には邦訳されています。さらに、2001年には同訳者による改訂版が出版され、ゴフマンの著書としてはもちろん、社会学の古典としても広く知られている本だと思います。

僕は学部4年のときにこの本に出会い、心に突き刺さりました。卒業論文でも修士論文でも、直接的な先行研究ではありませんでしたが、思考の基盤にこの本があったのは間違いありません。

昨年大学院を修了したときに、偶然指導教官からオリジナル(英語版)を譲り受け、それから少しずつ読んでいました。せっかく丁寧に読み進めてきたので、形に残してみようと思った次第です。

半世紀にわたって読み継がれ、改訂版も出版されている本を、改めて翻訳する意味はどれほどあるか微妙なところです。一方、翻訳者の石黒氏に敬意を表した上で、新訳にも読みづらさがあるのは事実だと思います。これは翻訳の問題というより、そもそものゴフマンの文体の影響が大きいと、英語版を読んでいて感じます。

そこで、僕なりに分かりやすい訳を残していきたいと思うわけです。自分の英語の勉強と、ゴフマン理解を深める目的で、まずは一章を翻訳します。その後もできる限り続けたいです。
ただし、翻訳の正確さよりも読みやすさを重視します。かなり簡略化して、僕の解釈を加えた文章になると思います。場合によっては解説や補足をつけるかもしれないです。

前置きが長くなりましたが、早速今回は序章の前に置かれた一通の手紙の引用を訳したいと思います。

Dear Miss Lonelyhearts
I am sixteen years old now and I dont know what to do and would appreciate it if you could tell me what to do. When I was a little girl it was not so bad because I got used to the kids on the block makeing fun of me, but now I would like to have boy friends like the other girls and go out on Saturday nites, but no boy will take me because I was born without a nose — although I am a good dancer and have a nice shape and my father buys me pretty clothes.

ロンリーハーツ様
私は今、16歳です。何をすればいいのか教えていただけると本当にありがたいです。何をどうすればいいか、さっぱりわからないのです。小さな頃はまだましでした。近所の少年がからかってくるのにも慣れてしまっていたので。ところが最近になって、私も周りの女の子たちのようにボーイフレンドと付き合い、土曜の夜にはデートに行きたいと思うようになりました。でも、私を誘ってくれる男の子なんて、いるはずがありません。私には「鼻」がないのです。生まれつきです。でもでも、私はダンスもできて、スタイルも悪くないと思います。パパは素敵な服を買ってくれます。

I sit and look at myself all day and cry.
I have a big hole in the middle of my face that scares people even myself so I cant blame the boys for not wanting to take me out. My mother loves me, but she crys terrible when she looks at me.

自分の姿を見て、私は一日中泣いています。顔の真ん中にある大きな穴を見るのは、私だって怖いです。男の子たちが私をデートに誘わないのも仕方ないでしょう。ママは私のことを愛してくれていると思います。でも、私のことを見るたびに、ひどく泣いてしまいます。

What did I do to deserve such a terrible bad fate? Even if I did do some bad things I didn't do any before I was a year old and I was born this way. I asked Papa and he says he doesn't know, but that maybe I did something in the other world before I was born or that maybe I was being punished for his sins. I dont believe that because he is a very nice man. Ought I commit suicide?
Sincerely yours, Desperate

こんなに辛い目に遭うなんて、私は一体何をしたのですか。仮に悪いことをしたにしても、何も覚えていません。そもそも、私はこのような顔に生まれたのです。パパにも理由を聞いてみるのですが、全くわかりません。もしかすると、生まれる前、私の前世が何かしでかしたのかもしれません。もしくは、パパの罪を娘の私が受けているのかもしれません。でも、とっても良いパパだから、そんなことは信じられないのです。もう、私は死ぬしかないのですか。
敬具 絶望の淵にいる者より

次回(スティグマの社会学2)

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